遺族年金では足りない?死亡時に家計に与えるリスクとその対応策

ライフプランニング

事故や病気などで一家の生活を担う人が亡くなった場合、残された家族に与える影響は大きなものです。公的年金制度には残された遺族の生活を支えるための「遺族給付」があります。また労働及び通勤の途中での死亡は「労災保険」からも保障があります。

この記事では万一、病気やケガなどで死亡してしまう際のリスクの大きさ、公的保障も踏まえた家計にあたえる影響とそのリスクへの対応策についてを解説します。

死亡する確率はどれくらい

厚生労働省「簡易生命表(令和2年)」によると各年齢ごとにその年齢で死亡した確率は以下のように発表されています。

例えば30歳男性が死亡する確率は直近では0.05%、約2000人に1人という事になります。

男性 女性
30歳 0.05% 0.03%
40歳 0.09% 0.06%
50歳 0.25% 0.15%
60歳 0.62% 0.28%

参考数字として、働きざかりの25歳~49歳の間の各年齢で亡くなる男性の確率を足し上げると2.41%、50歳から64歳で亡くなる男性の確率を足し上げると7.71%となります。この2つ25歳~64歳までの各年齢のいずれかで亡くなる確率の単純な合計は10.12%となり、約10人に1人に近い割合で25~64歳の年齢の間に亡くなる確率があるといえます。また女性の場合は25歳~64歳の各年齢のいずれかで亡くなる確率の合計は5.1%です。

もちろん前提として、年齢・年代が違う人同士の確率の合計であり、特に今後平均寿命はさらにのびると言われているので、実際に自分の生きている年齢・同世代における確率は違ったものになるでしょう(若い人であればより少ない死亡確率になるでしょう)。それでもひとつの参考値にはなるのではないでしょうか。

別の調査、厚生労働省の「平成28年度全国ひとり親世帯等調査」によると母子世帯123.2万世帯のうち約8%が、父子世帯18.7万世帯のうち約19%がそれぞれ死別によるものでした。

以上のように「死亡」というリスクは、働いて家族を養う時期に「高い発生確率で起こるとはいえませんが、一定の確率で自分自身にも起こりえる」問題であることがわかります。

年金制度の遺族給付

家族の生活を支える人が死亡してしまった際の公的保障で一番大きなものが年金制度の「遺族給付」です。

労働及び通勤以外のときに病気やケガで亡くなった際の「遺族給付」には「国民年金(遺族基礎年金)」と「厚生年金」の2つの種類があります。

自営業者・フリーランス・無職の人が加入する「国民年金(遺族基礎年金)」か会社員や公務員が加入する「厚生年金」かでその支給額は異なります。加えて18歳未満の子どもの有無によって支給される金額や支給期間が変わります。

遺族年金の受給者は妻だけでなく、夫も対象です。ただし男女とわず年収850万円以上では原則受給資格がなくなるので注意しましょう。

遺族基礎年金とは

自営業者が受給する「遺族基礎年金」について解説します。「遺族基礎年金」の支給対象は死亡した人に生計を維持されていた「18歳までの子ども」もしくは「18歳までの子どもとその配偶者」となります。支給額は2022年4月以降で77万7,800円に子どもの人数によって加算される仕組みです。

子どもの加算は、第1子と第2子が各22万3,800円、第3子以降は各7万4,600円となります。なお、子どもの支給は18歳の3月末日までとなるので注意をしましょう。支給金額は毎年変更となる可能性があります。日本年金機構のホームページ等で確認できます。

子どもがいない妻に対しての支払はありませんが、代わりに「寡婦年金」や「死亡一時金」などが支給される可能性があります。

「寡婦年金」とは10年以上継続して婚姻関係にあり、生計を維持されていた妻に対して60歳から65歳になるまで支払われる年金です。年金額は夫が受け取るであろう老齢基礎年金の4分の3です。老齢基礎年金の最高額が78万円程度なので、寡婦年金は約60万円弱になるでしょう。

「死亡一時金」は支給金額が120,000円~320,000円の幅の中で保険料を納めた月数に応じて、生計を同じくしていた遺族に対して一時金が支払われます。条件としては保険料納付月数が36か月以上で老齢基礎年金・障害基礎年金を受けることなく亡くなった場合に限ります。なお寡婦年金が死亡一時金はどちらかしか受給できません

遺族厚生年金とは

会社員や公務員は厚生年金加入者のため、亡くなった際に遺族は「遺族厚生年金」を受給することになります。

「遺族厚生年金」の支給対象は、死亡した人に生計を維持されていた配偶者・子ども・55歳以上の父母・孫などです。遺族厚生年金は子どもがいない家庭における配偶者に対しても支給されます。

支給期間は妻が受け取る場合は一生涯、子供や孫が受け取る場合は18歳になった歳の3月末日まで、夫や父母が受け取る場合は55歳以上である事が要件で60歳以降からの受給となります。また夫が死亡時の妻の年齢が30歳未満の場合は5年間の有期での年金支給となります。

年金額は、加入期間によってもらえる金額が変わり、死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額となります。年金の加入期間が25年に満たない場合は、25年働いたものとしてカウントされます。

なお共働きで妻も厚生年金に加入していた場合、「遺族厚生年金+妻の老齢厚生年金」の合算数字が夫の老齢厚生年金の4分の3を超えないよう遺族厚生年金は調整されます。また妻の老齢厚生年金のほうが金額が多ければ遺族厚生年金は支給されません。

労災保険の遺族補償給付・遺族給付

労災保険とは仕事中や通勤中の病気・ケガ、障害、死亡に対して労働者やその遺族に対しての必要な給付をするものです。労災保険は1人名以上の労働者を使用する事務所は加入せねばならず、保険料は全額事業主が負担します。労災保険は正社員だけでなく、アルバイトやパートの人も対象になります。

労災の遺族(補償)年金

労働災害によって死亡した際には、生計を維持していた遺族に対して労災保険から「年金」が支給されます。遺族(補償)給付支給金額は、1年あたり給付基礎日額の153~245日の幅の中で、受給資格のある遺族の数によって異なります。具体的には労働者の収入により生計を維持していた配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹の順番で受給資格があり、最優先の順位者だけが受け取ることができます。妻以外の遺族については、被災労働者の死亡当時に年少(18歳に達する日以後の最初の3月31日まで)または高齢、あるいは一定の障害(障害等級5級以上の身体障害)である場合に受給する事ができます。

給付基礎日額とは事故が発生した日の直前3か月間にその労働者に対して支払われた金額の総額を、その期間の歴日数で割った、一日当たりの賃金額が日額です(臨時に支払われた賃金、賞与などは含まれません)。

遺族が1名の場合は、給付基礎日額の153日分(遺族が55歳以上の妻の場合は基礎給付日額の175日分)となります。

遺族が2名の場合は、給付基礎日額の201日分、3名の場合は223日分、4名の場合は245日分となります。

標準報酬月額35万円の夫がなくなった場合、妻は約267万円を受給することができます(営業日20日として、35万円÷20日×153日=約267万円)

労災保険の遺族(補償)年金は、労働災害発生から5年で時効により請求できなくなりますので、請求手続きは早めに済ませるようにしましょう。手続きは労働基準監督署長に必要な資料一式を提出することになります。

労災の遺族(補償)一時金

遺族年金を受け取る遺贈がいない場合、その他の遺族に支給されるのが「遺族(補償)一時金」です。支給金額は給付基礎日額の1000日分となります。

遺族年金の支給金額 家族構成別

実際のケースを見てみましょう。労災保険も受給できたほうが支給金額は大きくなりますが、最悪のケースを想定するという意味でこの記事では遺族年金のみを受給する場合を想定して解説します。

支給される金額は家族構成及び自営業か会社員かによって異なり、以下の表のようになります(遺族厚生年金の受給額は収入と加入期間によって異なるので一定条件で試算した金額を表示)。

家族構成 自営業の年間支給額

(遺族基礎年金)

会社員・公務員の年間支給額

(遺族基礎年金+遺族厚生年金。平均報酬月額約35万円、加入300か月換算で概算

配偶者のみ なし 571,000円

 ※加入期間によって変動

配偶者+子供1人 1,001,600円

 ※777,800円++第1子223,800円

1,572,600円

 ※遺族基礎年金+571,000円

配偶者+子供2人 1,225,400円

 ※第2子は223,800円分を支給

1,796,400円

 ※遺族基礎年金+571,000円

配偶者+子供3人 1,300,000円

 ※第3子は74,600円分をの支給

1,871,000円

 ※遺族基礎年金+571,000円

子ども1人 777,800円 1,343,600円

  ※遺族基礎年金+571,000円

子ども2人 1,001,600円 1,572,600円

  ※遺族基礎年金+571,000円

例としていくつかのケースを見てみます。

  • 配偶者(子供なし)の自営業の方がなくなった場合、遺族基礎年金は支給されません
  • 配偶者と子供1人の自営業の方がなくなった場合、遺族基礎年金から約100万円が支給
  • 配偶者1人・子ども1人の年収 会社員(標準報酬月額35万円 厚生年金加入25年未満)がなくなった場合)は年間約157万円が支給

もし自分や配偶者に何かあった際に、公的な保障としてどの程度の保障が得られるのか、それが求める生活水準、教育費などの必要金額と比べて十分なのか足りないのか、足りないとしたらどの程度の金額が足りないのかを考えて、万一のリスクに備えるようにしましょう。また男女とわず年収850万円以上では原則受給資格がなくなるのでシミュレーションの際には注意をしましょう。

特に自営業者の人は支給金額が少ないので、もしもの時の対応策を事前に確認する事をおすすめします。

また、死亡に伴って母子家庭・父子家庭となってしまった場合に活用できるその他の公的支援制度としては以下などがあります。

  • 児童扶養手当(国の制度)
  • ひとり親家庭の住宅支援制度(実施有無・支援内容は自治体によって異なる)
  • ひとり親家族等医療費助成制度(実施有無・支援内容は自治体によって異なる)

必要に応じて調べてみてください。

死亡した際の家族の生活リスクに備えるために

働き盛りの25~49歳のいずれかの年齢で死亡する可能性を足し上げると男性は約2.7%、女性は1.4%となります。これは確率としては大きなものではないかもしれませんが、万が一、起こってしまった際の家族に与える影響は大きなものになります。

遺族年金は家族構成や職業によっても異なります。

どの程度の金額が足りないかは以下の式で計算できます。

足りない保障金額=(必要な生活費 - 遺族年金 - 労働収入)×必要な年数 +その他必要な費用

例えば、家族に必要な生活費が年間420万円(月々35万円)、遺族年金が約150万円、労働収入が年200万円(手取)、これが40歳から65歳までの25年間続く時には年間の不足分が420-150-200=70万円、それが25年続くとすると70万円×25年=1750万円という計算になります。

これに子どもの教育費や結婚資金がかかるのであればそれらも上乗せされます。これらの金額に対して、自分の貯蓄や退職金も含めてどの程度まかなうことができるのか、いくら必要なのかを把握しましょう。

いくら必要かを試算できたら次に死亡時のお金のリスクに備える方法を考えます。

死亡のリスクに備える方法としては「生命保険(死亡保険)」や「収入保障保険」「貯蓄・資産形成で備える」といった方法があります。

生命保険(死亡保険)

被保険者が死亡あるいは高度障害状態になった場合にまとまった金額を受け取れる保険です。定期的に保険を更新する定期型か一生涯を保障する終身型か、掛け捨て型か貯蓄型かなどいくつかのタイプがあります。

受け取れる保険金はどの年齢で死亡しても同じものが多いですが、定期保険の中でも「逓減定期保険」は、契約時から時間が経つほど死亡保険金の額が減少していきます。子どもが成長したり定年が近づくにつれて必要な保証額は変わっていきます。

その年齢からの必要な保障は確保しつつ保険料を抑えたい方は、掛け捨て型の逓減定期保険がおすすめです。

収入保障保険

「収入保障保険」とは、被保険者が死亡あるいは高度障害状態になった場合に毎月一定額の年金や給付金を保険期間満了時まで受け取れる保険のことです。「病気やケガで働けなくなったときに収入を保障される保険」と誤認しがちですが、「生命保険(死亡保険)」に分類されます。

収入保障保険は、保険期間の経過とともに年金の総額が減少する点が特徴です。死亡時から保険期間満了時まで保険金を月額で受け取り続けるため、早く死亡するほど受け取れる保険金総額が大きくなり、保険期間の満了間近に死亡するほど受け取れる保険金総額が小さくなります。

また、保険料は、保険期間中にいつ亡くなっても同額の死亡保険金を受け取れる「平準型」の定期保険と比べて比較的割安です。トン減定期保険と同様に、もしもの際の一定の保障を得つつも貯蓄もしたい世帯にとっておすすめの商品です。

詳細を知りたい人は以下の記事をご覧ください。

貯蓄・資産形成をして備える

若いうちから多くの金額を貯蓄できるような職業・環境にある人は貯蓄・資産形成による資産形成という方法もあります。死亡リスクに対して、貯蓄・資産形成だけで備えるすることは難しいケースが多いでしょう。一方で、貯蓄をすることは病気やケガ、長生きなどの死亡とは別のリスクに備えることにつながります。

死亡保険や収入保障保険を検討する際にはその掛け金とともに、貯蓄や資産形成についての計画をたてるのも重要です。

投資・資産形成を検討される人は以下の記事をご確認ください。

まとめ

若くして死亡するリスクは決して大きくはありませんが、生活に与える影響は大きなものになります。万一のときに家族に必要なお金はどの程度なのか、公的保障や家族をとりまく環境をふまえて具体的に考えてみてください。特に自営業の方は公的保障が会社員の方と比べると手厚くはありません。家族に必要な額を把握した上で、足りない分は死亡保険や収入保障保険などで備えるのがいいでしょう。

オカネノホンネ編集部

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