国立社会保障・人口問題研究所の「第16回出生動向基本調査」によると、子どもがいない夫婦の割合は年々増加傾向にあり、2021年時点では7.7%となっています。子どもがいる家庭に比べれば、教育費や生活費がかかりにくいため、本当に生命保険は必要なのか疑問に感じる人もいるでしょう。
本記事では、子どもがいない夫婦における生命保険の必要性やおすすめの生命保険などについて詳しく解説します。
目次
子どもがいない夫婦に生命保険は必要?
働き方や今後のライフプランによっては、子どもがいない世帯でも生命保険が必要です。
共働きで夫婦それぞれ同程度以上の収入があれば、配偶者に万が一のことがあっても生活が成り立つことが多いため、死亡保険に加入する必要性は高くないでしょう。
しかし、片働きで一方の収入に頼っている場合は、残された家族が満足な生活を送れなくなる可能性があるため、生命保険に加入しておく必要があります。子どもがいる場合と比較して、必要な保障額は少なくなる可能性は高いですが、「子どもがいないから生命保険は不要」と安易に判断することは避けた方がよいです。
さらに、将来的に子どもを授かる予定がある場合、健康状態によっては生命保険に入れなくなる可能性もあるため、早めに検討した方がよいでしょう。
【働き方別】子どもがいない夫婦における生命保険の必要性
生命保険の必要性は、夫婦それぞれの働き方や得られる収入によって異なります。以下で詳しく見ていきましょう。
片働きの場合
片働きの場合、働いている人に万が一のことがあると、専業主婦(夫)である配偶者の生活が苦しくなるリスクがあります。子どもがいないため、受給できるのは遺族厚生年金のみで、遺族基礎年金は受給できません。そのため、国民年金に加入している個人事業主は、遺族年金がまったく受け取れない可能性があります。
収入源が限られることにより、生活が成り立たなくなる可能性があります。また、病気やケガで長期間働けなくなった場合も、経済的に困窮するリスクがあるため、死亡保険や就業不能保険などに加入しておくのが賢明です。
また、可能であれば専業主婦(夫)側も保険に加入しておくと、万が一の際に夫(妻)の家事負担増加などのリスクをカバーできるでしょう。片働きの場合は、夫婦それぞれで保険に加入しておくべきといえます。
夫婦どちらかがパート・アルバイト勤務の場合
共働きで夫婦どちらかがパート・アルバイト勤務の場合は、世帯主だけでなく、配偶者も死亡保険に入っておく必要があります。世帯主に万が一のことがあれば、収入が減り生活が苦しくなるリスクがあるのは片働きと同様です。
しかし、配偶者の収入を前提として生活が成り立っている場合は、配偶者に万が一のことがあると、生活費の工面に困る可能性があります。夫婦それぞれの収入を考慮し、お互いに死亡保険に加入しておくことで、不測の事態に備えやすくなるでしょう。
夫婦ともにフルタイム勤務の場合
共働きで夫婦共にフルタイム勤務の場合は、家計に余裕があるケースも多いでしょう。万一のことがあっても、残された家族が問題なく生活できるようであれば、最低限の葬儀費用程度をカバーする生命保険に加入しておくだけでよいかもしれません。あるいは、お互いに経済的負担をかけないよう、医療保険だけ加入しておくのもよいでしょう。
つまり、夫婦それぞれの収入次第で、必要最小限の保険に絞ることも可能です。ただし、十分な蓄えがない場合は、生活費を確保するための適切な保険加入を検討する必要があります。
【ケース別】子どもがいない夫婦における生命保険の必要性
将来のライフプランや家族の年齢や健康状態などを加味して、生命保険の必要性について考えることも大切です。以下では、ケース別に子どもがいない夫婦にとっての生命保険の必要性を解説します。
子どもを産むことを想定しているケース
将来的に子供を産むことを想定している場合は、早めに子どもの生活費や教育費に備える保険に加入しておきましょう。検討するのが遅くなると、健康状態によっては加入できない可能性もあります。
生活費に備える保険としては、死亡保険金を年金形式で毎月受け取れる「収入保障保険」がおすすめです。さらに、出産の目処が立った時点で「学資保険」に加入するのもよいでしょう。学資保険の中には、出産前に加入できる商品もあります。
計画的に備えておけば、子どもが生まれた後も安心して暮らせるでしょう。
夫婦どちらかの親族に障害を持つ人がいるケース
障害を持つ親族がいる場合は、将来的にその親族の介護や身の回りの世話を担う場合に備えて、死亡保険に加入しておくことをおすすめします。
施設ではなく在宅で公的介護保険を利用しながら介護を行う場合、介護費用の自己負担が発生します。万が一の際に、残された配偶者一人で全額を負担するのは経済的に大きな負担となる可能性が高いため、あらかじめ死亡保険に加入し、介護費用を賄えるようにしておきましょう。
貯蓄が少ないケース
貯蓄が少ない夫婦は、病気やケガで治療費がかさんだり、働けなくなったりすると、貯蓄から生活費が賄いきれず、生活が苦しくなる可能性があります。そのような事態に備えるためにも、夫婦それぞれで医療保険や就業不能保険に加入しておくとよいでしょう。
医療保険であれば、入院や手術などにかかる治療費をカバーできます。就業不能保険は、病気やケガで一定期間働けなくなった場合に、一定額の給付を受けられるため、収入の減少による生活費の不足を補えるでしょう。
夫婦どちらも定年退職間近のケース
定年を迎えると収入が大きく減少する可能性が高いため、それ以降の生活費は貯蓄と年金で賄う必要があります。夫婦二人が最低限の生活を送るために必要な生活費の目安は、平均で23.2万円と考えられています。
一方で、厚生労働省の「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、老齢厚生年金の平均受給額は約14.5万円であるため、貯蓄が十分でない場合、老後の生活が苦しくなる可能性が高いでしょう。
生命保険は、このような老後資金を準備する際にも役立ちます。特に一定年齢まで保険料を払い込み、所定の年齢から年金形式で保険金を受け取れる「個人年金保険」に加入しておけば、老後資金の不足分をある程度カバーできるでしょう。
また、高齢になり、夫婦のどちらかに介護が必要になったときのために、介護保険にも加入しておくとよいでしょう。公的介護保険があるため、介護サービスは1~3割程度の自己負担で利用できます。しかし、負担がゼロになるわけではないため、介護が必要になったときに経済的な不安を抱えたくない人は、介護保険に加入しておくと、安心して老後生活を過ごせるでしょう。
住宅ローンを組んでいるケース
住宅ローンを組んでいる場合には、団体信用生命保険(団信)の契約内容に合わせて保険加入の必要性を検討しましょう。団信とは、住宅ローンを利用している借主に万が一のことがあった場合に、残りの住宅ローンの返済を免除してもらえる保険です。
共働きで住宅ローンを組む場合を考えてみましょう。夫が3,000万円の住宅ローンを組み、団信に加入している場合、夫が亡くなると住宅ローンの残債は0円になります。しかし、妻が亡くなった場合は、世帯収入が大きく減少するにもかかわらず、住宅ローンの返済はこれまで通り続けなければなりません。このようなケースでは、配偶者も死亡保険に加入することを検討すべきです。
ペアローンを組む場合は、夫婦それぞれが生命保険に加入しておけば、生存する配偶者が亡くなった配偶者の生命保険金を使用してローンの繰り上げ返済をすることにより、収入減少による家計の負担を軽減できる可能性があります。
たとえば、一つの物件に対して夫が3,000万円、妻も3,000万円の住宅ローンを組んでいる場合、夫婦どちらかが亡くなればその人のローンは免除されますが、生き残った配偶者は自分のローン返済を続けなければなりません。
しかし、夫婦それぞれが3,000万円の死亡保険に加入しておけば、仮に夫が亡くなった場合、夫の住宅ローンの残債は団信で免除されます。さらに、夫の死亡保険金3,000万円を活用して、妻のローンも返済可能になるのです。
子どもがいない夫婦におすすめの生命保険
子どもがいない夫婦は、以下の保険を優先的に検討してみましょう。
- 医療保険
- 死亡保険
- 介護保険
医療保険
貯蓄が少ない夫婦や40代以降の夫婦は、治療費や収入減少によって家計が傾く可能性に備えて、医療保険へ加入するのがおすすめです。年齢を重ねると、がんや生活習慣病のリスクが高まります。しかし、医療保険に加入していれば、治療費はもちろん、所得の減少もカバーできるため、経済的な面で安心感を得られるでしょう。
死亡保険
働き方や家庭構成にかかわらず、どの家庭にもいずれ必要になるのが葬式代です。子どもがいない場合でも、葬式代は避けて通れない費用であるため、一生涯保障が続く終身保険で備えるのが適しています。
一方で、遺族の生活保障が主な目的の場合は、「配偶者が年金を受け取るようになるまで」や「住宅ローンの返済が完了するまで」といった一定の期間だけを保障する定期保険や収入保障保険を選択するのがよいでしょう。
介護保険
介護保険には、公的介護保険と民間介護保険の2種類があります。公的介護保険は40歳以上の人が加入する社会保険制度で、介護が必要になった場合に介護サービスを受けられます。しかし、サービスの利用には自己負担が伴い、現金給付はありません。
一方、民間の介護保険は任意で加入するもので、要介護状態になった場合に一時金や年金を現金で受け取れるのが特徴です。子どもがいない夫婦は、介護が必要になったときに、家族に頼れない可能性があります。その場合、基本的に公的介護保険を利用しながら、介護サービスを受けることになりますが、経済的に負担がかかる場合もあるでしょう。
民間の介護保険に加入しておけば、公的介護保険利用後の自己負担費用や、公的介護保険の対象外となる費用をカバーできます。
まとめ
子どもがいない夫婦の場合、子どもがいる家庭と比較して必要な保障額は少なく済むことが多いですが、それでも生命保険が不要というわけではありません。働き方や貯蓄の状況、住宅ローンの有無など、個々の生活状況によって必要とされる保険の種類や保障額は異なります。
また、ライフプランに変化があった場合、仮に子どもが生まれるなどのライフイベントが発生した際には、再度必要な保険の見直しを行うことが重要です。
東証一部上場企業で10年間サラリーマンを務める中、業務中の交通事故をきっかけに企業の福利厚生に興味を持ち、社会保障の勉強を始める。以降ファイナンシャルプランナーとして活動し、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間毎年約100件のセミナー講師なども務める。趣味はフィットネス。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信しています。 <保有資格>CFP