医療保険やガン保険を検討していると、さまざまな「特約」がでてきます。特約は保険に追加できるオプションのようなものですが、必要なのか不要なのか判断するのが難しく、悩んでしまう人も多いのではないでしょうか。
この記事では、数ある特約のなかでも「先進医療特約」について見ていきます。そもそもどのような特約なのかはもちろん、医療保険の「先進医療特約」とガン保険の「先進医療特約」の違いなど細かいところまで解説します。よく知ったうえで、付けるべきか判断しましょう。
目次
そもそも「先進医療」とは?
先進医療特約は、その名の通り「先進医療を受けることになった場合に役立つ特約」ですが、そもそも「先進医療」とはどのようなものを指すのか確認しておきましょう。
先進医療は健康保険の対象外のため治療費が高い
先進医療とは、まだ健康保険の対象になっていない先進的な医療技術のことで、将来的に健康保険の対象とすべきかどうか評価している段階にあたります。
まだ健康保険が適用できない状態のものなので、一般的な医療のような「保険証を出せば3割負担になる」といった仕組みがありません。高額療養費制度(医療費の負担が一定額を超えたとき、超えた分を国が支給してくれる制度)も対象外です。
先進医療にかかる費用は、全額が患者の自己負担になるため、受ける先進医療の内容によってはかなり高額な支払いが発生します。
先進医療はいくらくらいかかる?
先進医療を受ける場合、いくらくらいかかるのでしょうか。厚生労働省が公開している「令和2年6月30日時点で実施されていた先進医療の実績報告について」という資料によると、先進医療を受けた人1人あたりの先進医療費用はおよそ110万円でした。
医療技術ごとの先進医療費用を厚生労働省の調査をもとに見てみると以下のようになっています。
医療技術の例 | 1件あたりの先進医療費用 |
陽子線治療 | 約271万5,000円 |
重粒子線治療 | 約312万4,000円 |
高周波切除器を用いた子宮腺筋症核出術 | 約30万3,000円 |
MRI撮影及び超音波検査融合画像に基づく前立腺針生検法 | 約10万8,000円 |
家族性アルツハイマー病の遺伝子診断 | 3万円 |
厚生労働省「令和2年6月30日時点で実施されていた先進医療の実績報告について」をもとに作成) https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000701983.pdf
同じ「先進医療」という枠の中でも、数万円で済むものから数百万円かかるものまでさまざまです。一部のガンの治療に使われる陽子線治療や重粒子線治療は、先進医療のなかでは実施件数が多く、費用も300万円程度と高額になりがちです。
先進医療を受ける確率は?
先進医療を受ける確率は、現状かなり低いと言えるでしょう。先述の実績報告によれば、2019年7月1日~2020年6月30日までの1年間で先進医療を受けた人の数は、全部で5,459人でした。
日本に約1億2,000万人が住んでいることを考えれば、割合としては0.00005%未満です。
ちなみに、前年(2018年7月1日~2019年6月30日)の実施報告では、先進医療を受けた人数は39,178人でした。
1年で人数が急減したのは、先進医療の実施件数全体の9割近くを占めていた「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術(白内障の治療に使われる技術)」が保険適用の対象になったからです。
先進医療は「保険適用にするか検討中の段階の医療技術」ですので、適宜見直しされ、新たに追加されたり廃止されたりしています。
先進医療を受けるのは難しいって本当?
先進医療は、誰でも受けられるわけではありません。本人が希望して、さらに医師がその必要性と合理性を認めた場合にのみ実施されることになります。
さらに先進医療は、対象となる症状・病院の規模・医師の経験年数・過去の実施件数などさまざまな厳しい基準をクリアしたものだけが対象になります。
先進医療の中には「この治療を受けられるのは日本でここだけ」などごくわずかな病院だけでしか受けられないものもあります。
こうしたことから先進医療はなかなか身近なものではなく、一生のうちに自分が受けることになる確率も低いと言えます。
とはいえ、もしいつか自分に大きな病気が見つかって「この病院で先進医療を受けられますが300万円かかります」と言われたと想像すると、頭を抱えてしまう人も多いのではないでしょうか。
先進医療特約とは?どこまでカバーしてくれる?
先進医療を受けることになった場合、その費用をカバーしてくれるのが「先進医療特約」です。医療保険やガン保険に任意で追加できるオプションです。
ここからは、先進医療特約がどんな内容でどこまでカバーしてくれるのか見ていきましょう。
先進医療特約の概要
先進医療に関する特約には、以下のようなパターンがあります。
・先進医療特約……先進医療にかかった技術料について、自己負担額と同額を受け取れる
・先進医療一時金特約……先進医療を受けたとき、一時金として一定額を受け取れる
先進医療特約は「1回いくら」のように定額で決まっているわけではなく、かかった費用の全額を受け取れるのが一般的です。ただ、ほとんどの場合「2,000万円まで」のように上限が設定されています。一時金は「技術料の10%相当」「1回につき5万円」など保険ごとに差があります。
先進医療特約だけを付けられる保険もあれば、一時金特約とあわせて両方同時に付けられる保険もあります。
同じ「先進医療特約」という名前でも、提供している保険会社、医療保険につけるのかガン保険につけるのかでも内容が変わってきます。いくつか比較しながらよく確認しておくのがおすすめです。違いや比較すべきポイントについては後述します。
ちなみに、先進医療特約は「基本保障(入院や手術のときの保障)」とセットでしか契約できないことがほとんどですが、近年は、先進医療の保障だけが欲しい人のための「先進医療保険」なども登場しています。
先進医療特約でどこまでカバーできる?
先進医療特約や先進医療一時金特約は、厚生労働省が「先進医療」と認めている治療を受ければ対象になります。
先進医療は、単に技術だけでなく、適応される病気名や治療を受けられる病院なども細かく決められています。実際に受けることになった場合には医師から内容や費用の説明があるはずです。
先進医療特約を付けていれば、上限2,000万円などの制限はあるものの、先進医療の技術料の全額をカバーできることが多いです。先進医療一時金特約も付けていれば、さらに上乗せして受け取ることも可能です。
1つ注意しておきたいのが、先進医療特約で保障されるのは基本的に「先進医療にかかった技術料」である点です。通常の治療と共通する部分(診察、検査、投薬、入院料など)は含まれません。
ただ、通常の治療と共通する部分は健康保険の対象になりますし、加入している医療保険があればカバーできる可能性もあります。
先進医療特約の保険料はいくらくらい?
先進医療特約を付けると、保障内容が充実するぶん保険料も当然上がります。
先進医療特約を付けることで追加される保険料は、保険によって多少差があるものの、1ヶ月あたり100円程度に設定されていることが多いです。入院や手術などの基本保障がない、先進医療に特化した保険だと月500円ほどです。
先進医療特約の給付金はいつどうやって受け取れる?
先進医療特約の給付金は、治療が終わったあと保険会社に連絡して書類を取り寄せ、必要事項を記入したり病院で診断書を書いてもらったりして提出したあとに振り込まれるのが基本です。
あとからお金が戻ってくるとはいえ、一時的に先進医療の費用全額を出すとなると負担に感じる人も多いでしょう。
そうした事情を踏まえ、保険会社によっては「保険会社から病院への直接支払い」に対応しているところもあります。事前に保険会社に連絡しておけば、自分で一時的な負担をすることなく給付金を支払いに充てられるというしくみです。
先進医療特約が他の特約と違うポイント
先進医療特約には、以下のような特徴があります。
実損払い
医療保険やガン保険の保障は「入院1日あたり〇円」「1回の手術で○円」など、契約時に決めた金額を受け取れるものが多いですが、先進医療特約は実際にかかった費用によって受け取れる金額が変わります。
終身型と更新型がある
先進医療特約には、一生涯同じ内容の保障が続く「終身型」と一定の期間ごとに更新される「更新型」の2種類があります。更新型は、更新のたびに保障内容や保険料が変更される可能性があります。
更新によって内容がよくなる可能性も悪くなる可能性もあるため、一概にどちらがいいとは言えません。
ただ「終身型の医療保険に加入しているのに先進医療特約だけは更新されていく」ということもあるので、あとで驚かないよう事前に確認しておきましょう。
「医療保険の先進医療特約」と「ガン保険の先進医療特約」の違い
先進医療特約は、医療保険に付けることもできますし、ガン保険に付けることもできます。両者の違いを知って、どちらに付けるべきか検討しましょう。
「医療保険の先進医療特約」と「ガン保険の先進医療特約」、何が違う?
「医療保険の先進医療特約」と「ガン保険の先進医療特約」は、保障される範囲が違います。
もともと、医療保険はガンを含むあらゆる病気やケガが対象なのに対し、ガン保険は数ある病気のなかでもガンのみに特化しています。
先進医療特約も、医療保険のほうはすべての先進医療が対象になりますが、ガン保険はガンの治療に関する先進医療だけが対象です。
医療保険とガン保険、先進医療特約を付けるならどっち?
同じ「先進医療特約」でも、医療保険に付けるもののほうが保障範囲が広いです。保険料も大差なく、お金を受け取れる可能性が上がるため、医療保険とガン保険の両方に加入しているなら医療保険にセットするのがおすすめです。
ただ現状、先進医療で特に実施件数が多く費用も高額になりがちなのはガンに関するものなので、医療保険に加入していない人などは「ガン保険に付けておく」いう選択肢もアリでしょう。
先進医療特約を2つ以上付けていたらどうなる?
医療保険とガン保険、先進医療特約を両方に付けることはできるのでしょうか。
基本的に、医療保険とガン保険が同じ保険会社ならどちらか一方にしか付けられませんが、別々の保険会社なら両方に付けられることが多いです。1人で複数の医療保険に加入している場合も、それぞれに先進医療特約を付けられることがあります。
先進医療特約を複数付けていて、いずれの対象にもなる先進医療を受けた場合、給付金はそれぞれ受け取れる可能性があります。たとえば2社で先進医療特約に加入している人が300万円かかる先進医療を受けたら、300万円×2社=600万円受け取れるということです。
ただ、保険会社などによってはそうならない場合もあります。念のため、先進医療特約を複数重複して付ける場合は、どんな扱いになるのか保険会社にあらかじめ確認しておくのが無難です。基本的には1つだけ付けておけば充分でしょう。
先進医療特約は付けるべき?
先進医療特約は、検討の価値がある特約と言えるでしょう。
そもそも、保険はいくら確率が低くても、一度発生したら自力でまかなえないほどの高額な費用が発生するリスクに備えるためのものです。先述のとおり、先進医療を受けることになる確率はかなり低いですが、もしそうなった場合には一度の治療で300万円以上かかることもあります。その費用をまかなうのが難しいようであれば、月100円程度の保険料を支払って備えておいたほうが安心できるかもしれません。
先進医療特約を比較するときのポイント
先進医療特約は、同じ名前でも保険会社によって多少内容に差があります。あとから「こんなはずでは」とならないよう、よく確認しておきたいところです。気になる保険の資料を取り寄せるなどしていくつか比較してみると、差がわかりやすくなります。特に差が出やすいポイントは次のとおりです。
・保障範囲……医療保険とガン保険では同じ「先進医療特約」でも保障範囲が違う。医療保険のほうが保障範囲が広い。
・先進医療一時金特約の有無……先進医療特約があっても一時金はない保険会社も多い。
・上限額……「上限2,000万円」が多いが、1,000万円や300万円のところも。「1回あたりの上限」ではなく「契約期間中の通算の上限」になっていることが多い点にも要注意。
・医療機関への直接支払いの可否……給付金を保険会社から病院に直接支払うしくみがあれば、一時的な金銭負担をせずに済む。
・終身型?更新型?……更新型は、時間が経つと保険料や保障内容が変わる可能性も。10年更新や5年更新などのタイプがあり自動で更新されていくことが多い。
まとめ
先進医療特約は、厚生労働省で定められた「先進医療」を受けたときにお金が受け取れるものです。
先進医療は、受けることになる確率はかなり低いものの、費用は数百万など高額になることもあります。この特約は月100円程度など家計に負担の少ない保険料で追加できることが多いので、もしもに備えて加入しておくのも1つの方法です。
特に「治る可能性があるなら積極的に治療を受けたいけど、いきなり数百万円を請求されても捻出できない」という人には、大きな支えとなってくれるでしょう。