病気やケガで障がいが残った場合の公的保障とリスク。障害年金と労災保険について

保険全般

事故や病気などで障がいをおってしまった場合、ご自身や家族の生活に大きな影響が与えられます。

障害が残ってしまった場合に公的保障によりどの程度の保証・金額の支給がなされるのか、その場合のリスクがどの程度大きく、リスク対応策は何があるのかについてこの記事では解説します。

障がいが残った際の公的保障制度

病気やケガによる障がいが残ってしまった際の、収入面の公的保障制度をみてみます。

公的保障としては大きくは以下の2つが大きなものになります。

①障害年金としての「障害給付」「障害手当金」「障害年金 生活者支援給付金」

②労災保険としての「
障害補償給付・障害給付」「障害特別支給金」「障害特別年金・障害特別一時金」

まずは病気やケガで障がいをおってしまった場合、公的年金の加入者は年金保険制度から「障害給付」を受けることができます。この「障害年金」は、日本年金機構により運営され、病気やけがで日常生活に著しい制限を継続的に受ける場合などの生活保障として支給される公的年金です。

次に、「労働中」もしくは「労働に起因・付随する理由」であれば、労災保険から「障害補償給付・障害給付」を受給することになります。労災保険は厚労省が管轄・運営する制度です。

なお労災と障害年金をあわせて受け取ることもできますが、その場合は労災給付は「併給調整」といって、減額され支給されることとなります。

それぞれの給付について見ていきましょう。

年金保険の障害給付

障害年金の受給者数

厚生年金保険・国民年金事業年報によると、障害年金を受給している人は令和2年3月時点で約216万人、人口の約1.7%になります。

一方、内閣府が発表した令和2年に障害の数とその内訳の推計数値が以下になります。いずれの障がい者も増加傾向にあります。

  • 身体障害者(身体障害児を含む)約436万人
  • 知的障害者(知的障害児を含む)約109万人
  • 精神障害者          約419万人

なお上記の「身体障害者」・「知的障害者」・「精神障害者」の数は、厚生労働省による「生活のしづらさなどに関する調査」、「社会福祉施設等調査」、「患者調査」等に基づき推計された数値を内閣府が発表しています。

詳細を知りたい方は内閣府のサイトをご覧ください。

障害年金の支給額

障害年金の支給額は以下の2つによって変化します。

①自営業者・フリーランス・無職の人が加入する「国民年金」か会社員や公務員が加入する「厚生年金」か
②障害の程度・等級

また障害年金の金額は年度(4月から翌年3月)ごとに変わります。支給日は年6回、偶数月の15日で、その月の前2ヶ月分がまとめて振り込まれます。なお障害年金は非課税であり、老齢年金のように所得税や住民税を控除されることはありません。

障害基礎年金と障害厚生年金

令和4年度(2022年度)の障害年金の金額を見ていきます。障害基礎年金は国民年金加入者、つまり国民全員が受け取れることになります。(厳密には20歳未満の人や60歳以上65歳未満の人は国民年金に加入していませんが、国内在住の期間中に初診日を迎えた場合は障害基礎年金の支給対象)なお障害基礎年金が受給できるのは障害等級1,2級のみで障害等級3級は対象外となります。また子どもの加算もあります。

 ※18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない又は20歳未満で障害等級1級か2級の障害者。 第1子・第2子は各223,800円、 第3子以降:各74,600円となります。

また会社員や公務員のように厚生年金加入者は障害基礎年金と障害厚生年金の両方を受け取れます。障害厚生年金は収入によってその支給額が異なります。厚生年金支給額の算出方法は日本年金機構のサイトを参照ください。

以下はこれらをまとめた表になります。

障害等級 自営業(障害基礎年金) 会社員(障害基礎年金と障害厚生年金の合算金額)
※1
1級 年額約97万円 + 子どもの加算 年額約192万円
2級 年額約78万円 + 子どもの加算 年額約154万円
3級 なし 年額約76万円

※1:収入によって障害厚生年金部分は変動。以下は標準報酬月額35万円加入25年の場合。障害厚生年金はさらに配偶者がいる場合は年額で約22万円が加算。

なお障害の対象となる病気やケガには

  • 外部障害(眼、聴覚、手足の障害など)
  • 精神障害(統合失調症、うつ病、認知障害など)
  • 内部障害(呼吸器疾患、心疾患、腎疾患、肝疾患、血液・造血器疾患、糖尿病、がんなど)

などがあります。

各等級の障害認定基準としては以下が目安になります。

1級:他人の介助を受けなければ日常生活を贈る事ができない
2級:必ずしも他人の介助を必要としないが、日常生活を送ることが困難で労働での収入を得られない
3級、労働が著しい制限を受ける

障害の程度については、国民年金法施行令および厚生年金保険法施行令によって各等級が定められています。なお「障害年金における障害等級」は、一般的な「身体障害者手帳の等級」とは別ものになります。そのため、身体障害者手帳を持っていなくても障害年金をもらう事はできます。

なお、障害認定には「永久認定」と「有期認定」の2種類があります。

  • 永久認定:原則として死亡するまで
  • 有期認定:1〜5年ごとに更新。障害状態が軽くなった場合には等級の下降または障害年金の支給停止を行う

永久認定の場合は原則として永久に障害年金が支給されます。有期認定の場合は1~5年ごとに更新で障害状態によっては障害年金の支給額が減額または支給停止となります。更新時期に送られてくる「障害状態確認届」を返送しないと支給停止となるのでご注意ください。

年金を請求するときは日本年金機構のサイトから必要書類をダウンロードするか、全国の年金事務所(日本年金機構運営の窓口機関)または年金相談センター(日本年金機構の委託事業として全国社会保険労務士連合会が運営)にて手に入れることができます。

障害等級3級に満たない人の「障害手当金」

障害等級3級に満たない軽微な症状の場合に支給される「一時金」として「障害手当金」があります。収入や厚生年金の加入期間によって金額がことなります。加入期間に関わらず、約116万円の最低保証金額があります。

障害年金 生活者支援給付金

障害基礎年金の受給者で、前年の所得が4,721,000円以下である場合に「障害年金 生活者支援給付金」以下の条件を満たした方に対して給付されます。

給付金額は以下となります。

  • 障害等級2級の方: 5,020円(月額)
  • 障害等級1級の方: 6,275円(月額)

労災保険の障害補償給付・障害給付

労働中もしくは労働に起因する理由でケガや病気を発症し、治療を受けても症状について改善の見込みがなく固定された状態(一定の後遺症が残っており、それ以上の回復は期待できない状態)の際に支給されるのが「労災保険の障害補償給付・障害給付」です。業務中の災害の場合は障害補償給付となり、業務にあたって通勤中の災害の場合は障害給付となります。これは「給付基礎日額」といって、賞与などの臨時の収入を除いた災害発生前3ヶ月間の賃金の平均日額を基準とします。

そのほかにも「障害特別年金」「障害特別一時金」があります。こちらは「算定基礎日額」といって賞与などの特別給与1年分を365日で割った金額となります。障害等級が1級から7級のときは毎年支給される年金が支給され、8級から14級のときには1回のみの一時金ちおして支給されます。

加えて「障害特別支給金」も保険給付に加え第1級~第14級の障害等級により342万円から8万円が一時金で支給されます。等級の詳細は厚生労働省のサイトをご覧ください。

いずれも支給金額は障害等級に応じて変わります。

まとめると以下のようになります。

障害等級 障害(補償)等給付 障害特別支給金 障害特別年金 障害特別一時金
形式 金額 形式 金額 形式 金額 形式 金額
第1級 年金 給付基礎日額の313日分 一時金 342万円 年金 算定基礎日額の313日分
第2級 年金 給付基礎日額の277日分 一時金 320万円 年金 算定基礎日額の277日分
第3級 年金 給付基礎日額の245日分 一時金 300万円 年金 算定基礎日額の245日分
第4級 年金 給付基礎日額の213日分 一時金 264万円 年金 算定基礎日額の213日分
第5級 年金 給付基礎日額の184日分 一時金 225万円 年金 算定基礎日額の184日分
第6級 年金 給付基礎日額の156日分 一時金 192万円 年金 算定基礎日額の156日分
第7級 年金 給付基礎日額の131日分 一時金 159万円 年金 算定基礎日額の131日分
第8級 一時金 給付基礎日額の503 日分 一時金 65万円 一時金 算定基礎日額の503 日分
第9級 一時金 給付基礎日額の391日分 一時金 50万円 一時金 算定基礎日額の391日分
第10級 一時金 給付基礎日額の302日分 一時金 39万円 一時金 算定基礎日額の302日分
第11級 一時金 給付基礎日額の223日分 一時金 29万円 一時金 算定基礎日額の223日分
第12級 一時金 給付基礎日額の156日分 一時金 20万円 一時金 算定基礎日額の156日分
第13級 一時金 給付基礎日額の101日分 一時金 14万円 一時金 算定基礎日額の101日分
第14級 一時金 給付基礎日額の56日分 一時金 8万円 一時金 算定基礎日額の56日分

障がいが残った際のリスクのシミュレーション

具体的なケースを見てみましょう。

実際には労災保険がおりるか、「勤務に起因した病気やケガで障害か残ったと認められるかどうか」で大きく金額は変わります。万一のケースを想定するのであれば「労災が下りず、障害年金だけ受給」というケースで以下みていきましょう。

■ケース1:配偶者1人・子ども1人の年収 会社員(標準報酬月額35万円 厚生年金加入25年)が障害等級1級になった場合

障害が「他人の介助を受けなければ日常生活をおくる事ができない」、つまり障害等級1級の場合は、年額約234万円(=約190万円+配偶者加給年金約22万円+子供の加算で約22万円)が支給されます。

2020年の総務省「家計調査」によると、2人以上の勤労者世帯の消費支出は1カ月平均305,811円となり、年間で約367万円がかかるとされています。

単純計算では1年あたりマイナス約130万円となりますが、障害が重いため配偶者の方も介護に近い状態で満足に働けない可能性もあります。教育費などがかかる年代の子どもがいる場合、さらに生活のリスクは高まります。

■ケース2:単身の会社員が障害等級3級となった場合

障害が「労働が著しい制限を受ける」、つまり障害等級3級の場合は年額約76万円が支給されます。

2021年の総務省「家計調査」によると単身世帯の平均的な消費支出は13万2,813円となり、年間換算で約160万円となります。

障害年金だけで必要な生活費を捻出するのは難しいことがわかります。

■ケース3:配偶者のいる自営業の方が障害等級2級となった場合

自営業の場合、障害基礎年金のみなので、年額約100万円(約78万円 + 子どもの加算約22万円)の支給となります。

先述のように2人以上の勤労者世帯の消費支出は1カ月平均305,811円となり、年間で約367万円がかかることを考えると、年間260万円以上、大幅に資金が足りない事になります。

家族から見た際に、公的保障として、死亡の際は遺族年金があります。障害をおってしまったときは本人の生活費に加えて介護なども発生するケースもあり、起きてしまった際にお金・生活費としてあたえるインパクトは死亡時よりも重度の障害をもってしまったときのほうが大きいと言えるかもしれません。

障害年金受給者は人口の1.7%程度、さらに現役世代に限定すると起きる可能性は低い事象ですが、万一起きてしまったときのリスクはとても大きなものになることがわかります。

日本の公的保障制度は優れていると言われていますが、こと障害が残ってしまった人や家族の保証については十分とはいえません。実際に、障害が残ってしまい働けず、生活保護によって生活している人も少なくはありません。

民間の保険による補償対象や補償内容

病気やケガなどで障害を負った際には収入も減少することになりますし、人によっては治療などでそれまでよりも出費が増える可能性もあります。

先述のシミュレーションのように、多くの割合の世帯で収支がマイナスになってしまうでしょう。

それでは障害が残ってしまったときのリスクにはどのように備えるのがいいでしょうか。

貯蓄・資産形成によってリスクに備えることもできなくはありませんが、障害をもって生き続ける期間を考えると大きな金額が必要となるので、大多数の人にとっては十分な金額を貯蓄するのは容易なことではないでしょう。

障害をもった際のリスクに備える民間の保険として「生命保険の高度障害保険金」「就業不能保険」などがあります。

生命保険の高度障害保険金

生命保険商品には「高度障害保険金」といって、約款で定める特定の状態になった際に死亡保険と同額を受け取れる保険商品も多くあります。

ただし、国の身体障害等級1級に該当しても、保険の約款で定める高度障害状態に該当しない場合は、高度障害保険金は受け取れませんので注意が必要です。約款の「高度障害状態」は「完全な失明状態や上肢・下肢の喪失」など国の障害年金のそれよりも厳しく設定されています。

記載内容は公益財団法人 生命保険文化センターのリンク覧ください。

また高度障害保険金が支給されると、それ以後死亡保険金を受給することはできないので、この点もあらかじめ認識しておきましょう。

就業不能保険

医療保険は主に入院や手術を伴う治療費に関しての保険ですが、それだけでは収入の減少を補うことは難しいでしょう。

「就業不能保険」では働けない状況になった際に給付金を受け取ることができます。月々の掛け金2000円程度で月額10万円の給付がなされる商品が主流です。

給付の対象となる疾病や給付の回数は保険商品ごとに異なります。近年増えている精神疾患が含まれているや給付の回数かはあらかじめ確認した上で商品を比較・検討するようにしましょう。

就業不能保険について知りたい人は以下の記事をご覧ください。

まとめ

病気やケガで障害をおってしまうリスクが与える影響は大きなものです。公的保障制度のうち、収入に関連するものを紹介しました。

もしもの際のシミュレーションとしては、「障害が残り、障害年金のみの受給になった際にどのくらいのお金が日々必要なのか」を考えるようにしましょう。加えて、リスク対策として「どの程度を貯蓄で事前に用意できるといいのか」についても、万一の場合を事前にシミュレーションしておくのがいいでしょう。

オカネノホンネ編集部

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