掛け捨て型の法人生命保険とは?メリットや注意点をわかりやすく解説

保険全般

「掛け捨て型の法人生命保険」について、中小企業から大企業まで幅広く活用されていますが、具体的な保障内容について、よく理解していない人も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、掛け捨て型の法人生命保険のメリットと注意点をわかりやすく解説します。

掛け捨て型の法人生命保険とは?

掛け捨て型の法人生命保険とは、解約しても解約返戻金が発生しない保険のことです。終身保険や養老保険のような貯蓄型の保険と同様の保障内容であれば、割安な保険料で加入できる保険商品が多く存在します。

以下では、代表的な法人生命保険について紹介します。

定期保険

定期保険とは、加入してから一定期間を保障する死亡保険です。被保険者が死亡・高度障害状態に該当した場合に、受取人に対して保険金が支払われます。年齢で保険期間を設定する「歳満了」と年数で保険期間を設定する「年満了」があり、年満了の場合は所定の年齢を迎えるまでは自動更新されます。

法人契約の定期保険には、被保険者を役員や経営者、保険金受取人を法人とする商品のほかに、役員や従業員を被保険者・保険金受取人とする商品(総合福祉団体定期保険)もあります。

なお、通常よりも保険期間が長め(100歳までなど)に設定されている「長期平準定期保険」や、保険金が保険期間の経過とともに増加していく「逓増定期保険」などもあります。これらについては、掛け捨てではなく一定の解約返戻金があるケースが一般的です。

医療保険・がん保険

医療保険とは、病気やケガで入院や手術などを受けた場合に給付金が支払われる保険です。がん保険は、がんに特化している医療保険のことで、がんと診断された場合や放射線治療・抗がん剤治療などを受けた場合に、給付金が支払われます。

法人向けの商品は、経営者が病気やケガで長期間不在になった場合の事業保障を主な目的としているため、個人向けの商品よりも保障内容は手厚くなっているケースが一般的です。

なお、契約者・受取人を法人、被保険者を経営者・役員とする契約だけではなく、契約者を法人、被保険者・受取人を役員・従業員とする団体型の保険もあります。団体型保険については、原則として加入資格がある役員・従業員は全員加入しなければなりません。

掛け捨ての法人生命保険に加入するメリット

掛け捨ての法人生命保険は、経営者や従業員の不測の事態に備えられるだけでなく、事業承継や福利厚生の充実にも役立ちます。以下では、具体的なメリットについてみていきましょう。

経営者や役員の万が一に備えられる

会社の重要な役職を担う経営者・役員が、突然の事故や病気で亡くなった場合、その影響は会社全体に及ぶかもしれません。たとえば、利益創出の中核を担う人材がいなくなれば、売り上げが低迷する可能性があります。売り上げが低迷すれば、取引先や金融機関からの信用が低下し、資金調達が困難になったり、取引を解消されたりするリスクがあるでしょう。

しかし、法人生命保険に加入しておけば、支払われる保険金で当面の運転資金や借入金の返済原資を確保することが可能です。

スムーズな事業承継を実現できる

経営者が亡くなって相続が発生した場合、遺産分割協議をして、保有する自社株を含めた現金や預貯金、不動産などを相続人の間で分け合うことになるでしょう。仮に、後継者ではない相続人に自社株が分散すると、経営に口出しされるなどして事業運営に影響を及ぼす可能性があります。そのため、自社株の大半は後継者が相続することが一般的です。

しかし、遺産分割の内容によっては、ほかの相続人から不満が出る場合もあります。たとえば、公平性を保つために、特定の相続人が自社株や不動産など現物の財産を相続する代わりに、他の相続人に対して代償金を支払う「代償分割」が行われることもあります。そのような場合には、自社株の評価額によっては多額の代償金が必要になるでしょう。

また、スムーズに相続できたとしても、自社株は相続税の課税対象となるため、高額な相続税が発生するケースもあります。相続税は、原則として被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に、現金で納付しなければなりません。納税資金が用意できなければ、自社株を引き継げなくなる可能性があります。

しかし、法人生命保険に加入している場合は、法人が受け取った死亡保険金を原資として、亡くなった経営者の親族である後継者に「死亡退職金」を支払うことにより、事業承継の資金を確保することが可能です。

福利厚生を充実させられる

法人生命保険は、企業の福利厚生を充実させる手段としても有効です。従業員に万が一のことが起きた場合に、家族の生活を保障する制度を整えておくことは、従業員にとって魅力といえます。

そのため、生命保険の保険金・給付金を原資として、死亡退職金や見舞金などを支払えるようにしておけば、定着率の向上だけではなく、優秀な人材の確保に役立つ可能性があります。

全額損金に算入できる

2019年2月の国税庁の通達によって、定期保険や第三分野(医療保険やがん保険など)の保険料の損金計上について、新しいルールが定められました。下記のように、最高解約返戻率に基づいて損金計上できる割合が変わります。

掛け捨ての場合は、基本的に最高解約返戻率50%以下になるため、保険料の全額を損金にすることが可能です。

最高解約返戻率の区分 資産計上期間 資産計上額 取り崩し期間
50%以下 なし なし なし
50%超70%以下 保険期間の当初40%相当の期間を経過する日まで 当期支払保険料の40% 保険期間の75%相当期間経過後から、保険期間の終了の日まで
70%超85%以下 保険期間の当初40%相当の期間を経過する日まで 当期支払保険料の60% 保険期間の75%相当期間経過後から、保険期間の終了の日まで
85%超 A:保険期間開始日から最高解約返戻率となる期間

B:Aの期間経過後で「(当年の解約返戻金相当額-前年の解約返戻金相当額)÷年換算保険料相当額」が70%を超える期間

上記AまたはBのいずれか長い期間

※ただし、上記において資産計上期間が5年未満となる場合には、5年を経過するまで(保険期間が10年未満の場合には、保険期間の当初5割相当期間を経過する日まで)

保険期間の当初10年経過する日までは「当期支払保険料×最高解約返戻率の90%」、11年目以降は「当期支払保険料×最高解約返戻率の70%」 解約返戻金相当額が最も高い金額となる期間経過後から、保険期間の終了の日まで

※資産計上期間が5年未満となる場合には、5年経過後(保険期間が10年未満の場合には、保険期間の当初5割相当期間の経過後)

引用:国税庁「第3節 保険料等」

なお、被保険者が役員・経営者、保険金受取人が法人の場合は「支払保険料」で損金計上するケースが一般的です。被保険者が役員・従業員、保険金受取人が従業員の遺族となっている場合は「福利厚生費」で損金計上することが多くなっています。

個別の税務の取り扱いは、税理士や最寄りの税務署へ相談することをおすすめします。

掛け捨て型の法人生命保険に加入する際の注意点

掛け捨て型の法人生命保険は、節税にならないことや資金繰りの面でメリットが少ないなどの注意点があります。

保険金や給付金の受け取り時には課税される

定期保険の保険金や医療保険の給付金は、原則として「益金」として課税対象になります。保険料を支払う際に損金にできたとしても、保険金の支払い時には課税されるため、いわゆる「節税」の効果はありません。そのため、課税のタイミングを先延ばしにするしか効果がないことに注意しましょう。

退職金や資金繰り改善の目的では活用できない

法人生命保険のなかには、解約返戻金を原資として、経営者・役員の勇退退職金を計画的に備えられる商品もあります。しかし、掛け捨ての生命保険には基本的に解約返戻金がないため、このような資金を準備する目的では活用できません。

また、取引先の倒産や景気の悪化などによって、資金繰りが悪化する可能性もあるでしょう。解約返戻金のある生命保険であれば、解約して当面の運転資金を確保したり、契約者貸付制度を利用して事業資金の借り入れを行ったりできます。しかし、掛け捨て型の保険は万が一のことが発生しなければ保険金が支払われないため、資金繰りを改善する目的で活用することは難しいです。

キャッシュフローが悪化する可能性がある

生命保険に加入すると、基本的には毎月一定の保険料を支払い続けなければなりません。

保険料の負担が大きい契約の場合には、企業の資金繰りに影響を与える可能性があります。そのため、長期的な目線で無理のない保険料で契約し、定期的に見直しを行うことが大切です。

まとめ

掛け捨て型の法人生命保険は、解約返戻金はありませんが、割安な保険料で経営者や従業員の不測の事態に備えられます。また、円滑に事業承継を進めることや福利厚生を充実させる目的で活用することが可能です。

ただし、保険金の支払事由が発生しなければ、受け取れるお金は一切ありません。そのため、退職金や事業資金の原資として活用するのは難しいでしょう。保険料の支払い時は損金計上できますが、保険金や給付金は益金として課税されるため、節税効果は得られない点にも注意が必要です。

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オカネノホンネ編集部

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