人生100年時代と呼ばれる昨今、以前にも増して注目を集めている「認知症」。高齢の家族と一緒に暮らしており、認知症になった際の介護費や医療費などに不安を感じている人も多いでしょう。公的医療保険や公的介護保険では足りない部分をカバーする手段として有効なのが、民間の生命保険です。
この記事では、認知症でも加入しやすい保険や、認知症の現状などについて解説します。
目次
認知症でも入れる保険はある?
認知症になってから生命保険に加入するのは難しいといえます。なぜなら、認知症に罹患している状態では、契約を結ぶために必要な「意思能力」がないと判断される可能性が高いためです。
意思能力とは、契約の内容を理解したうえで加入の判断ができる能力のことを指します。法的には、意思能力がない人が結んだ契約は無効です。
意思能力が不十分な場合は「成年後見人制度」 を活用し、法定後見人や任意後見人を立てることはできますが、代理で手続き可能な範囲は後見人本人の利益につながる行為に限定されています。そのため、後見人を介した生命保険の契約はできないと考えるのが一般的です。
もちろん、認知症と一口にいってもその症状や進行度合いには大きな差があるため、状況によっては意思能力があるとみなされ、保険へ申し込める可能性もゼロではありません。
しかし、保険に加入する際は、健康状態に関する保険会社の審査(告知)があります。健康上のリスクが高い人は加入できない仕組みになっているため、認知症になった原因や治療歴を考慮して加入を断られる可能性は高いでしょう。
認知症でも加入できる可能性がある保険とは?
意思能力がある前提にはなりますが、引受基準緩和型医療保険や無選択型保険であれば、認知症の人でも入れる可能性はあるかもしれません。これらの商品は、一般の生命保険と比べて告知が緩やかなため、加入しやすくなっています。
しかし、直近で入院をしていたり、症状が重かったりすると加入できません。さらに一般の医療保険にはないデメリットもあるため、加入するか否かは慎重に判断しましょう。
そもそも高齢になると申し込み対象外となる商品も多く、選択肢が狭くなるため、認知症になる前に加入するのが無難です。
引受基準緩和型医療保険
引受基準緩和型医療保険は、生命保険会社が販売する「医療保険」の一種です。病気やケガで入院・手術・放射線治療などを受けた場合に給付金が支払われます。一般的な保険と比べると告知が緩やかで加入しやすいといわれているため、認知症でも加入できる可能性がある商品です。一生涯保障が続く「終身タイプ」の商品が多くなっています。
一般的な医療保険とは特徴が大きく異なるため、保険料や保障内容を確認したうえで、本当にメリットがあると感じた場合に加入しましょう。
引受基準緩和型医療保険のメリット
引受基準緩和型医療保険のメリットは、以下の通りです。
- 一般的な医療保険と比べて告知項目が緩やかになっているため、加入のハードルが低い
- 持病の悪化や再発も保障される
保険に加入する際は原則として、保険会社に健康状態を告知しなければなりません。一般的な医療保険に加入する場合、直近3ヶ月以内の通院歴や直近1年以内の入院・手術歴、過去5年以内の既往歴などが確認されます。さらに、健康診断や特定の病気への罹患歴など、細かく健康状態を申告しなければなりません。告知した内容をもとに保険会社は加入の可否を判断することになりますが、認知症の場合は告知に該当する項目が多くなるため、加入するのは難しくなるケースがほとんどです。
一方、引受基準緩和型医療保険は多くの場合、告知が3〜4つ程度に絞られています。そのため、持病や既往症があっても告知に該当しないケースが多く、保険会社の審査も通りやすい傾向があるのです。
さらに、引受基準緩和型医療保険の場合、持病の悪化や再発も保障される商品が多くを占めています。
引受基準緩和型医療保険のデメリット
引受基準緩和型医療保険のデメリットは、以下の通りです。
- 一般的な医療保険と比べると保険料は割高になる
- 給付金の支払い削減期間がある
- プランや付加できる特約に制約がある
一般的な医療保険と比べると、引受基準緩和型医療保険は給付金を支払う確率が高い商品です。そのため、保険料は高めに設定されています。
加入してから1年程度の間は、支払い事由に該当しても給付金が半分程度しか支払われない商品が多いのも特徴です。
プランや特約の選択肢が一般的な医療保険と比べて少ないため、充実した保障に加入したいと考えている人には向かないかもしれません。
無選択型保険
無選択型保険とは、健康状態による告知や医師の診査がなくても加入できる生命保険や医療保険のことです。保険会社は契約者間の公平性を保ち、リスクの高い人ばかり加入しないよう契約者の選別(危険選択)を行っていますが、この選択を行わないのが無選択保険です。
告知が緩やかな分、認知症の人でも加入できる可能性がある一方で、一般的な医療保険と比べるとデメリットが目立つのも特徴です。そのため、まず引受基準緩和型保険に加入できないかを確認し、どうしても難しい場合に加入を検討することをおすすめします。
無選択型保険のメリット
無選択型保険のメリットは、以下の通りです。
- 告知が不要で加入できる
告知が一切不要で加入できるため、認知症でも意思能力があり、加入年齢の条件を満たせば加入できる可能性があります。
無選択型保険のデメリット
無選択型保険のデメリットは、以下の通りです。
- 一般的な医療保険や引受基準緩和型医療保険と比べて保険料が割高になる
- 現在治療中の病気や既往症は保障の対象外となる
- 免責期間が設けられている場合がある
- 保障金額が少ない
- 保険期間が限られている
無選択型保険では、契約者のなかに持病のある人や入院・手術の予定がある人など、給付金を受け取る確率が高い人も多く含まれています。給付金の支払いに備えて保険料が高めに設定されているため、一般的な医療保険と比べて割高な保険料になっている可能性もあります。
持病や既往症の再発・悪化や、契約後90日間など一定期間内の入院は保障対象外としているケースも珍しくありません。支払い対象になったとしても、入院給付金額や手術給付金額は少なく設定されているため、治療費を十分にカバーできない可能性もあります。5年や10年といった一定期間のみの保障となっているケースも多く、更新すると保険料が高くなっていくのも無選択型保険によく見られる特徴の一つです。
そもそも認知症とは
認知症とは、脳の病気や障害などによって認知機能が低下し、日常生活に支障が出る状態のことを指します。加齢による物忘れとは異なり、自覚症状がなく、放置すると症状が進行していくのが特徴です。若年性認知症や、軽度認知障害(日常生活に支障をきたすほどではないが認知能力が低下している状態)などは、65歳未満の若い世代でも発症するケースがあります。
要介護者の認知症割合
認知症にかかると、これまで通りの生活が送れなくなる可能性があります。内閣府の「令和4年版高齢社会白書」の65歳以上の要介護者を対象とした調査によると、介護が必要になった主な原因の第1位は認知症で、全体の約2割と最も多いです。
家族が認知症になった場合には、医療費だけではなく介護費用もかかることがあるため、家計に大きな影響を与える可能性があります。
認知症になる人は年々増加
高齢化が進むにつれて、認知症になる人は年々増加しています。「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」の推計では、65歳以上の認知症患者は2020年には約602万人、2025年には約675万人に達するとされています。高齢者の約5人に1人が罹患する可能性があるため、認知症は身近な病気になりつつあるといえるでしょう。
認知症になったときの医療費と介護費
実際に認知症になるとどのくらいの費用がかかるのでしょうか。
厚生労働省と慶應義塾大学の共同調査によると、入院医療費は1人あたり毎月343,000円、外来医療費は毎月39,600円、介護費は在宅の場合1人あたり年間で219万円、施設で介護する場合は年間で353万円、といった結果となっています。在宅で介護を受けながら通院治療を続けた場合、毎年300万円弱の費用がかかる計算です。
公的医療保険や公的介護保険があるため、これらの費用を全額自己負担するわけではないものの、決して少ない金額とはいえないでしょう。
認知症保険とは?
認知症保険は介護保険の一種で、被保険者が認知症や認知症による要介護状態になった場合に、一時金や年金が受け取れる保険です。給付金が支払われる条件には保険会社各社で違いがあります。そのため、単に認知症と診断されただけでは、給付金が受け取れないケースも少なくありません。
認知症保険のメリット
認知症保険の一般的なメリットは、以下の通りです。
- まとまった一時金が受け取れる
- 認知症に特化している分、割安な保険料で加入できる
- 加入できる年齢の幅が広い
認知症と診断されると200〜300万円程度の一時金が受け取れるため、治療費や介護費、自宅改修費など、介護にかかるさまざまな初期費用をカバーできます。
一般的な介護保険と比べて、給付金が支払い対象を認知症に限定している分、比較的保険料を抑えて保障を確保できるのもメリットです。
18〜85歳まで幅広い年齢層が加入できる商品が多く、ライフスタイルの変化や家計の状況に合わせて、最適なタイミングで加入を検討できます。
認知症保険のデメリット
認知症保険の一般的なデメリットは、以下の通りです。
- すぐに給付金を受け取れない可能性がある
- すべての認知症で給付金を受け取れるわけではない
商品によっては認知症と診断されてから、その状態が90〜180日程度継続した後に給付金が支払われる仕組みになっていることがあります。また、要介護認定が条件となっている場合には、市区町村に申請して認定を受けなければなりません。その場合、最低1ヶ月程度の時間がかかることを覚えておきましょう。
また、認知症の原因によっては保障対象外となるケースもあります。アルコール性の認知症や軽度認知障害、加齢による物忘れなどが代表例です。
認知症でも入りやすいおすすめの引受基準緩和型医療保険
ここでは、認知症でも比較的加入しやすいおすすめの引受基準緩和型医療保険をご紹介します。
ただし、認知症の場合、告知に該当しないからといって必ず加入できるわけではありません。症状次第では加入できないケースもあるため、実際に手続きを進める際は保険会社へ申し込みが可能か確認しましょう。
保険会社 | なないろ生命 | FWD生命 | SOMPOひまわり生命 | ネオファースト生命 |
商品名 | なないろメディカルスーパーワイド | FWD医療引受緩和 | 新・健康のお守り ハート | ネオdeいりょう 健康プロモート |
契約年齢 | 20〜85歳 | 20〜85歳 | 20〜80歳 | 20〜80歳 |
保険期間 | 終身 | 終身 | 終身 | 終身 |
保険料払込期間 | 終身 | 終身・60歳・65歳・70歳・10年 | 終身・5年・10年 | 終身 |
保険料払込方法 | 口座振替・クレジットカード | 口座振替・クレジットカード | 口座振替・クレジットカード | 口座振替・クレジットカード |
保障削減期間 | なし | なし | あり(1年間は50%) | なし |
主契約 | 入院給付金・入院一時金・手術給付金・放射線治療給付金 | 入院給付金・手術給付金・放射線治療給付金・移植術給付金・骨髄ドナー給付金 | 入院給付金・手術給付金・先進医療給付金 | 入院給付金 |
なないろ生命|なないろメディカルスーパーワイド
なないろ生命の「なないろメディカルスーパーワイド」は、告知項目がたった2つだけのため、持病があっても加入しやすい医療保険です。直近1年以内に入院や手術を医師から勧められたり、実際に入院や手術をしたりしていなければ、認知症の人でも加入できる可能性があります。保障の削減期間はないため、契約1年目から満額保障されるのも大きな特徴です。
契約年齢 | 20〜85歳 |
保険期間 | 終身 |
保険料払込期間 | 終身 |
保険料払込方法 | 口座振替・クレジットカード |
保障削減期間 | なし |
主契約 | 入院給付金・入院一時金・手術給付金・放射線治療給付金 |
FWD生命保険|FWD医療引受緩和
FWD生命保険の「FWD医療引受緩和」は、3つの告知事項に該当がなければ申し込める医療保険です。過去5年以内に認知症で入院している場合には加入できませんが、入院ではなく通院のみで治療を続けている場合には加入できる可能性があります。
給付金の削減期間がなく、1年目から満額保障されるのも安心できるポイントです。先進利用特約や女性特約、保険料払込免除特約など、ニーズに合わせてさまざまな特約を組み合わせられるため、幅広い人におすすめの商品です。
契約年齢 | 20〜85歳 |
保険期間 | 終身 |
保険料払込期間 | 終身・60歳・65歳・70歳・10年 |
保険料払込方法 | 口座振替・クレジットカード |
保障削減期間 | なし |
主契約 | 入院給付金・手術給付金・放射線治療給付金・移植術給付金・骨髄ドナー給付金 |
SOMPOひまわり生命|新・健康のお守り ハート
SOMPOひまわり生命の「新・健康のお守り ハート」は、3つの告知をクリアできれば申し込める終身タイプの医療保険です。告知のなかに認知症に関する項目はないため、認知症の人でもこれまでの病歴次第では加入できる可能性があります。持病が再発・悪化した場合でも保障される点も安心です。
契約年齢 | 20〜80歳 |
保険期間 | 終身 |
保険料払込期間 | 終身・5年・10年 |
保険料払込方法 | 口座振替・クレジットカード |
保障削減期間 | あり(1年間は50%) |
主契約 | 入院給付金・手術給付金・先進医療給付金 |
ネオファースト生命|ネオdeいりょう 健康プロモート
ネオファースト生命の「ネオdeいりょう 健康プロモート」は、3つの告知項目に該当がなければ申し込める医療保険です。給付金の支払い削減期間はなく、1年目から満額の保障を受け取れます。契約日から5年間、病気・ケガそれぞれの通算入院日数が5日未満の場合、6年目以降の保険料が割引されるのが大きな特徴です。
契約年齢 | 20〜80歳 |
保険期間 | 終身 |
保険料払込期間 | 終身 |
保険料払込方法 | 口座振替・クレジットカード |
保障削減期間 | なし |
主契約 | 入院給付金 |
認知症の人が医療保険に加入する場合の注意点
認知症の人が医療保険に加入する場合、一番注意したいのは「告知」です。
告知に偽り・誤りがあると告知義務違反となってしまい、せっかく加入しても給付金が支払われません。最悪の場合、契約解除となってこれまでに支払った保険料が無駄になる可能性もゼロではありません。
告知すべき内容で判断に迷った場合は、保険会社や代理店の担当者に確認しながら手続きを進めましょう。
まとめ
認知症に関する基本的な知識や医療事情、認知症でも加入しやすい保険の種類などを解説しました。
認知症にかかる人は年々増加しています。公的制度だけではカバーしきれない部分があるため、民間の生命保険への加入も検討しておいた方がよいでしょう。
認知症になってからでは保険の加入が難しくなります。引受基準緩和型保険のように、比較的加入のハードルが低い商品もありますが、症状次第では加入できない可能性も高くなります。
生命保険は1歳でも若く、健康状態が安定しているうちに加入しておくのがベストのため、早めに対策をしておきましょう。
東証一部上場企業で10年間サラリーマンを務める中、業務中の交通事故をきっかけに企業の福利厚生に興味を持ち、社会保障の勉強を始める。以降ファイナンシャルプランナーとして活動し、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間毎年約100件のセミナー講師なども務める。趣味はフィットネス。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信しています。 <保有資格>CFP