親が入院したり、亡くなったりした際に、「生命保険の加入有無を確認したい」と考える人は多いでしょう。
しかし、親から具体的な加入先や契約の有無を聞いておらず、どうしたらよいのか困っている人もいるのではないでしょうか。せっかく保険に入っていても、請求できず無駄になってしまう可能性があるかもしれません。そんなときに役立つのが「生命保険契約照会制度」です。
本記事では、親が加入している生命保険がわからない場合の対処方法や、生命保険契約照会制度の仕組みについて詳しく紹介します。
目次
親が加入している生命保険がわからないときの対処法
親がどの生命保険に加入しているのかわからない場合、まずは自分で保険会社を特定しましょう。どうしても特定が難しい場合は、生命保険契約照会制度の利用を検討するのも一つの方法です。
保険会社や勤務先からの書類を確認する
親の加入している生命保険を探す際、まずは自宅にある書類を確認しましょう。保険証券には、証券番号や契約者名、受取人などの契約に関する重要な情報が記載されています。もし、保険証券が見つからなくても、多くの保険会社が年に1回発行している「契約内容のお知らせ」や、生命保険料控除の証明書なども手がかりになるでしょう。
保険会社の名前が入ったグッズなどもヒントになることがあります。保険会社さえ特定できれば、死亡診断書や戸籍謄本などの必要書類を用意し、保険会社の支店に問い合わせることで契約の有無を確認できる場合もあります。
勤務先が発行する書類も忘れずにチェックしてください。勤務先で団体保険に加入している場合、給与明細を確認することで保険料の天引きがわかることもあります。年末調整時に提出される保険料控除申告書があれば、保険会社名や契約内容を確認できるかもしれません。手元に書類がない場合も、一度勤務先の事務担当者に確認してみましょう。
保険金請求の時効は3年であるため、相続など特別急ぐ事情がなければ、年に1回くる保険会社からの通知を待つのも一つの方法です。
口座の取引履歴を確認する
親の金融機関の通帳やクレジットカードの利用明細を確認することも効果的です。通帳の取引履歴から、保険料の引き落としが行われている保険会社を特定できる場合があります。
また、スマホに保険会社のアプリがインストールされていたり、保険会社のマイページがブックマークされていたりすることもあるため、デジタルデバイスの確認も行いましょう。
生命保険契約照会制度を利用する
上記の方法で保険会社が特定できない場合は、「生命保険契約照会制度」を利用しましょう。生命保険契約照会制度は、保険契約者または被保険者が死亡したり認知判断能力が低下したりした場合に、その親族が、生命保険契約の有無を照会できる制度です。一般社団法人生命保険協会(国内の全生命保険会社が加入する協会)が提供しています。
この制度で確認できるのは、契約の有無のみで、具体的な契約内容は保険会社に直接問い合わせる必要があります。ただし、契約者または被保険者の「死亡」を理由に照会をしており、かつ照会者が死亡保険金受取人になっている契約がある場合は、それについても知ることが可能です。
照会を受け付けた時点で有効に継続している個人保険契約が、調査対象となります。死亡保険金支払済の契約や、解約済、失効している契約などは含まれません。また、財形保険・財形年金保険、支払が開始した年金保険、保険金などが据置きとなっている契約も調査対象外です。
生命保険契約照会制度の利用方法
ここでは、生命保険契約照会制度の具体的な利用方法を紹介します。平時と災害時で利用条件や費用などが異なる点に注意しましょう。
利用できる条件
生命保険契約照会制度を利用できるのは、以下のいずれかに当てはまり、生命保険契約の有無がわからない場合です。
- 契約者・被保険者が死亡している
- 契約者・被保険者の認知判断能力が低下している
- 契約者・被保険者が災害救助法の適用された地域で被災し、死亡もしくは行方不明になっている
照会対象者(契約者・被保険者)の状況によって、照会者の条件にも以下のような違いがあります。
照会対象者の状況 | 照会者となれる人 |
死亡(平時) | ・照会対象者の法定相続人 ・照会対象者の遺言執行者 ・照会対象者の法定相続人の法定代理人 ・照会対象者の法定相続人の任意代理人(※) ・照会対象者の遺言執行者の任意代理人(※) |
認知判断能力の低下 | ・照会対象者の法定代理人 ・照会対象者の任意後見制度に基づく任意代理人(※) ・照会対象者の任意代理人(※) ・照会対象者の3親等以内の親族 ・照会対象者の3親等以内の親族任意代理人(※) |
被災による死亡または行方不明 | ・照会対象者の配偶者、親、子または兄弟姉妹 ・照会対象者の配偶者、親、子または兄弟姉妹の法定代理人または任意代理人 |
※弁護士・司法書士・行政書士のみ
必要書類・費用
照会者によって必要書類は異なりますが、主に以下のものが求められます。
- 生命保険協会所定の申請書や委任状
- 照会者の本人確認書類
- 契約者や被保険者と照会者の関係性を示す書類(戸籍)
- 生命保険協会所定の診断書
詳しい必要書類については、生命保険協会のホームページで確認してください。
利用費用は、平時は3,000円で災害時には無料となっています。
申し込みの流れ
平時利用の場合は、Webフォームからの直接申請、または申請書を取り寄せて郵送で申請します。災害利用の場合は、電話で申請をします。
以下は、Webフォームから直接申請する場合の大まかな流れです。
- 契約照会システムにユーザー登録をする
- 契約照会システムで必要事項の入力と必要書類の提出をする
- 利用料金を支払う
- 照会結果を受け取る
Webフォームから直接申請した場合、Web上で照会結果を閲覧可能です。支払いから結果の受け取りまでは約14営業日かかります。
親が亡くなったときに死亡保険金を受け取る手順
親が亡くなったときに、死亡保険金を受け取るまでの流れは以下の通りです。
- 生命保険会社に連絡する
- 保険金請求の手続き書類を揃えて請求をする
- 保険金が入金される
まずは、生命保険会社の営業所・支社、サービスセンター・コールセンターなどに連絡し、今後の手続き方法や必要書類を確認しましょう。生命保険契約照会制度を活用した場合はその旨を保険会社に伝えます。
次に、保険会社の案内に従って請求に必要な書類を集めましょう。戸籍や死亡診断書など、書類の取得には時間がかかることもあるので早めに手続きするのがおすすめです。
不備がなければ、請求書類が生命保険会社に着いた日の翌日から5営業日程度で保険金が支払われるケースが一般的です。生命保険会社は約款で、保険金の支払期限を定めているため、確認しておきましょう。
親の生命保険は代理で請求できる?
医療保険や介護保険の給付金や保険金の請求は、原則として被保険者本人が行う必要があります。家族であっても、本人以外の者が勝手に請求することはできません。
しかし、指定代理請求特約や成年後見制度を活用すれば、代理請求が可能です。指定代理請求特約は、被保険者が病気や事故など、請求ができない特別な事情がある場合、あらかじめ指定した代理人が被保険者に代わって保険金や給付金を請求できる特約です。
この特約が付加されている場合、配偶者や直系血族、同居している3親等以内の親族などが代理人として給付金の請求ができます。特約の保険料は基本的にかからないため、事前に付加しておくのがおすすめです。契約途中でも、被保険者の同意があれば、指定代理請求人の指定や変更ができます。
また「成年後見制度」を活用して請求する方法もあります。成年後見制度とは、判断能力が不十分な場合に、家庭裁判所が選任した成年後見人が本人の代わりに財産管理や身上監護をできるようにする制度です。成年後見制度を利用すれば、親族や法律・福祉の専門家などの第三者が被保険者本人に代わって給付金を請求できます。
成年後見制度には、判断能力が不十分になってしまった場合に家族などが申請することで利用できる「法定後見制度」と、万が一に備えて本人があらかじめ後見人を選定しておく「任意後見制度」の2種類があります。
ただし、法定後見制度の場合、後見人は家庭裁判所が選定します。家族や親族が後見人になれないこともあるので注意しましょう。
親の代わりに生命保険の契約変更はできる?
親の生命保険に関する住所変更や解約といった契約変更手続きについても、原則として本人しか行うことができません。
しかし、成年後見制度では、後見人が選任された場合、契約変更手続きを行えます。後見人は法的に認められた権限を持つため、住所変更や解約といった契約に関わる手続きを本人に代わって行うことが認められます。
また、保険契約者代理制度を利用するのも一つの方法です。保険契約者代理制度とは、契約者が手続きの意思表示ができない場合などに、契約者の代理人が住所変更、解約など所定の手続きを行えるとする制度です。保険会社によって利用条件が異なるため、契約時に代理制度の有無や、範囲について確認しておきましょう。
まとめ
親の生命保険の加入状況がわからない場合、生命保険契約照会制度を利用することで契約の有無を確認できます。しかし、この制度を利用するためにはさまざまな条件があり、手続きに費用や時間がかかるケースもあります。そのため、まずは親の保険証券や保険会社からの通知、通帳の取引履歴など、身近な手がかりを確認することが重要です。
また、生命保険契約照会制度で確認できるのは、あくまで契約の有無だけです。実際の保険金や給付金の請求は、個別の保険会社に対して行う必要があります。必要な手続きを事前に理解し、親に万が一のことがあった場合でも迅速に対応できるように、準備を進めておきましょう。
東証一部上場企業で10年間サラリーマンを務める中、業務中の交通事故をきっかけに企業の福利厚生に興味を持ち、社会保障の勉強を始める。以降ファイナンシャルプランナーとして活動し、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間毎年約100件のセミナー講師なども務める。趣味はフィットネス。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信しています。 <保有資格>CFP