生命保険に対して「家族を守るために入るもの」というイメージを持っている人は少なくないでしょう。独身なら生命保険は必要ないと感じることも無理はありません。しかし、独身だからこそ備えておくべきリスクがあることをご存知でしょうか。
本記事では、独身の人にとっての生命保険の必要性や、生命保険の選び方などについて詳しく解説します。自分に最適な保険を見つけたい人は、参考にしてください。
目次
生命保険は独身でも必要?
生命保険には、医療保険や死亡保険などさまざまな種類があり、それぞれカバーするリスクが異なります。そのため「独身だから不要」と安易に判断するのではなく、自身の状況に合わせて検討することが重要です。
独身の場合は、配偶者や子どもなど経済的に支える家族がいないため、死亡保障の必要性は低いといえます。しかし、万が一病気やケガで入院した場合、高額な治療費を負担する可能性があります。独身の場合は自分自身の収入から費用を負担しなければならないため、治療費を捻出することに不安がある場合は、医療保険に加入しておいた方がよいでしょう。
また、結婚の有無にかかわらず、亡くなった場合は葬儀代などの費用が発生します。家族に経済的な負担をかけたくない人は、死亡保険を検討した方がよいでしょう。
さらに、将来結婚する場合に備えて、独身のうちから生命保険に加入しておくのも一つの手です。一般的に生命保険は加入する年齢が若いほど、毎月支払う保険料は安く済みます。高齢になると保険料が高くなるだけでなく、健康状態が悪化して加入できなくなるリスクもあるため、可能な限り早めに検討するのがおすすめです。
独身の人が備えておきたいリスク
独身であっても、以下のようなリスクに対して何も備えがない場合、自身の生活が苦しくなったり、家族に迷惑をかけてしまったりする可能性があります。
- 病気やケガのリスク
- 死亡のリスク
病気やケガのリスク
独身の人は、病気やケガによる治療費の負担や収入減少への備えが重要です。
治療費に対しては、公的医療保険や高額療養費制度などの公的保障を活用すれば、自己負担を軽減できます。しかし、差額ベッド代や食費、先進医療の技術料など、公的保険の対象外になる費用は少なくありません。実際に、入院日数が長くなればなるほど、必要な自己負担費用は増加します。
生命保険文化センターの「2022年度 生活保障に関する調査」によると、直近(過去5年間)入院時の自己負担費用の平均は以下の通りです。
入院日数 | 平均自己負担費用 |
5日未満 | 8.7万円 |
5〜7日 | 15.2万円 |
8〜14日 | 16.4万円 |
15〜30日 | 28.4万円 |
31〜60日 | 30.9万円 |
61日以上 | 75.9万円 |
会社員や公務員の場合は、病気やケガで4日以上働けなくなった時には「傷病手当金」の給付を受けられる場合もあります。
しかし、給付額は休職前の約3分の2にとどまるため、元々経済的に余裕がない場合、収入減少と治療費の増加により家計は一層苦しくなるでしょう。貯蓄を取り崩したり、最悪の場合は家賃や生活費が払えなくなったりするリスクもあります。
また、自営業者の場合、基本的に傷病手当金の給付を受けられないため、生活に影響が出る可能性は少なくありません。独身の人は、これらの治療費や収入減少をカバーできる医療保険や就業不能保険に優先的に加入しておくことをおすすめします。
死亡リスク
独身であっても、死亡時のリスクへの備えは重要です。死亡時には葬儀費用や墓地・墓石の費用など、さまざまな費用がかかります。鎌倉新書の「第5回お葬式に関する全国調査」によると葬儀費用の平均は110.7万円 です。そのため、独身の場合は100万円から200万円程度の死亡保険があれば、一般的には十分でしょう。
ただし、離婚して子どもがいる場合や親や兄弟姉妹の世話をしている場合など、経済的に支えている家族がいる人は、遺族が生活に困らないように保障金額を高めに設定した死亡保険に加入しておいた方がよいでしょう。
独身の人におすすめの生命保険
独身の人は、以下に挙げる生命保険への加入を優先的に検討しましょう。
- 医療保険
- 就業不能保険
- 所得補償保険
医療保険
医療保険は、病気やケガによる治療費の出費に備える保険です。病院へ入院した際や手術をした際に、日数や回数に応じて給付金が支払われます。基本的に実際にかかった治療費とは関係なく、契約時に決めた金額を受け取ることが可能です。
そのため、医療費の自己負担分の支払いだけでなく、差額ベッド代や食費などの公的医療保険の対象外となる費用の支払いや、休業中の収入をカバーする目的で活用できます。
また、医療保険の中には特約を付加することで、がんや三大疾病など、特定の病気に手厚く備えられる商品もあります。しかし、独身の人は、まず柔軟に活用できるシンプルな医療保険に加入しておくことがおすすめです。
就業不能保険
就業不能保険は、病気やケガが原因で働けない状態が一定期間続いたときに、収入の損失をカバーするための保険です。働けなくなってから復職するまで、あるいは契約時に決めた一定の期間まで、毎月給料のような形で給付金が受け取れるため、生活費や治療費などの経済的な負担を軽減できます。
ただし、働けなくなってから60日や180日など一定期間を経過した場合に、給付金が支払われるケースが一般的です。そのため、働けなくなったからといって、すぐに給付金を受け取れるとは限らないため注意しましょう。
また、「就業不能状態」の定義は商品によって異なります。特定の病気のみを対象とする場合や、障害認定や介護認定を要件としている場合もあるため、加入時には必ず確認しておきましょう。
所得補償保険
所得補償保険は、病気やケガで一定期間働けなくなった際に、収入の不足分をカバーするための保険です。
就業不能保険と同じような性質の保険ですが、保険期間や保険金を受け取れる期間には違いがあります。就業不能保険は60歳や70歳などの歳満期や、10年や20年などの年満期から保険期間を選択できるケースが一般的ですが、所得補償保険の保険期間は1~5年程度と短くなっています。
就業不能保険の場合、保険期間満了まで保険金を受け取れる商品もあるため、長期間保険金を受け取れる可能性もありますが、所得補償保険の場合は長くても2年程度です。 一方、免責期間(支払い対象外となる期間)は、所得補償保険の方が短い傾向にあります。
公的保障がほとんどなく、働けなくなった場合にすぐに家計に影響が出やすい自営業者は、一時的な所得の不足をカバーできる所得補償保険を選ぶとよいでしょう。一方、直ちに収入が大きく減少するリスクは低いものの、長期的な家計への影響を軽減したい会社員や公務員の方は、就業不能保険の選択が適しているかもしれません。
【年代別】独身の男性・女性における生命保険の選び方
ライフステージの変化に伴い、備えるべきリスクも変化します。以下では、年代別に、独身の人に適した保険の選び方や、優先的に加入すべき保険などを解説します。
20代独身の生命保険の選び方
20代は、他の年代と比べて貯蓄が少ない傾向にあります。金融広報中央委員会の「令和5年家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査]」によると、単身世帯の金融資産保有額は以下の通りです。
年代 | 金融資産保有額 |
20代 | 121万円 |
30代 | 594万円 |
40代 | 559万円 |
50代 | 1,391万円 |
60代 | 1,468万円 |
70代 | 1,529万円 |
20代の場合、病気やケガによる急な出費があると、貯蓄だけではカバーできず家計が苦しくなるリスクがあります。若いうちは入院のリスクが少ないように思えますが、生命保険文化センターの「2022年度 生活保障に関する調査」によると、20代のうち9.9%が過去5年以内に何らかの理由で入院をしています。
一方、死亡リスクは低いため、できるだけ保険料の負担が少ない医療保険に優先的に検討するのがおすすめです。
30~40代独身の生命保険の選び方
30~40代はストレスや食習慣などによる、生活習慣病のリスクが高まる年代です。20代同様に、まずは医療保険に加入することを検討しましょう。服薬を開始したり、健康診断で再検査の指摘を受けたりすると、加入できなくなるリスクもあるため、早めに検討することが大切です。
女性の場合は、女性特有の病気や、卵巣がん ・子宮がん など女性特有のがんに罹患するリスクが高くなる年代でもあるため、特約の付加などにより手厚く準備しておく必要があります。
また、傷病手当金のみの場合、働けなくなったときの生活が心配な人や、公的保障が少ない自営業者などは就業不能保険にも合わせて加入するとよいでしょう。
さらに、余裕がある場合は、老後資金への備えに目を向けてもよいかもしれません。30~40代のうちに資産形成を始めれば、毎月少額の積み立てであっても、複利効果で最終的に大きな金額を貯められる可能性があります。複利効果とは、運用で得た利益を再度元本に組み込んで運用をすることで、雪だるま式に利益が膨らんでいく効果のことです。
老後資金を貯める目的で加入する場合は、長期投資によって複利効果に期待できる変額保険を検討してみましょう。あるいは、生命保険料控除によって税金の軽減効果にも期待できる個人年金保険に加入するのも一つの手です。
50~60代独身の生命保険の選び方
50~60代は、40代以下と比べて、さらに病気、ケガで入院するリスクが増加する傾向にあります。
たとえば生命保険文化センターの「2022年度 生活保障に関する調査」によれば、直近(過去5年間)で入院経験がある人の割合を年代別にみると、以下のような結果になっています。
年代 | 直近で入院経験がある人の割合 |
20代 | 9.9% |
30代 | 8.9% |
40代 | 10.9% |
50代 | 15.0% |
60代 | 20.2% |
また、男女ともにがんの罹患リスクが急激に高まることも、50~60代の特徴 です。
50~60代は貯蓄額こそ他の年代に比べて多い傾向にありますが、老後の生活費用に備えることも考えると、貯蓄に手をつけずに済むように医療保険やがん保険に加入しておく方がよいでしょう。
健康状態が悪化する前に検討しておくのがベストですが、もし通常の医療保険に加入できない場合は「引受基準緩和型医療保険」に加入するという手段もあります。引受基準緩和型医療保険とは、加入時の告知項目を3〜5つ程度に限定している医療保険です。
ただ、持病や既往症がある場合も加入しやすい反面、通常の医療保険よりも保険料は割高になっています。引受基準緩和型医療保険を検討する際は、保障内容と保険料のバランスを考慮しながら、加入するかを決めましょう。
まとめ
生命保険には、死亡保険や医療保険、がん保険などさまざまな種類があります。それぞれカバーするリスクが異なるため、独身であっても家計の状況や扶養家族の有無に合わせて必要な保険に加入することが重要です。
基本的に、死亡保険よりも医療保険や就業不能保険など、生存中に給付を受けられる保険の検討を優先することをおすすめします。
東証一部上場企業で10年間サラリーマンを務める中、業務中の交通事故をきっかけに企業の福利厚生に興味を持ち、社会保障の勉強を始める。以降ファイナンシャルプランナーとして活動し、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間毎年約100件のセミナー講師なども務める。趣味はフィットネス。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信しています。 <保有資格>CFP