病気やけがを幅広くカバーできるのが医療保険の大きな特徴のひとつです。とはいえ、自身にとって不要な保障内容が含まれると、保険料が保障に見合わなくなることがあります。ピンポイントで備えたいリスクがある場合、一般的な民間の医療保険にみられる保障の幅広さはデメリットになります。
そんなときに選択肢のひとつとして検討したいのが「少額短期保険」です。少額短期保険は特定のニーズに応える保険であるため、保険料を抑えやすいメリットがあります。
この記事では、少額短期保険の特徴や活用方法、おすすめの商品などを紹介します。
目次
少額短期保険(ミニ保険)とは?
少額短期保険とは、一定の事業規模の範囲内において、保険期間が短期かつ保障金額が少額にとどまる保険商品 のことです。「ミニ保険」とも呼ばれます。
2006年4月1日に改正保険業法が施行され、これまで根拠法がないまま共済事業を運営していた「無認可共済事業者」に対する規制が強化されたことで、少額短期保険が生まれ ました。
少額短期保険業者と従来の生命保険会社や損害保険会社を比べると、管轄官庁や事業規模にも違いがあります。
少額短期保険の保障の上限
少額短期保険は下記の表の通り 、保険金額の上限が設定されているのが大きな特徴です。なお、上限は1被保険者あたりの保証金額であり、複数の保障(補償)が含まれている場合には合計で1,000万円が上限 となります。
死亡保険(疾病) | 300万円 |
死亡保険(傷害) | 300万円 |
疾病などを原因とする重度傷害保険 | 300万円 |
傷害を原因とする特定重度障害保険 | 600万円 |
医療保険 | 80万円 |
損害保険 | 1,000万円 |
個人賠償責任保険 | 1,000万円 |
また、生命保険や医療保険は1年、損害保険は2年と保険期間の上限も定められています。一般的な保険にはない制限がある分、ユニークな保険設計も可能です。
少額短期保険業者と保険会社の違いは?
少額短期保険業者と一般的な保険会社には下記の図 の通り、課される規制に違いがあります。
少額短期保険業者 | 保険会社 | |
管轄官庁 | 財務局による登録制 | 金融庁長官による免許制 |
最低資本金 | 1,000万円 | 10億円 |
生損保兼営 | 兼営可能 | 兼営禁止 |
兼業規制 | 原則専業 | 原則専業 |
資産運用方法 | 下記の3つに限定
l 外貨建てを除く預貯金 l 国債 l 地方債 |
原則自由 |
事業規模の制限 | 年間の保険料収入が50億円以下 | 制限なし |
少額短期保険(ミニ保険)の特徴
少額短期保険にはメリットとデメリットの両方があるため、よく理解しておきましょう。以下で詳しく解説します。
少額短期保険のメリット
少額短期保険には以下のようなメリットがあります。
ユニークな特徴の保険がある
さまざまなニーズに合わせてピンポイントの保障を受けられる
告知が緩やかで加入しやすい商品もある
保険料が手ごろ
少額短期保険の中にはペット保険 や結婚式のトラブルに備える保険 など、一般的な医療保険や損害保険などでは補償されないリスクをピンポイントでカバーできる商品があります。
また、一般的な保険に加入する際、自身の健康状態や既往歴を保険会社に「告知」することが基本です 。しかし、少額短期保険には、告知項目を3つ程度に絞ることで持病がある人でも入りやすい商品があり ます。
加えて、少額短期保険は特定のリスクだけ保障するため、保険料が比較的リーズナブルです。保険期間も短いため、金銭的な負担が小さいのもメリットといえます。
少額短期保険のデメリット
少額短期保険にはデメリットもあります。
保障内容が手厚くない
各種保険料控除の対象外となる
保険会社が破綻した場合に保険契約者保護機構の保障が受けられない
少額短期保険では、保険期間や保険金額の上限が決められています。個人年金保険や積立型の保険など、販売が禁止されている商品もある ため、一般的な医療保険や生命保険のような手厚い保障は期待できません。
また、少額短期保険は生命保険料控除や地震保険料控除の対象外であることから 、税金面での恩恵を受けられないデメリットがあります。
さらに、保険会社が破綻した場合でも一定の保険金の支払いが保証される「生命保険契約者保護機構」 や「損害保険契約者保護機構 」のような機関が、少額短期保険にはありません。そのため、少額短期保険業者の安全性については、契約者自身で十分に確認しておく必要があります。
少額短期保険(ミニ保険)はどう使う?
少額短期保険には、一般の医療保険とは違った使い道があります。ここでは、前述した少額短期保険のメリットをもとに、使い方について詳しく解説します。
最低限の備えにする
日本では健康保険制度があるため、病気やけがをした場合における医療費の自己負担額は1~3割程度の範囲で収まり ます。さらに、「高額療養費制度」により、ひと月に支払う自己負担額の上限が定められているため、治療費が高額になった場合でも安心 です。会社員であれば、病気やけがで会社を休んだときでも「傷病手当金」が支給されま す。
このように民間の保険に加入せずとも、ある程度は健康保険や社会保険で医療費がまかなえるようになっています。
とはいえ、医療を受ける上での全費用を社会保険でカバーできるわけではありません。たとえば、入院した際の食費や差額ベッド代は自己負担です。
このような、貯蓄だけでは心許ない部分に対してのみ少額短期保険で備えておくなど、最低限の備えとして活用するのがおすすめです。
手軽に特定のリスクに備える
少額短期保険は、ピンポイントでさまざまなリスクに対応できるのが特徴です。
主に以下のようなリスクに備えられます。
がん
糖尿病
介護
女性特有の病気
加入している医療保険でカバーされない部分がある場合や、手厚くしておきたい部分がある場合など、どうしても備えておきたいリスクがあるときに少額短期保険を活用するとよいでしょう。
持病がある人や高齢者などが備える
保険に加入する際は、保険会社による審査をクリアしなければなりません。しかし、持病・既往歴がある人や80歳以上の高齢者などは、一般的な医療保険の審査に通りにくいものです。
少額短期保険では、契約年齢の上限が高めに設定されている商品があります。また、告知が少ない商品や、告知自体が不要な「無選択型」と呼ばれる商品もあるため、審査が通りにくい人が保険に入りたい場合の手段になります。
ただし、健常者向けに発売されている商品と比べると、保障内容や保険料などの条件がよいとは言い難い商品もあるため、本当に必要かどうかは慎重に検討する必要があります。
医療保険以外のミニ保険はこう活用!
少額短期保険には、医療保険以外にもユニークな商品が多く存在します。ここでは、医療保険以外の少額短期保険(ミニ保険)の活用方法を見ていきましょう。
痒いところに手が届くミニ保険
前述した通り、少額短期保険は保険金額に上限を設けることで、保険金支払いのような保険会社側の負担が少なく済む仕組み となっています。その分、これまで実現できなかったニッチな分野に対する保険が数多く発売されているのです。
そのため、公的医療保険や一般の医療保険ではカバーしにくいニッチな部分に備える目的で加入するのもよいでしょう。幅広い視野を持ち、「自分にどんなリスクがあるのか」を見極めて備えるのがよい活用方法です。
ミニ保険は医療保険とは別に検討する
少額短期保険は医療保険とは性質が異なる商品も多いため、必要かどうかは医療保険と切り離して検討することをおすすめします。
たとえば、ライフステージの変化に対応できるものとして、結婚式を中止した場合の費用を補償する「結婚保険」 や葬式代を備える「葬儀保険」 などがあります。また、犬や猫などのペットが病気・けがをした際の治療費を補償する「ペット保険」 などもあります。
さらに、弁護士への相談料や依頼料を補償する「弁護士費用保険」 や、自転車による事故の賠償金を補償する「自転車保険」 など、高額な費用が発生するものに対応できる商品もあります。
少額短期保険(ミニ保険)のおすすめ商品一覧
2022年4月1日時点で、少額短期保険業者として財務局に登録されているのは115社です 。ここでは、数ある商品の中からおすすめの少額短期保険(ミニ保険)を医療分野に絞って紹介します。
ミニでも先進医療!SBIいきいき少短の医療保険
「SBIいきいき少短の医療保険」は、SBIいきいき少額短期保険株式会社 が販売する商品で、病気やけがの入院や手術、先進医療の保障を組み合わせた医療保険 です。
入院給付金日額1,000円・3,000円・5,000円・10,000円の4つのコースから選べ 、先進医療を受けた場合には、かかった技術料のうち最大100万円まで保障 されます。
84歳まで申し込みでき、100歳まで継続して加入できる のがおすすめのポイントです。
年齢・性別ごとの保険料は、入院給付金日額5,000円コースに申し込んだ場合で下記の図のようになっています。
男性保険料 | 女性保険料 | |
20歳 | 1,180円 | 1,210円 |
30歳 | 1,400円 | 1,860円 |
40歳 | 1,680円 | 1,860円 |
50歳 | 2,580円 | 2,060円 |
保険料がユニーク!わりかん がん保険
「わりかん がん保険」は、2016年12月6日に少額短期保険業者として設立された株式会社 justInCase が販売している商品で、2022年5月10日時点で5,000人を超える 契約者数を誇ります。保障内容としては、がん(上皮内がんを含む)と診断された場合に一律で80万円が受け取れ ます。
また、契約者の中に保険金の支払い対象者が発生した場合に保険料を支払う「P2P」と呼ばれる仕組み を採用しているのが大きな特徴です。この特徴は、契約者全体で「わりかん(割り勘)」するような仕組みであるため、保険の加入者が増えるほど保険料は安くなるとともに、保険金の支払いが発生しなければ保険料がかからないというメリットがあります。
「わりかん がん保険」は、保険金の支払い実績によって毎月の保険料が変動する可能性がありますが、年齢ごとに保険料の上限は決められています。年齢・性別ごとの上限保険料は下記の図 の通りです。
男性保険料 | 女性保険料 | |
20歳 | 500円 | 500円 |
30歳 | 500円 | 500円 |
40歳 | 990円 | 990円 |
50歳 | 990円 | 990円 |
糖尿病でも入れる!エクセルエイドの糖尿病保険
「エクセルエイドの糖尿病保険」は、糖尿病患者の救済を目的として設立されたエクセルエイド少額短期保険株式会社 が販売している商品です。
保障内容は、糖尿病を含む病気やけがで入院した場合に、1日あたり5,000円が支払われるほか、手術をした際に手術給付金として25,000~50,000円が支払われ ます。
申し込み時に必要な告知項目は3つだけであるため、該当する項目がなければ、糖尿病を患っている人でも申し込め ます。
年齢・性別ごとの保険料は下記の図 の通りです。
男性保険料 | 女性保険料 | |
20歳 | 1,795円 | 1,443円 |
30歳 | 2,042円 | 1,536円 |
40歳 | 2,875円 | 1,958円 |
50歳 | 3,648円 | 2,971円 |
女性のために!女性を育む保険なでしこくらぶ
「女性を育む保険なでしこくらぶ」を販売している会社は「フローラル共済」です。2008年2月に少額短期保険業者として設立 されました。
保障内容として、病気やけがで入院した場合には入院給付金が、病気や不慮の事故で亡くなった場合は死亡保険金が支払われ ます。また、正常分娩も入院保障の対象である ため、出産を望む女性にもおすすめです。
男女ともに保険料2,500円のコースと5,000円のコースの2種類から選べる ようになっており、どの年齢でも保険料が一律です。ただし、年齢によって給付金額が変わります。 例として、保険料2,500円のコースに申し込んだ場合の年齢・性別ごとの入院給付金日額は、下記の図 のようになっています。
男性入院給付金日額 | 女性入院給付金日額 | |
20歳 | 10,000円 | 10,000円 |
30歳 | 10,000円 | 10,000円 |
40歳 | 6,000円 | 8,000円 |
50歳 | 2,500円 | 5,500円 |
長期入院に備える!アスモのけんこうプラン
「アスモのけんこうプラン」は、高いソルベンシー・マージン比率(※)と迅速な保険金・給付金の支払いが特徴 であるアスモ少額短期保険株式会社が販売する商品です。
※ソルベンシー・マージン比率とは、保険会社が通常の予測を超えるリスクに対してどの程度の支払い余力を有しているかを表しているものです。保険会社の健全性を示す指標として用いられます。
「アスモのけんこうプラン」は、死亡保険金と入院保障がセットになったプランです。病気やけがの種類を問わず治療目的の5日以上の入院であれば、入院給付金が1日目から給付されます。経済的な負担が大きくなりがちな長期入院に備えられるよう、1回の入院で最大160日間まで保障される のがおすすめのポイントです。
保険料については、死亡保険金額100万円・入院日額5,000円のプランに申し込んだ場合、下記の図 のようになっています。
男性保険料 | 女性保険料 | |
20歳 | 906円 | 868円 |
30歳 | 906円 | 1,054円 |
40歳 | 1,227円 | 1,025円 |
50歳 | 2,276円 | 1,487円 |
まとめ
少額短期保険はピンポイントで保障を備えられる分、保険料の負担を少なくできるメリットがあります。とはいえ、一般的な医療保険とは保障期間や保障金額の面で違いがあるため、充実した保障内容になっているとは限りません。
そのため、メインの保険としてではなく、公的医療保険や一般的な医療保険ではカバーしきれない部分を補うように活用するのがよいでしょう。
保険会社ごとに商品内容や保険料が大きく異なる少額短期保険は、ユニークな保障内容が多いため、この記事を参考にしながら自身に合った保険を選んでください。
難しいお金の話を、ファイナンシャルプランナー技能士や保険・金融商品の専門家が忖度なし「ホンネ」でわかりやすく伝えます。