近年、医療保険の入院給付金を一時金タイプで受け取れる保険が増えています。一時金が増えているのはなぜなのでしょうか? 一時金で受け取る場合のメリットや注意点を含めて、医療保険の一時金タイプについて解説します。
目次
医療保険の一時金とは? 入院給付金との違いを解説
医療保険の保障は、入院給付金と手術給付金で受け取ることが主流になっています。入院給付金とは、入院日数に応じて支払われるお金で、保険商品によって日額5,000円や10,000円などと設定されています。この場合は、入院1日目から60日、120日、180日までというように支払日数に限度が設けられています。
それに対して、一時金は入院日数に関係なく、一時金としてまとまった額のお金が受け取れるタイプの保障となります。医療保険の一時金は、入院となったときの「入院一時金」がほとんどですが、がん保険の場合はがんと診断されたときの「一時金」、三大疾病に対する「一時金」などもあります。
入院一時金にも主契約になっているものと入院一時金が特約になっているものの2種類があります。
入院一時金が主契約になっている場合は、入院が決まったら、20万円や30万円など契約ごとにまとまった金額が受け取れます。保険商品によりますが、日帰り入院でも受け取れることがほとんどです。一時金の金額や日帰り入院が対象になっているかどうかは、入院一時金が主契約になっている保険のポイントとなりますので、しっかり確認する必要があります。最近は、傾向として日帰り入院も多くなっていますので、日帰り入院が対象になったタイプを選ぶのがよいでしょう。
入院一時金が特約になっている場合は、入院給付金に一定の免責期間があり、その期間をカバーするために一時金を選択できます。免責期間とは、保障の対象になっていない期間のことで、入院給付金の日額支給が例えば入院5日目からとなっていた場合の入院1日目から4日目がそれに当たります。つまり、入院一時金を1日目から4日目の支払いにあて、5日目からは日額の入院給付金でまかなう目的で特約が用意されています。最近は入院1日目から支給される商品が多いですが、昔加入した医療保険の場合は入院数日後からの支給の商品も多いので、契約済みの方は自身の加入する保険の内容を確認してみてください。
入院一時金タイプが登場した理由
入院給付金と手術給付金が主流の医療保険にあって、入院一時金が登場したのはどのような理由があるのでしょうか?
まずは、厚生労働省の「平成29年(2017)患者調査の概況」による病院の退院患者の平均在院日数の年次推移を見てみましょう。
- 平成11年 41.8日
- 平成14年 40.1日
- 平成17年 39.2日
- 平成20年 37.4日
- 平成23年 34.3日
- 平成26年 33.2日
- 平成29年 30.6日
平成11年から平成29年の19年の間に、41.8日から30.6日にまで入院日数が減っているのがわかります。平均すると、11.2日も短くなっています。医療の発達によって、入院ではなく通院や在宅での治療が増加しているためです。
入院平均日数が減っている状況では、入院日数に応じて給付金が受け取れるタイプよりも、まとまった金額が支払われたり、日帰りや通院の保障が付いていたりするタイプの方が多くの人に選ばれる傾向にあります。
実際に医療保険の入院給付金タイプでも日額限度が120日や180日ではなく、60日と短く設定し入院給付金も1日目から保障されるタイプが増えている傾向にあります。医療保険を選ぶ際には、医療の実情や傾向をおさえたうえで商品の比較してみるのがよいでしょう。
医療保険の一時金の金額を決めるポイント
医療保険の一時金タイプを検討する際には、金額をどれくらいに設定するのがよいのでしょうか?。ポイントを探ってみます。
- 入院時の平均的な自己負担額
- 高額療養費制度による医療費の上限値
- 自己負担となる差額ベット代
- 傷病手当金による収入補填
の4つの観点からみていきます。
入院の自己負担額を知る
公益財団法人生活保険文化センターによる、令和元年度「生活保障に関する調査」を見てみましょう。
直近の入院時の自己負担額は
5万円未満 7.6%
5〜10万円未満 25.7%
10〜20万円未満 30.6%
20〜30万円未満 13.3%
30〜50万円未満 11.7%
50〜100万円未満 8.4%
100万円以上 2.7%
となっており、1回の入院につき費用は平均20万8,000円でした。
これは、治療費・食事代・差額ベッド代に加え、交通費(見舞いに来る家族の交通費も含む)や衣類、日用品などを含んでいます。統計は、高額療養費制度を利用した人も含まれており、利用した場合は利用後の金額となっています。
この20万8,000円は1つの目安になるといえるでしょう。
医療保険と高額療養制度を知る
病気やケガで入院するときは、公的な医療保険が利用でき、70歳未満だと自己負担額は3割となります。このほかに高額療養制度が利用できます。高額医療制度とは、1ヵ月の医療費(薬局も含む)で上限額を超えた場合に、超えた額を支給する制度です。上限額は、年齢や所得に応じて定められています。このとき入院時の食費負担や差額ベッド代等は含まれません。
69歳以下の上限額は
適用区分 | ひと月ごとの上限額(世帯ごと) |
ア)年収約1,160万円〜 | 252,600+(医療費-842,000)×1% |
イ)年収約770〜約1,160万円 | 167,400+(医療費-558,000)×1% |
ウ)年収約370〜約770万円 | 80,100+(医療費-267,000)×1% |
エ)〜年収約370万円 | 57,600円 |
オ)住民税非課税者 | 35,400円 |
となります。
実際にはどれくらいの金額になるか計算してみましょう。
・1ヶ月の総医療費=50万円(自己負担約15万円)、所得(ウ)の場合
80,100+(500,000―267,000円)×0.01=82,430円
自己負担額との差額の67,570円が後日払い戻しされます。
また「健康保険限度額適用認定証」の交付を受けておけば同一窓口における支払う金額が最初から自己負担限度額までとなります。
さらに、過去12ヵ月以内に3回以上の高額療養費が支払われていた場合、4回目以降は多数該当として、さらに医療費が安くなり以下の限度額になります。
適用区分 | 4回目以降の自己負担限度額 |
ア)年収約1,160万円〜 | 140,100円 |
イ)年収約770〜約1,160万円 | 93,000円 |
ウ)年収約370〜約770万円 | 44,400円 |
エ)〜年収約370万円 | 44,400円 |
オ)住民税非課税者 | 24,600円 |
差額ベッド代は自己負担
入院費用は、治療にかかる医療費は公的な医療保険制度で、自己負担は69歳までは3割にとどまります。しかし、この3割負担に差額ベッド代は含まれず、全額が自己負担になってしまいます。
厚生労働省「主な選定療養に係る報告状況」によると、大部屋以外の個室や少人数の病室の差額ベッド代は次のとおりです。
・1日あたり平均徴収額(推計)
1人室 7,837円
2人室 3,119円
3人室 2,798円
4人室 2,440円
(平成29年7月1日現在)
自分が病気で入院となった際に少人数の病室に入りたいかといった点を、考えてみるといいでしょう。
傷病手当金を知る
会社員や公務員などが加入する健康保険では、傷病手当金という制度が用意されています。これは、加入者が病気やケガのために会社を休んだときに、休業連続4日目以降から最長1年6ヵ月の間、給与の約3分の2に当たる手当を受け取れる制度です。全国健康保険協会の支給される条件は、次の1~4をすべて満たした場合です。
1、業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
2、仕事に就くことができないこと
3、連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
4、休業した期間について給与の支払いがないこと
(詳しくは加入する健康保険の規定をご確認ください)
給与の3分の2とは、年収に対してではなく、前年の4月〜6月までの給与の平均月収に対してなので、ボーナスは含まれていないことに注意が必要です。
会社員や公務員の方の場合は、健康保険や共済組合制度によて傷病手当金が利用できるので、こうした制度が利用できることも考慮しておきましょう。国民健康保険に加入している、自営業や個人事業主の方は利用できません。また扶養に入っている専業主婦などの方は健康保険に加入できますが、傷病手当金は対象とならないので注意しましょう。
一時金タイプの医療保険のメリット
給付条件が明解で計算しやすい
医療保険を入院給付金や手術給付金で受け取る場合は、入院日数や通院日数によって異なってきます。また、治療や手術によっても給付額を確認しなくてはなりません。一時金は、30万円、50万円など、その給付額がはっきりしています。そのため、どんな治療や手術を受けるかに関係ないため、わかりやすい設計です。どのようにやりくりするか、あらかじめ決めやすいと言えます。
まとまった金額が受け取れ、使い道が自由
入院給付金や手術給付金の場合は、入院日数や手術の種類によって金額が異なります。入院日数が少ないと受け取る額は少なくなりますし、日帰り入院や通院が保障されるかは保険商品によって異なってきます。また、手術の種類に対する支給額も細かく分かれていることがほとんどです。
入院一時金は、まとまった金額が一度に受け取れるので、経済的な不安は一旦解消できます。また、どんなことに使おうと、自由です。治療費の支払いにあててもいいですし、休職中の家計にあてても構いません。
税金が課税されない
入院一時金は、30万円や50万円と高額なので、そうなると税金がかかるのではないかと疑問を持つ人もいるでしょう。しかし、医療保険の保証となる給付金には一切、税金はかかりません。課税される分をとっておく必要はありませんので、自分や家族のために使いましょう。
医療保険を一時金にするときの注意点
条件設定次第では保険金・給付金を受けとれないケースも
がん保険では、がんと診断されたら一時金(がん診断給付金)が支払われることになっていますが、一部のがんでは対象外になっている場合があります。がんは上皮内がんという初期のがんがあり、この上皮内がんのうちは対象外となっていることも。どんな条件になっているのか注意が必要です。
また、がん保険の場合は、加入してしばらく免責期間が90日程度設けられているのが一般的です。免責期間とは支払事由に該当していても、保障されない期間のことです。この期間内にしても一時金は支払われません。
受け取るタイミングがまちまち
一時金は、入院が決まったり、がんと診断されたりすると受け取れますが。保険商品によって、タイミングが異なります。場合によって、治療を開始したとき、入院したときなどまちまちで確認が必要になります。
回数制限がある場合も
一時金は、何度ももらえる場合もあれば、1回のみ、2回までなど回数に制限がかけられている場合があります。保障期間中に何度一時金が受け取れるかもあらかじめ確認しておきましょう。
一時金がもらえる医療保険
主契約であったり特約であったりしますが一時金がある終身医療保険は以下になります。入院、長期入院、がん診断、三大疾病に対する一時金がある商品を紹介します。
入院一時金をもらえる医療保険
入院一時金は以下のように多くの保険会社が主契約や特約で網羅しています。
- SOMPOひまわり生命 健康をサポートする医療保険 健康のお守り
- SOMPOひまわり生命 健康をサポートする医療保険 健康のお守り
- オリックス生命 医療保険 新CURE [キュア]
- アクサダイレクト生命 アクサダイレクトの終身医療
- メットライフ生命 終身医療保障保険 マイ フレキシィ
- マニュライフ生命 こだわり医療保険 with PRIDE
- チューリッヒ生命 終身医療保険プレミアムDX
- アフラック 医療保険 EVER Prime
- メディケア生命 新メディフィットA(エース)
- なないろ生命 なないろメディカル
長期入院時一時金給付特約
主契約ではカバーできない長期の入院に備える目的で長期入院時の一時金の特約を用意している消費品もあります。アクサダイレクトの終身医療では入院日数が61日に達したら、一時金で50万円を受け取れます。
がんに対する一時金
楽天生命スーパー医療保険、ソニー損保の終身医療保険シュアではがんの診断確定時の一時金があります。
三大疾病に対する一時金
がん・心疾患・脳血管疾患の際に一時金がでる保険もあります。以下はその一部を紹介しますが、対象となる疾患や条件が異なるので加入の際に気になる方は確認しましょう。
オリックス生命の医療保険 新CURE [キュア]では重度三疾病にかかったときに、一定の要件を満たすと1年に1回を限度に一時金を受け取れる保障を追加することなどもできます。
楽天生命スーパー医療保険でも、がん、急性心筋梗塞、脳卒中に一時金で備えるプランも容易されています。
メディケア生命の新メディフィット リターンは、一時金特約でがんなら診断確定時、脳卒中・心筋梗塞では入院初日か手術を受けたタイミングで保障されます。
アフラックの医療保険 EVER Primeやメットライフ生命
終身医療保障保険マイ フレキシィなどは、三大疾病一時金に加えて払込免除特約も付加できる商品です。
まとめ
医療保険の入院一時金やがん診断給付金などの一時金は、まった金額が受け取れる保障です。近年の入院の短期化にも叶った保障ですので、メリットもあります。しかし、入院給付金タイプにするのかどうかはご自身の条件と照らし合わせる必要があります。どちらが自分に合っているか、じっくりと比較して検討してみるのが望ましいえしょう。