資産形成と資産運用、どちらも聞いたことはあるものの、違いがよくわからないという人は多いでしょう。これらの違いをしっかり理解しておけば、資産を効率よく増やすための計画が立てやすくなるはずです。
本記事では、資産形成と資産運用の基本的な違いや重要性、注意点などを初心者向けにわかりやすく解説します。
目次
資産形成と資産運用の違い
資産形成と資産運用は似ていますが、厳密には異なる意味を持ちます。資産形成は、ほとんど資産がない状態からお金を貯めることを指し、資産運用は、すでにある程度の資産がある場合に、それらの資産を増やしていくことを指します。
たとえば、老後のために2,000万円を貯めたいと考えた場合、毎月の給与の一部を貯金し、節約を心がけることが資産形成です。しかし、貯金だけでは金利が低いため、お金を増やすには限界があります。そこで、ある程度お金が貯まった段階で、株式や投資信託を購入してさらに資産を増やす、資産運用を行うことが必要です。
要するに、資産形成は資産運用の前段階にあたるといえるでしょう。
資産形成や資産運用はなぜ必要?
結婚や出産、子どもの進学、マイホームの購入など、人生には多くのライフイベントがあります。将来的に発生する大きな出費に備えるためには、資産形成や資産運用を通じて計画的に資金を準備しておくことが重要です。
特に老後資金の確保は、平均寿命の延伸に伴って多くの人が直面する課題の一つです。生命保険文化センターの「2022年度生活保障に関する調査」によれば、夫婦二人でゆとりある老後を過ごすためには平均で37.9万円が必要とされています。しかし、高齢になると収入源が年金などに限られることが多いため、この金額を捻出するのは容易ではありません。
ライフイベントが発生するタイミングや費用を事前に把握し、それに備えて計画的に資産形成に取り組むことが大切です。
また、すでにある程度の資産を持っている場合でも、インフレに備える必要があります。インフレとは、物価が継続的に上昇する現象のことです。
インフレが進むと、同じ金額でも購入できる商品やサービスの量が減るため、現金をただ保有しているだけでは資産の価値が目減りしてしまいます。しかし、資産運用を通じてお金を増やしておけば、インフレによる資産価値の減少を相殺できる可能性があるでしょう。
人生100年時代を迎えるにあたって、長期的な視点で資産形成や資産運用に取り組む必要性が高まっています。
資産形成・資産運用に活用できる主な金融商品の種類
ここでは、資産形成や資産運用に役立つ主な金融商品の種類と、それぞれの特徴を紹介します。目的やリスク許容度(受け入れられる損失の度合い)に合わせて金融商品を選びましょう。
元本保証がある「預貯金」
預貯金は金融機関にお金を預け、定期的に利息を受け取る商品です。普通預金や定期預金などの種類があります。普通預金はいつでも引き出しが可能で利便性が高いのが特徴です。一方で、定期預金は一定期間引き出しができませんが、普通預金よりも高い利息が期待できる特徴があります。
とはいえ、昨今の低金利化では他の金融商品と比べて利率は低くなっているため、現代においては資産運用の手段として適していません。一定額まで元本が保証されており、リスクが低いため、資産形成の初心者はまず預貯金を活用して、緊急時に備える費用や資産運用の元手を貯蓄するとよいでしょう。
為替差益を狙える「外貨預金」
外貨預金は、米ドルやユーロ、ポンドなどの外国通貨で銀行預金をする方法です。日本円で預貯金するよりも高い金利に期待できるだけでなく、為替レートの変動に伴う利益(為替差益)を得られる場合があります。
たとえば、1ドル=140円のときに1万ドルを預け入れて、1ドル=150円になったときに日本円で引き出せば、10万円の利益を得ることが可能です。
しかし、為替リスクが伴うため、預入時よりも円高が進むと、元本割れのリスクがあります。たとえば、1ドル=140円のときに1万ドルを預け入れたものの、1ドル=130円になった場合に、日本円で引き出すと10万円の損失が出ることになります。
為替相場を予測するのは簡単ではないため、短期間で利益を狙うのではなく、インフレ対策の一環として資産の一部を外貨預金で運用するのが現実的でしょう。
保障と貯蓄を両立できる「生命保険」
生命保険は、万が一のことが起きた場合に保険金が支払われる商品です。「貯蓄型」と呼ばれる生命保険であれば、保険料の一部が積立に回されるため、解約したときや満期を迎えたときに貯まったお金を受け取れます。
生命保険を利用することで、万が一の備えをしながら資産を増やすことが可能です。商品によっては払い込んだ保険料の総額を上回る保険金や解約返戻金を受け取れる場合もあります。
ただし、保険料の払込期間中に解約すると、元本割れすることも少なくありません。また、株式や投資信託、債券などの投資商品と比べると、高いリターンが期待しにくい点にも注意が必要です。
さまざまな銘柄や資産に分散投資できる「投資信託」
投資信託は、多くの投資家から集めた資金を専門家が運用する金融商品です。購入時よりも売却時の価格が高くなった場合に利益を得られます。一つの商品を購入するだけで、株式や債券、不動産などさまざまな資産・銘柄に分散投資できます。金融機関によっては100円程度の少額から始められる場合もあるため、資産運用を始めたばかりの初心者でも取り組みやすいでしょう。
ただし、元本保証はないため、売却時に購入時よりも価格が低くなっていると、損失を被る可能性があります。また、銘柄によって運用成績に違いがあるため、自分に合った投資対象を選ぶのが難しいと感じる場面もあるかもしれません。
高いリターンを追求できる「株式投資」
株式投資は、企業が資金調達のために発行する株式を売買し、差額による利益や配当金を狙う投資方法です。銘柄によっては短期間で大きな値上がり益を得られることもあります。
しかし、企業の業績や経済動向、政治情勢など多くの要素が株価に影響を与えるため、定期的な情報収集や分析が必要です。元本保証はなく、大きな損失を出す可能性もあるため、やや上級者向けの金融商品といえるでしょう。
資産運用をするなら税制優遇制度を活用しよう
資産運用を取り組む際は、運用益が非課税になるなど、税制上のメリットがあるNISAやiDeCoを活用することをおすすめします。税金面の負担が軽減できれば、その分手元に残る利益が大きくなるため、効率的に資産を増やせるでしょう。
NISA
NISAは、株式や投資信託への投資で得た売却益や配当金、分配金などが非課税になる制度です。通常、投資で得た利益に対しては、約20%の税金がかかります。しかし、NISAでは、一定の上限額の範囲内での投資であれば課税されません。
非課税で保有できる期間に上限はないため、長期的な運用を行うことも可能です。また、株式や投資信託など、さまざまな商品が投資対象になっています。
ただし、運用の自由度が高い分、銘柄選びや売買のタイミングなど自己判断が必要な場面は少なくありません。運用目標や運用期間などを定めずに、無計画に運用を進めると損失を出してしまうこともあるでしょう。
iDeCo
iDeCoは、公的年金の上乗せする目的で加入する私的年金制度の一つです。毎月掛金を拠出し、投資信託や定期預金、保険などの商品で運用します。
iDeCoは運用益を非課税で再投資できるだけでなく、掛金が全額所得控除の対象になる、受取時も公的年金等控除や退職所得控除などを受けられるといったメリットもあります。
ただし、老後の資産形成を目的とした制度であるため、原則として60歳になるまで資産を引き出せない点には注意が必要です。
初心者が資産形成・資産運用に取り組む際の注意点
初心者が資産形成・資産運用に取り組む際に、意識しておきたいポイントについて解説します。
ライフプランに基づいて目標を決める
資産形成や資産運用を始める際は、まず自分のライフプランに基づいて目標を立てることが大切です。結婚や子育て、住宅購入、退職後の生活など、将来のライフイベントを考慮し「いつまでにどれだけの資金が必要か」を具体的に見積もりましょう。目標が定まっていれば、運用方針や投資する商品も決めやすくなります。
年代ごとに戦略を考える
初心者が資産形成・資産運用に取り組む際は、年齢やライフステージに応じて戦略を考えることが大切です。たとえば、若い時期は挽回するチャンスがあるため、ある程度リスクを取って積極的に投資に取り組めるでしょう。中高年になると、老後に備えてできるだけお金を減らさないよう、安全性を重視して運用をした方がよい場合もあります。
長期投資に取り組む
資産形成や資産運用には長期的な視点が欠かせません。短期間で大きな利益を狙うよりも、長い時間をかけて安定した成長を目指す方がリスクが少なくなる傾向にあります。
また、長期投資に取り組むことで、複利効果も得やすくなるでしょう。複利効果とは、投資で得た利益を再び投資に回すことで、利益が利益を生み、雪だるま式に資産が増えていく効果のことです。
分散投資を心がける
資産運用のリスクを減らすために、分散投資を心がけましょう。資金を一つの投資先に集中させると、大きな損失を招く可能性があります。株式や債券、不動産、外国資産など、異なる種類の資産に分けて投資することで、リスクが分散され、損失を抑えやすくなるでしょう。
まとめ
一般的に、資産形成は「資産がほとんどない状態からお金を貯めること」、資産運用は「すでにある資産を増やすこと」を指します。どちらも将来のライフイベントやインフレに備えるために重要です。
初心者はまず運用の目標を決めたうえで、具体的に投資する商品を決めましょう。効率よく資産を増やすために、NISAやiDeCoなどの税制優遇制度を活用することも大切です。
東証一部上場企業で10年間サラリーマンを務める中、業務中の交通事故をきっかけに企業の福利厚生に興味を持ち、社会保障の勉強を始める。以降ファイナンシャルプランナーとして活動し、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間毎年約100件のセミナー講師なども務める。趣味はフィットネス。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信しています。 <保有資格>CFP