病気やケガによる入院や手術に備える「医療保険」。医療保険は契約できる年齢が幅広く、多くの商品で18歳未満の子供でも加入できるようになっています。子供が成長するにつれ、何かしらの保険に入っておきたいと考える家庭も多いでしょう。
しかし、「子供に医療保険は必要ない」という意見を耳にして、加入を迷っている人もいるのではないでしょうか。
この記事では、子供における医療保険の必要性や、加入する際のポイントなどを解説します。子供を医療保険に加入させるかどうか判断を迷っている人は、ぜひ参考にしてください。
目次
医療保険は子供にとって必要?
子供の医療保険に加入すべきかどうかは、各家庭の考え方によって異なります。医療費の補填さえできればよいと考える場合は、日本全国の自治体では子供向けの医療費助成制度が整備されているため、加入する必要性は低いかもしれません。
一方、医療費の負担軽減だけでなく、子供の将来に備える目的でも活用したいと考えている場合には、加入する必要性があるでしょう。
子供の医療保険に加入するかどうかは、貯蓄や収入などの経済状況を含めて総合的に判断することが大切です。
子供の医療保険加入率
生命保険文化センターの「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査」によると、生命保険に加入している子供の割合は46.7%となっており、減少傾向にあります。
あくまでも生命保険の加入率ではありますが、一般的に子供が年金保険や死亡保険に加入するケースは少ないため、医療保険や学資保険の加入率と捉えてもさほど相違はないでしょう。
実際に直近で加入した保険種類の調査では、子供の場合、医療保険が最多となっています。
「子供は医療保険の必要性が低い」といわれる3つの理由
世の中には少なからず「子供は医療保険に加入する必要性が低い」と考える人もいます。なぜそのような意見があるのか、具体的な理由を見ていきましょう。
理由①:入院率・平均入院日数が少ない
医療保険が「子供には必要ない」といわれる理由の一つが、入院する確率の低さや平均入院日数の短さです。
入院する確率が低く、入院したとしても日数が短ければ、治療費の負担が少なくなるため、医療保険でカバーすべき範囲が小さくなるのです。そのため、治療費を払うよりも毎月の保険料を支払う方が割高になってしまうケースがあるでしょう。
子供の入院率・通院率
厚生労働省の「令和2年(2020) 患者調査の概況」に掲載されている入院率を年齢別に見ると、子供の入院率は比較的低いことが分かります。0歳時の入院率は65歳以上の高齢者に匹敵する割合で多くなっているものの、0歳を超えて20歳未満においては、他の年代よりも入院率は低くなっています。
一方、通院している子供の割合は、比較的多いのが特徴です。全体的には他の年代と比べてもさほど変わらず、5歳未満の子供の場合は60代以上の高齢者よりも多い割合となっています。
ちなみに9歳以下の子供の場合、予防接種や喘息などでの受診が多くなっているのが特徴です。それ以降では、精神や行動の障害により受診するケースも少なくありません。
子供の平均入院日数
厚生労働省の「令和2年(2020) 患者調査の概況」によると、子供の平均入院日数は全年代の平均より比較的短いことが分かります。
年代 | 平均入院数 |
全年代 | 32.3日 |
0歳 | 9.4日 |
1~4歳 | 7.0日 |
5~9歳 | 7.9日 |
10~14歳 | 12.0日 |
15~19歳 | 14.0日 |
理由②:公的医療保険制度や自治体の助成制度が充実している
日本は、公的医療保険制度や自治体の助成制度が充実しています。医療費の自己負担割合は「6歳未満が2割」「6歳以上70歳未満(※)が3割」 となっているため、病院で治療を受ける場合に全額を負担する必要はありません。
※70歳以上の人でも所得が一定以上ある人は、3割医療負担となっています。
医療費が高額になった場合には「高額療養費制度」も利用できます。高額療養費制度とは、ひと月あたりの医療費が一定の自己負担額を超えた場合に払戻しを受けられる制度のことです。たとえば月に100万円の医療費がかかった場合、実際に自己負担する金額は10万円以下になります。
さらに、日本全国の都道府県や市区町村では、子供の医療費に対する助成制度が設けられています。以下は東京都で実施されている助成制度の一例です。
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ただし、対象年齢や治療区分(入院・通院など)、所得制限の有無、自己負担の有無などは、それぞれの自治体によって異なります。
このように子供の場合は多くの公的制度を利用できるため、医療費の負担を抑えられたり、無料になったりするケースも少なくないのです。
理由③:共済制度に教育機関を通して加入している場合が多い
民間の医療保険に個人で加入しなくても、幼稚園や小学校などを通じて共済制度に加入できるケースがあります。
代表的なものとしては「園児総合保障制度」があります。子供のケガや病気、賠償責任などを保障する保険となっており、比較的安い保険料で大きな補償を受けられるようになっています。
共済制度だけで治療費の補償が十分足りるという場合には、民間の医療保険に加入する必要性は低いでしょう。
「子供は医療保険の必要性がある」といわれる2つの理由
ここまで「子供は医療保険の必要性が低い」理由について紹介してきましたが、一方で必要性があると考える世帯も存在します。ここでは、その理由について解説します。
理由①:助成金や公的医療保険だけでは賄えない分をカバーできる
人や病状によって公的医療保険制度や各自治体が実施する医療費助成制度を利用しても、カバーしきれない費用があります。また医療費助成制度は、全ての人が対象となるわけではなく、両親の年収や子供の年齢によっては対象外となるケースもあるのです。
民間の医療保険は一度契約すれば、支払い条件に該当する限り、一定の給付金が支払われます。いざというときのために加入しておくと、治療費の心配をせずに済むため安心です。
理由②:将来の備えとして準備できる
医療保険の中には、病気やケガで入院した場合に保障を一生涯受けられる商品があります。早めに加入しておけば、今後年齢を重ねて保険が必要となった場合に困ることがありません。健康状態が悪化すると加入できなくなるリスクもあるため、早めに加入しておくことには大きなメリットがあります。
子供が医療保険に加入するメリット
子供が医療保険に加入することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。以下で詳しく解説します。
助成金や公的医療保険ではカバーできない費用に対して補えられる
子供の医療保険に加入するメリットは、助成金や公的医療保険ではカバーできない以下のような費用に対して備えられることです。
- 差額ベッド代
- 入院中の食費や雑費
- 付き添う親の交通費や諸費用
- 付き添う親の収入減少分
- 先進医療や患者申出療養にかかる費用
差額ベッド代とは、主に病院で個室を利用する際にかかる費用のことです。厚生労働省によると、差額ベッド代は入院1日あたり6,354円かかります。食費は1食あたり460円です。入院中は日用品の購入費用や、雑誌・テレビなどの雑費も発生するため、入院が長引くほど自己負担する金額は大きくなります。
また、小さい子供が入院した場合には、付き添いとして保護者が個室に寝泊りするケースもあります。そのような場合は、子供と同様に差額ベッド代や雑費に加えて、交通費なども必要となるでしょう。これらは全額自己負担になります。
加えて経済的な負担が大きくなりやすいのが、「先進医療」や「患者申出療養」を受ける際の治療費です。先進医療や患者申出療養によって発生する診察や検査、入院料などは保険適用になります。ただし、先進医療の技術料や、未承認薬の費用などは保険の対象外となり、全額自己負担する必要があります。
過去に先進医療の場合は約300万円 、未承薬の薬剤費は約150万円かかったケースがありました。医療保険に加入しておけば、このような費用が発生した場合でもある程度カバーできる可能性があるでしょう。
※先進医療とは、厚生労働大臣が定めた高度な医療技術を用いた療養のことを指し、2022年9月1日現在では84種類が認可されています。
※患者申出療養とは患者本人からの申し出があれば、一定条件をクリアした上で身近な医療機関で未承認薬の投与や日本国内で行われていない治療を受けられる制度のことです。
成長した後に病気が発覚しても安心できる
医療保険に加入するときは、基本的に過去の病歴や現在の健康状態を保険会社に申告しなければなりません。
子供のうちは健康状態に問題がなかったとしても、年齢を重ねるにつれて病気やケガのリスクは高まります。加入を考え始めたタイミングで健康状態が悪くなってしまうと、保険に加入できないケースも考えられるでしょう。
しかし、早めに医療保険に加入しておけば、成長した後に病気が発覚しても安心です。一般的な医療保険では一度契約すると、万が一健康状態が悪化したとしても、再度審査をすることはありません。また、若いうちに加入するほど毎月の保険料負担を抑えられるのもメリットです。
子供に医療保険をプレゼントすることも可能
保険料の負担がなくなった医療保険の契約者を、子供名義に変更することで、医療保険を子供にプレゼントできるというメリットもあります。
医療保険の中には、保険料を一生涯支払う「終身払い」と保険期間が終わる前に保険料の払い込みを終えられる 「短期払い」の2種類から選べる商品があります。子供に医療保険をプレゼントしたいと考えた場合は、「短期払い」を選択し、保護者が払い込みを済ませることで実現可能となります。
生命保険料控除を受けられる
医療保険に加入することで、支払った保険料に応じて所得税や住民税の負担が軽くなる「生命保険料控除」の制度が利用できます。控除の対象となるのは、保険料を支払っている契約者(親)です。
具体的には、以下のような計算に基づいて所得控除を受けられます。
年間の支払い保険料 | 控除額 |
20,000円以下 | 支払い保険料の全額 |
20,000円超~40,000円以下 | 支払い保険料×1/2+10,000円 |
40,000円超~80,000円以下 | 支払い保険料×1/4+20,000円 |
80,000円超 | 40,000円 |
年間の保険料支払いが10万円、所得税と住民税の税率がともに10%となっているケースでは、所得税と住民税がそれぞれ4,000円(40,000円×10%)ずつ軽減されます。
子供の医療保険に加入する際のポイント
何も考えずに子供の医療保険に加入すると、必要性が低い保障に加入してしまったり、過度な保険料を支払うことになったりする可能性があります。
ここでは、子供の医療保険に加入するときに注意しておきたいポイントを紹介します。
ポイント①:早めに加入する
せっかく医療保険に加入するのであれば、できる限り早めに加入することが大切です。理由としては、一般的な医療保険では、年齢が若いほど毎月の保険料負担が少なく済む仕組みになっているためです。
また、病気になってからでは、保険に加入できない場合もあります。乳幼児の段階で、先天性の病気が発覚することも少なくありません。医療保険の中には0歳から加入できるタイプもあるため、加入を検討している場合はできる限り早めに加入するのがおすすめです。
ポイント②:無理なく支払える保険料に設定する
子供の医療費についてはさほど心配がないものの、保険に加入することで安心感を得たいと考えている人もいるでしょう。その場合は、家計に負担がかからない商品を選ぶことが大切です。
充実した保障を用意したい人でも、家計に支障が出るほどの高額な保険に加入するのは避けた方がよいでしょう。まずは貯蓄や資産で備えること考慮するほか、事前に公的保障や助成制度も確認した上で、無理なく支払える範囲で保険に加入するのがおすすめです。
ポイント③:助成金などを考慮した上で保障金額を設定する
基本的に民間の医療保険は、公的制度を活用した上でカバーしきれない部分を補填する目的で加入しましょう。
子供の公的制度は大人よりも充実しているため、必要以上に大きな保障に加入するのはおすすめできません。子供が利用できる公的保障制度や助成制度の種類を確認し、「病気やケガで治療をするといくら不足するのか」を考慮した上で保障金額を設定しましょう。
なお、どの病気にも備えられるほど十分な貯蓄や資産がある家庭は、そもそも保険が必要かどうかを判断する必要があります。子供の将来のために医療保険をプレゼントする目的でなければ、保険に加入する必要性は低いでしょう。
医療保険以外で子供の病気やケガに対して備える方法
子供の病気やケガに備える方法は、医療保険だけではありません。どのようなものがあるのか知るためにも、ここでは4つの方法を紹介します。
親の保険に特約を付帯する
親が契約済みの生命保険や医療保険に、特約として家族の医療保障を付帯することによって子供の病気やケガに備える方法があります。
子供と別々の保険に加入するよりも保険料を抑えられる可能性が高い点がメリットです。ただし一般的に、親が保険を解約すると子供の保障もなくなるため、注意しなければなりません。
傷害保険へ加入する
傷害保険に加入するのも選択肢の一つです。傷害保険では病気の場合は保障されないため、完全に代用することはできないでしょう。しかし医療保険と比べると、割安な保険料でケガに対して手厚い補償が得られます。病気よりもケガが心配な家庭は、加入を検討してみてもよいかもしれません。
共済保険に加入する
県民共済や全労災のような、共済保険に加入するのも有効な方法です。共済保険は毎月2,000円程度の掛け金で加入できます。一般的な保険商品よりも保険料が割安となっているため、子供のために最低限の保障だけ備えておきたい場合におすすめです。
学資保険に医療特約を付帯する
学資保険とは子供の教育資金を準備するための保険のことです。学資保険の中には、子供の医療保障を特約として付加できるタイプもあります。最低限の保障さえあればよいと考える人には、学資保険を活用する方法もおすすめです。
ただし、多くの場合、特約を付加すると満期時に受け取れる金額が減ってしまうため注意しましょう。
まとめ
子供に医療保険が必要かどうかは、考え方や世帯の経済状況などによって異なります。必要・不要どちらがよいとは、一概にはいえません。公的保障でカバーできない部分を補うことや、将来の備えとして活用することもできるため、メリットが感じられる場合には加入しておくとよいでしょう。
ただし、子供の場合は入院のリスクが低く、活用できる公的制度も多くなっているため、基本的に医療保険を手厚く設定する必要性は低いといえるでしょう。子供を医療保険に加入させる場合は、必要な保障を見極めた上で、無理なく支払える範囲で加入することをおすすめします。
東証一部上場企業で10年間サラリーマンを務める中、業務中の交通事故をきっかけに企業の福利厚生に興味を持ち、社会保障の勉強を始める。以降ファイナンシャルプランナーとして活動し、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間毎年約100件のセミナー講師なども務める。趣味はフィットネス。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信しています。 <保有資格>CFP