住宅ローンにがん団信は不要?契約前にメリット・デメリットを把握しよう!

投資

「団体信用生命保険」(以下「団信」)とは、住宅ローン契約者が死亡または高度障害状態になった場合に、残った残高を保険金で支払う保険のことです。現在、ほとんどの金融機関では、住宅ローン契約時に団信への加入が求められるほか、加入しない場合は他の生命保険で補う必要があります。

では、死亡・高度障害時だけでなく、がんにかかった場合にも備えられる「がん団信」は必要なのでしょうか。ここでは、がん団信の概要やメリット・デメリットを紹介します。この記事を参考に加入すべきかどうかを考えてみましょう。

がん団信とは

がん団信とは、死亡時や高度障害時、そしてがんにかかった場合、保険金から住宅ローン残高が支払われる保険のことです。なお、「がん団信」は通称であることが多く、金融機関によっては正式に「がん保障特約付き団体信用生命保険」などの名称がつけられています。

基本的にがん団信の保険金で住宅ローン残高はゼロになるため、その後の返済はなくなります。がんに罹患した場合に仕事を休職することで収入が減少し、住宅ローンの支払いが続けられるか心配する人に向いている団信です。

がん団信と一般的な団信の違い

ここでは、がん団信と一般的な団信の違いを表で確認してみましょう。

がん団信 ・死亡、高度障害、がんに罹患したと診断確定されたときにローン残高が保険金から支払われる
・「50歳まで」など、住宅ローン契約可能年齢よりも加入可能年齢が低い
・一般的な団信よりも審査が厳しい
一般的な団信 ・死亡、高度障害時に住宅ローン残高が保険金から支払われる
・住宅ローン契約可能年齢内であれば加入可能(健康状態等の審査はあり)

一般的な団信は死亡、高度障害時のみの保障を提供しますが、がん団信は死亡、高度障害時に加えてがん罹患時の保障があります。この点から見ると、がん団信の保障範囲は一般的な団信よりも広いことがわかります。

また、一般的な団信の場合、住宅ローン契約が可能な年齢であれば加入ができますが、がん団信に加入できる年齢は住宅ローン契約可能年齢よりも低く設定されている場合があります。加えて、がん団信の加入審査は、一般的な団信よりも厳しい傾向があります。

がん団信とがん保険の違い

がん団信とがん保険は、いずれもがんにかかったときのための保険です。どのような違いがあるのかを確認しておきましょう。

がん団信 ・住宅ローン契約者でないと申し込めない
・死亡・高度障害時、がんと診断確定されたときに保険金が支払われるため、住宅ローン返済は終了する
・保険契約者は給付金や保険金を受け取れない
・契約中に特約を付加できない
がん保険 ・年齢等の条件を満たせば誰でも申し込める
・がんと診断確定されたとき、入院や通院時、所定の治療を受けたときなど、状況に応じて給付金や保険金が保険契約者(もしくは受取人に)支払われる
・契約中に特約を付加・解約することができる
・がんに罹患しても住宅ローン返済は継続する

がん団信はがんに罹患したときの住宅ローン返済負担をなくすための保険である一方、がん保険は保険契約者(被保険者)の治療を助けるための保険であるため、目的が全く異なります。がんへの備えを万全にしたい人は、どちらか一方という選択をとるのではなく、両方に加入することも検討しましょう。

がん団信に加入する必要性

そもそも、がん団信に加入する必要性はあるのでしょうか。ここでは、「がんの罹患率」「がんの治療費」から、がん団信の必要性について見ていきましょう。

がんの罹患率

国立研究開発法人国立がん研究センターの「最新がん統計(2019年データ)」によると、生涯でがんに罹患する確率は「男性65.5%」「女性51.2%」となっています。男女ともに2人に1人ががんに罹患するということです。このデータからもわかる通り、がんは珍しい病気ではありません。

ちなみに、厚生労働省の「令和2年(2020)患者調査の概況」によると、悪性新生物(がん)での平均在院日数は19.6日です。また、がん治療の場合、退院しても抗がん剤治療を週に1・2回のペースで数ヵ月から数年間受け続ける場合もあります。

入院・通院治療の間は、仕事のペースを抑える必要が出てくるかもしれません。そのため、がん団信で、万一の場合に備えておくことを検討することが大切です。

がんの治療費

がんのステージや治療方法にもよりますが、がん治療には年間平均60万円~100万円ほどかかります。(※)住宅ローンの借り入れている場合、毎月のローン返済に加えて、治療費やそれに関する費用までも支払う必要があるでしょう。
※高額医療費制度は考慮しておりません。

貯蓄が十分にある場合はがん団信に加入する必要はないかもしれませんが、貯蓄が少ない場合や、これからの子どもの教育費や生活費、老後の生活資金のために貯めている場合は、できる限り貯蓄を減らしたくないのではないでしょうか。

がん団信に加入しておけば、保険金で住宅ローン残高が支払われるため、その分の費用負担は減らすことが可能です。

がん団信で住宅ローン返済に備えるメリット

がん団信で住宅ローン返済に備えるメリットは次の3つです。

  • 住宅ローンの返済がなくなる
  • 治療に専念しやすくなる
  • 適用される基準が明確である

では、一つずつ詳しく確認していきましょう。

住宅ローンの返済がなくなる

がん団信に加入していれば、死亡・高度障害だけでなく、がんと診断確定されたときも保険金で住宅ローンの返済が行われます。その後の住宅ローン返済は一部あるい全額免除になるため、経済的な負担を軽減することが可能です。

治療に専念しやすくなる

がん団信に加入すると、がん治療に専念しやすくなるメリットがあります。がん治療は、病気の進行に応じて長期にわたり、かつ高額な費用がかかる場合があります。そのため、治療に専念するためには、経済的な不安が解消されていることが重要です。

がん団信に加入しておくことで、住宅ローンの返済に関する不安が解消され、治療に専念しやすくなるでしょう。

加えて、がん保険にも加入しておくことで、がん治療に必要な検査や手術、入院などの費用もカバーできます。がん治療の際に住宅ローンや治療費などの経済的な負担を考えたくない人は、がん団信に加えて、がん保険への加入も検討することで治療に専念しやすくなるでしょう。

適用される基準が明確である

団信には「がん団信」以外にも「三大疾病保障付団信」「八大疾病保障付団信」「要介護状態の保障付団信」などがあります。これらも病気になったときに役に立つ団信ではありますが、保険金が支払われるまでの基準が複雑なものも少なくありません。

例えば、三大疾病保障付団信に加入しており、急性心筋梗塞を発症した場合、「急性心筋梗塞を発症し、初めて医師の診療を受けた日からその日を含めて60日以上労働が制限される状態が継続した」と医師によって診断されないことには保障が適用されません。

一方で、がん団信の場合は、がんと診断確定された場合に保障が適用されるケースが多いです。他の団信と比較すると適用される基準が明確であるため、がん罹患時に保障が適用されるかわからないといった不安に陥りにくいでしょう。

ただし、がんの種類の中には、保障が適用されないがんもあるため、契約前にしっかり確認しておくことが重要です。

がん団信のデメリット

がん団信への加入にはメリットがある一方で、デメリットもあります。以下の4つのデメリットを押さえておきましょう。

  • 月々の支払額が増加する
  • 契約途中の変更ができない場合がある
  • 適用されないがんがある
  • 途中解約ができないケースもある

月々の支払額が増加する

一般的な団信の保険料は、住宅ローン金利に含まれています。しかし、がん団信は一般的な団信よりも保障範囲が広いため、保険料を契約者が負担しなくてはなりません。なお、負担する保険料は、金利に上乗せして支払うことになります。

金融機関にもよりますが、がん団信の場合、一般的な団信加入時よりも年0.1%~年0.2%程度の金利上乗せがあります。たった年0.1%程度と考えるかもしれませんが、住宅ローンは借入金が数千万円に及ぶケースが多いほか、借入年数も10年~30年、場合によって40年以上になることも珍しくありません。

例えば借入額が2,000万円、金利が1.0%、返済期間が30年、返済方法が元利均等であるケースで金利が0.1%上がると、総返済額が30万円以上も差が生まれることになります。

このように総返済額が増えると、月々の支払額も増えるため、金融機関が提供する返済シミュレーションやファイナンシャルプランナー相談サービスなどを利用し、完済できるかを確認した上で申し込みましょう。

契約途中の変更ができない場合がある

住宅ローン契約時は若く、病気の心配をそれほどしていなかった方でも、年を重ねるにつれ、健康に不安を抱えるというケースもあるかもしれません。また、子どもの誕生などで保障の上乗せをしたいと考える方もいるでしょう。

しかし、がん団信に限らず、保障付団信は特約部分(死亡・高度障害時以外の保障)の途中付帯ができません。基本的には、年齢や家族の変化に応じて保障の変更ができない点に注意してください。

どうしても団信の保障内容を変更したいのであれば、住宅ローンの借り換えを行うとともに、団信を見直すという方法もあります。ただし、住宅ローン借り換え時には審査があり、事務手数料や登記費用といったコストもかかるため、慎重に検討する必要があるでしょう。

適用されないがん疾患がある

がん団信は「がん」と名の付く疾病であれば全て保障されるわけではありません。「所定の悪性新生物」の保障に限られており、例として「上皮内がん」は保障対象外となっています。

ただし、金融機関によっては上皮内がんの保障が付く場合もあるため、がん団信を申し込む際は商品説明をよく確認しましょう。

途中解約ができないケースもある

「がん保障が不要になった」「月々の返済額を少しでも減らしたい」という理由から、がん団信を外すことを希望する人もいるかもしれませんが、基本的に途中解約はできないため気を付けてください。一度契約したがん団信は、完済まで継続すると認識しておきましょう。

ただし、前述の通り、住宅ローンの借り換えで団信の保障内容を変更するという方法もあります。住宅ローンや団信の審査を再度受けることや、住宅ローン借り換えに伴う諸費用がかかることが気にならないという人は、この方法を検討してみましょう。

保障開始まで待機期間がある

がん団信は、加入後すぐに保障が開始されるわけではありません。保障開始は「借入日から90日を経過した日の翌日以降」となります。住宅ローン契約後、1~2ヵ月程度でがんにかかっても保険金は支払われないという点は理解しておきましょう。

がん団信に関するよくある質問

ここでは、がん団信についてよくある質問を紹介します。具体的に申し込みを検討する前に疑問点を解決しておきましょう。

Q.がん団信への加入で生命保険料控除は受けられる?

がん団信に限らず、どの団信であっても生命保険料控除は受けられません。

国税庁のホームページによると、生命保険料控除について「生命保険料、介護医療保険料および個人年金保険料を支払った場合には、一定の金額の所得控除を受けることができます。」と記載されています。
引用:国税庁「No.1140 生命保険料控除

また、がん団信に加入し、がん保障部分の保険料を金利上乗せという形式で契約者が負担している場合でも、生命保険料控除の対象にはなりません。

Q.がん団信50とがん団信100の違いとは?

「がん団信50」と「がん団信100」の違いは、以下の通りです。

がん団信50 がんと診断確定された場合、住宅ローンの残高の50%が保険金で返済される
がん団信100 がんと診断確定された場合、住宅ローンの残高の100%が保険金で返済される

がん団信100が住宅ローン残高の完済ができるのに対し、がん団信50で支払われるのは住宅ローン残高の50%となっています。

がん団信100の方が保障内容は充実していますが、金利上乗せ分はがん団信50よりも多くなるため気を付けてください。毎月の支払額や総支払額にどの程度の違いがあるかを確認した上で、どちらに加入するかを決めましょう。

なお、金融機関によって「がん団信50、100両方」「がん団信50のみ」「がん団信100のみ」など、取り扱う団信が異なります。住宅ローンを比較検討する際は、取り扱う団信の種類についても確認しておくとよいでしょう。

まとめ

住宅ローンは高額の借入金を20年以上に渡って返済し続けていくことも珍しくありません。長い契約期間中、がんなどの疾病に罹患することも考えられます。

がん団信に加入しておくことで、死亡・高度障害時だけでなく、がんと診断確定された場合でも保険金から住宅ローン残高が返済されるため、いざというときの不安を軽減できます。「がんに罹患したら収入が減りそう」「がん治療のために休職する場合でも、貯蓄を住宅ローンに回すことはできない」という人は、選択肢の一つになるでしょう

ただし、がん団信に加入すると、住宅ローン金利に年0.1%~年0.2%程度の上乗せがあります。一般的な団信加入時よりも毎月の返済額が上がってしまうため、完済まで支払えるかをよく検討してください。





関連記事

特集記事

オカネノホンネ編集部

オカネノホンネ編集部

難しいお金の話を、ファイナンシャルプランナー・ファイナンシャルプランニング技能士や保険や金融商品の専門家が忖度なし「ホンネ」でわかりやすく伝えます。

TOP