生命保険は「万が一」のときの保障だけでなく、資産運用の手段としても活用できます。しかし、保険で資産運用をする場合、一般的な「投資」とどのような違いがあるのか気になっている人も多いのではないでしょうか。
この記事では、保険で資産運用をするメリット・デメリットや投資との違いなどを詳しく解説します。資産運用ができる保険についても紹介しますので、自分に適した運用方法を見つけるためのヒントにしてください。
目次
保険で資産運用はできる
生命保険でも資産運用は可能です。生命保険は「掛け捨て型」と「貯蓄型」の2つの商品に大きく分けられます。掛け捨て型の商品とは、保険期間中に契約上で定める支払い条件に該当した場合、給付金や保険金が支払われる商品です。解約時や保険期間終了時に受け取れるお金はなく、契約期間中に何もなければ支払った保険料は戻ってこないことになります。
一方、貯蓄型の商品は、解約時や満期を迎えた時に、支払った保険料に応じて解約返戻金や満期保険金を受け取ることが可能です。支払った保険料がある程度戻ってくるため、保険に貯蓄の要素を加味した商品といえます。
貯蓄型の商品では、解約返戻金や満期保険金が払い込み保険料の総額を上回るケースも少なくありません。つまり、貯蓄型の商品を選べば、万が一の事態に備える「保障」と、手持ちの資金を金融商品を通じて効率的に増やす「資産運用」の両方を実現できるのです。
資産運用を始めようと検討している人は、株式や投資信託などの一般的な金融商品だけでなく、生命保険も活用できることを知っておきましょう。
「保険での資産運用」と「投資」の違い
生命保険での資産運用と投資には、以下の点に大きな違いがあります。
- 万が一のための保障の有無
- 投資に関する知識の必要性
- 資産運用の成果の大きさ
万が一のための保障の有無
保険で資産運用をする場合、契約期間中に被保険者(保障対象となる人)が死亡したり、病気やケガで入院したりすると、死亡保険金や入院給付金が支払われます。
一方で投資の場合は、万が一の事態に備える保障はありません。そのため、もしものことがあったときには、自らの貯蓄から遺族の生活費用や医療費などを支払う必要があります。十分な貯蓄がない場合は投資した資金を取り崩すことも可能ですが、その時点までの運用成果に応じた金額しか受け取れません。
もし運用状況があまりよくない場合は、必要な資金が不足してしまい、自身や家族の生活が不安定になる可能性があります。
投資に関する知識の必要性
保険で資産運用をする場合、基本的に投資に関する詳しい知識がなくても問題ありません。実際の運用自体は保険会社が行うためです。銘柄選びや相場を見ながらタイミングよく売買するスキルなどがなくても、資産運用を始められます。
一方、投資をする場合は、株式や投資信託、債券などさまざまな金融商品の中から自分に合った商品を見つけ出さなければなりません。また、利益を出すためには価格が安いときに買い、高いときに売ることが重要です。売買のタイミングを見極めるために、相場分析の手法なども身に付けておく必要があります。
資産運用の成果の大きさ
保険で資産運用する場合、投資と比べると大きな運用成果には期待できません。一般的な生命保険の場合、契約した時の積立利率(保険会社が将来保険金を支払うために積み立てている部分に対して適用される利率)に応じて、将来受け取れる保険金が決まります。つまり、契約した時点で将来の利益が決まるため、どんなに市場金利が高くなったとしても、一定以上の成果には期待できません。
市場の動向に合わせて、契約中に積立利率が変動する保険商品もあります。しかし、保険会社に運用を一任できる分、運用にかかる手数料が割高になる傾向があるため、投資商品と比べると大きな運用成果は得にくいことがほとんどです。
一方、投資の場合は、投資する商品や売買のタイミング、投資方法次第で短期間で大きな利益も狙えます。
保険で資産運用をするメリット
保険で資産運用をする場合、以下のようなメリットが得られます。
- 万が一の際にも安心できる
- 満期保険金などを準備できる
- 生命保険料控除を利用できる
万が一の際にも安心できる
保険で資産運用をすると、運用中に万が一のことがあった場合は、保険金や給付金が支払われます。一般的な生命保険であれば、基本的に支払い条件に該当した時点で契約時に決めた金額が支払われるため、加入した直後に万が一のことが起きた場合も安心です。「老後資金の準備をしたいが子供がいるため、万が一の場合の遺族の生活も気になる」といった状況でも役立つでしょう。
一方、投資をしている最中に万が一のことがあった場合、医療費などで資産を減らしてしまい、投資を続けることが困難になる可能性があります。
計画的に必要な資金を準備できる
教育費用や老後資金などさまざまなライフイベントに必要な資金を計画的に準備できる点も、保険で資産運用をするメリットの一つです。
たとえば「養老保険」では、保険期間満了時に満期保険金を受け取れます。保険期間や保険金額は自由に設定可能で、契約時に満期保険金額が確定する点が特徴です。仮に20年後に教育資金として200万円必要と予測する場合、保険期間を20年、満期保険金を200万円に設定すれば、必要な資金を確実に準備できるでしょう。
しかし、投資の場合、20年後に手元の資金が200万円に達しているという保証はありません。資産が増えている可能性もあれば、大きく減っている可能性もあります。
また、多くの場合、保険料は自動的に口座から引き落とされます。半ば強制的に資産形成できるため、貯蓄が苦手な人でも続けやすい点も保険ならではのメリットといえるでしょう。
生命保険料控除を利用できる
生命保険で資産運用をすると、生命保険料控除を利用して所得税や住民税の負担を減らせる可能性があります。
生命保険料控除とは、1年間に支払った保険料に応じて、所得から一定金額を控除できる制度です。2012年1月1日以降に契約した保険の場合、「新生命保険料控除」「介護医療保険料控除」「新個人年金保険料控除」の3つの控除枠があり、それぞれ最高4万円、合算で最高12万円まで控除を受けられます。
たとえば所得税率が20%、住民税率が10%のケースでは、4万円の控除を受けた場合、4万円×20%+4万円×10%=1万2,000円の節税が可能です。保険の契約は長期に渡るケースが多いため、保険期間を通じて数十万円の節税につながる可能性があります。
利用可能な資金が増えるという点では、投資によって利益を得る場合と同様の効果を得られるといっても過言ではないでしょう。
保険で資産運用をするデメリット
保険で資産運用する際は、以下のようなデメリットがあることも知っておきましょう。
- 長期間加入し続ける必要がある
- 掛け捨て型の保険よりも保険料が高い
- 自由にお金を引き出せない
メリットと照らし合わせながら、自分に適した資産運用の方法を考えてみてください。
長期間加入し続ける必要がある
保険に加入して一定の運用成果を得るためには、長期間の加入が必要です。払い込んだ保険料に対してどのくらいのお金が戻ってくるかを示す「解約返戻率」は、加入期間が短いほど低くなる傾向にあります。
また、解約返戻率が100%を超えるのは、保険料の払込を終えてからであることがほとんどです。そのため、短期間で解約した場合は解約返戻率が100%を下回る、つまり「元本割れ」の状態となるケースも少なくありません。契約してから1〜2年程度で解約すると、払い込んだ保険料がほとんど戻ってこないこともあります。
期待する運用成果を得るためには最低何年加入しなければならないのか、加入時に必ず確認しておきましょう。
掛け捨て型の保険よりも保険料が高い
一般的に資産運用に活用できる貯蓄型の保険は、掛け捨て型の保険に比べて保険料が高めに設定されています。貯蓄型保険の保険料には、保険金を支払うための費用に加えて、契約者に保険金を払い戻すための費用が含まれているためです。
契約年齢や保険期間、保険金額などが同じであれば、貯蓄型よりも掛け捨て型の保険の方が割安な保険料で加入できます。毎月の保険料が家計の負担になる可能性もあるため、加入する際は長期間無理なく支払える保険料になっているかも確認した方がよいでしょう。
自由にお金を引き出せない
急にお金が必要になった場合、銀行預金であれば好きなタイミングで引き出すことができます。また、株や投資信託などの投資商品であれば、途中で売却してお金を用意することも可能です。
しかし、保険の場合は一度支払った保険料を途中で引き出すことはできません。途中解約はできるものの、支払った保険料が全額戻ってくるとは限らず、手数料が差し引かれる場合もあります。
そのため、保険加入中に大きな資金が必要になるリスクを考慮し「契約者貸付制度」が利用できる保険商品への加入を検討してみるのもよいでしょう。契約者貸付制度は、解約返戻金の範囲内で保険会社から資金を借りることができる制度です。契約者貸付制度を活用すれば、保険契約を継続しつつ、一定の資金を準備できます。
資産運用ができる保険
一般的に以下に挙げるような保険は貯蓄性が高く、資産運用に活用しやすいといわれています。
- 変額保険
- 外貨建て保険
- 変額個人年金保険
どのような特徴を持った保険なのか、以下で詳しく解説します。
変額保険
変額保険は、保険料を株式や債券などで運用し、その成果によって解約返戻金や保険金が変動する保険商品です。運用成績がよければ、受け取れる保険金が増える可能性がありますが、逆に運用が不調だと元本割れするリスクもあります。一般的な投資商品に近い性質を持った保険であるため、生命保険の中でも特に大きな運用成果に期待できる商品といえるでしょう。
外貨建て保険
外貨建て保険は、保険料を外貨で運用し、保険金や解約返戻金も外貨で受け取る保険商品です。主に米ドルや豪ドルなど、日本円に比べて金利が高い通貨で運用されるため、効率よく資産を増やせる可能性があります。
ただし、為替リスクがあるため、日本円で受け取る場合はタイミングによって受け取る金額が変動する点に注意が必要です。
個人年金保険
個人年金保険は、加入者が一定期間保険料を支払い、契約時に定めた年齢から年金を受け取る商品です。年金は、10年程度の一定期間のみ支払われるタイプと、生涯にわたって支払われるタイプがあります。
多くの個人年金保険では、年金受取開始前の死亡給付金や解約返戻金の上限を払込保険料相当額までとすることで、受け取れる年金額を増やしてい ます。そのため、生命保険の中でも貯蓄性が高く、資産運用の手段として活用しやすい商品といえるでしょう。
まとめ
生命保険は、払い込んだ保険料以上の満期保険金や解約返戻金を受け取れるケースもあるため、資産運用の手段として活用することも可能です。万が一への備えと資産形成を両立できる点はメリットといえますが、一般的な投資と比べると大きなリターンは得にくいかもしれません。また、途中で解約すると元本割れする可能性もあるため、資産運用の目的や目標額によっては生命保険以外の手段も検討してみましょう。
東証一部上場企業で10年間サラリーマンを務める中、業務中の交通事故をきっかけに企業の福利厚生に興味を持ち、社会保障の勉強を始める。以降ファイナンシャルプランナーとして活動し、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間毎年約100件のセミナー講師なども務める。趣味はフィットネス。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信しています。 <保有資格>CFP