生命保険は差し押さえの対象になる?回避する方法を差し押さえられた後の対処法

保険全般

税金や借金の返済などを滞納し続けると、財産の差し押さえを受ける可能性があります。現金や不動産、自動車など、さまざまな財産が差し押さえの対象となっていますが、生命保険はどうでしょうか。

本記事では、生命保険が実際に差し押さえの対象になるのか、差し押さえられた場合、どのように対処すればいいのかについて解説します。安心して生命保険に加入するためにも、事前に知識を身に付けておきましょう。

生命保険は差し押さえの対象になる

差し押さえとは、借金の返済や税金の滞納が続いたときに、債権者が強制的に財産を回収・処分する手続きです。裁判所への申し立てや税務署の指示に基づいて行われます。たとえば、税務署が実施する場合、税金を滞納している人の生活維持に影響が出にくい財産や、換金しやすい財産などを中心に差し押さえが行われます。

主に現金や預貯金、自動車や不動産などが対象となりますが、換金のしやすさから生命保険も差し押さえの対象になることが一般的です。

生命保険には、解約返戻金や満期保険金、配当金などが支払われる商品があります。一定の契約年数を経過した場合、これらの金額は決して少額ではないため、差し押さえに値すると判断される可能性があります。

実際に、平成11年の最高裁判決により解約返戻金の差し押さえと解約の実行が可能であるとする判決が下されています。

差し押さえの対象となりやすい生命保険契約

解約返戻金や満期保険金、配当金などの現金を受け取れる可能性がある貯蓄型保険は、差し押さえの対象になりやすいといえます。

養老保険や終身保険、個人年金保険、変額保険などは貯蓄型保険の代表例です。ただし、入院給付金などがある生命保険の場合は、差し押さえによって治療費の支払いができなくなる、新しい保険に加入できなくなるなど、生命保険の契約者にとって著しいデメリットが生じる可能性があるため、差し押さえが解除される場合もあります。

差し押さえの対象になりにくい生命保険契約

解約返戻金などがない掛け捨て型の保険は、差し押さえの対象になる可能性は低いでしょう。掛け捨て型の保険の代表的なものとしては、医療保険やがん保険、定期保険などが挙げられます。

掛け捨て型の保険では、基本的に支払い事由に該当した場合しか現金を受け取ることができません。差し押さえを実行しても、確実に債権を回収できるとは限らないため、差し押さえをするメリットが薄いと考えられています。

公的年金は差し押さえの対象ではない

個人年金保険の保険金や解約返戻金は、差し押さえの対象になる可能性が高いといえます。一方、公的年金は、国民年金法や厚生年金法によって受給権が保護されているため、差し押さえの対象にはなりません。

なお、高額療養費制度による給付や、生活保護費なども差し押さえの対象外です。生活に必要な衣服や食料、最低限の生活費、実印なども差し押さえの対象外とされているため、覚えておきましょう。

生命保険が差し押さえとなるまでの流れ

銀行や消費者金融などへの返済が滞ると、初めに電話や書面による督促を受けます。その後も返済が行われない場合、債権者(銀行や消費者金融等)は裁判所に訴訟や支払督促(簡易裁判所を通じて相手片に支払いを求める手続き)を申し立てることがあります。

裁判所によって申し立てが認められれば、差し押さえが可能になり、生命保険が差し押さえられるという流れです。

生命保険に関する税金の滞納の場合、プロセスに若干の違いがあります。最初に税務署や自治体から督促状が送られ、それを無視して納付しない場合には財産調査に移ります。指定された期限までに納付がない場合には、差し押さえが実行されるという流れです。税金に関する差し押さえは裁判所の手続きや判決を必要としないため、借金の滞納に比べて迅速に行われることがあります。

どちらの場合でも、差し押さえに至るまでは複数のステップがあり、借金返済の滞納や税金の滞納が直ちに差し押さえを意味するわけではありません。しかし、差し押さえが決定すると、基本的に具体的な日時が通知されることはなく、突然生命保険が解約されることもあります。

生命保険の差し押さえを債務完済以外で回避するには?

生命保険の差し押さえを回避するためには、借金や税金を完済することが確実な方法です。しかし、返済の目途が立たない場合には、以下のような方法も検討してみるとよいでしょう。

  • 差し押さえられる前に契約を見直す
  • 契約者貸付制度を利用する
  • 債務整理をする

差し押さえの危機に直面している場合、これらの方法を検討することで、最悪の事態を避けられるかもしれません。

差し押さえられる前に契約を見直す

差し押さえられる前に、まずは生命保険の契約を見直してみましょう。不要な保障に加入している場合は、保障を減らすことで保険料の節約につながります。節約した保険料を返済資金に充てられれば、差し押さえを避けられるかもしれません。

生命保険の保険料負担を減らす方法には、以下のようなものがあります。

保険料の負担を軽減する方法 概要
保険金の減額 主契約や特約の保障金額を減らすこと
払済保険への変更 保険料の払い込みを中止して、その時点での解約返戻金をもとに、保険期間が同一の保障金額が少ない保険に変更すること
延長保険への変更 保険料の払い込みを中止して、その時点での解約返戻金をもとに、保険金額が同一の保険期間が短い保険に変更すること
解約 将来に向かって保険契約を解消すること

解約返戻金が少ない場合、払済保険や延長保険への変更はできないため注意しましょう。これらの方法で保険料の負担を減らした後に、返済資金を確保しつつ、掛け捨ての保険に入り直すのも一つの手です。

契約者貸付制度を利用する

契約者貸付制度とは、生命保険の解約返戻金の範囲内で、保険会社からお金を借りられる制度です。借りたお金を返済資金に充てられれば、差し押さえを避けられる可能性があります。

審査が不要で生命保険を解約しなくても、まとまったお金を用意できる点が契約者貸付制度のメリットです。ただし、借りたお金には利子が付くため、元金と利息の合計が解約返戻金を超えると上回ると保険は失効します。

また、返済しないまま保険金の支払いが発生した場合は、保険金から元金と利息が差し引かれる点には注意しましょう。

債務整理をする

債務整理とは、借金の元本や利息を減額・免除することや支払いの猶予を受けることで、借金を整理する方法です。主に、以下の4種類の方法があります。

種類 概要
任意整理 債権者と直接交渉し借入金の利息を減額したり、返済期間を延長してもらったりすることで、返済計画を立て直す方法
特定調停 裁判所の仲介を受けながら、債権者と返済条件について話し合い、返済負担の軽減を目指す方法
個人再生 裁判所を通じて法的な手続きを行い、借金を大幅に減額し、残った借金を分割して返済する方法
自己破産 借金を返済することが不可能な状況にある場合に、裁判所に申し立てをして借金を免除してもらう方法

差し押さえの可能性があるほど返済に滞っている場合は、債務整理をして、根本的に生活の立て直しを図るのも一つの手です。債務整理をすることで、差し押さえが中止になる可能性もあります。ただし、自己破産をした場合、一定以上の財産は持てなくなるため、差し押さえを受けるのと同じような結果になることもあります。

生命保険が差し押さえられた場合の対処法

生命保険が差し押さえられた場合、介入権を行使することで保険契約を継続できる可能性があります。介入権とは、一定の要件の下で保険金受取人が解約しようとしている債権者に対して、所定の解約返戻金と同額を支払うことにより、保険契約を継続できる仕組みです。この制度は、保険法第89条で定められています。

差し押さえによって生命保険が解約されると、被保険者が高齢である場合など、再加入が難しい場合があります。また、残された家族が生活できなくなるリスクもあるでしょう。介入権は、これらのデメリットを考慮し、保険金受取人の利益を守るために設けられている制度です。

介入権を行使できる人

介入権を行使できるのは、債権者から解約通知を受けた時点での保険金受取人で「被保険者」または「契約者・被保険者の親族」に限られます。契約者は介入権を行使できないため、注意しましょう。

介入権を行使する手順

介入権を行使する際は、まず保険の契約者から介入権を行使するための同意を得ます。次に、解除権者が保険会社に解約を通知してから1ヶ月以内に、通知時点での解約返戻金と同額を解除権者に支払います。

最後に支払いが完了した旨を保険会社に通知することで、保険の解約処理を解約処理は停止または取り消されるという手順です。

まとめ

解約返戻金のある生命保険は、換金が容易であることなどから、差し押さえの対象になる可能性があります。一方、掛け捨ての生命保険は解約返戻金がないため、差し押さえの対象になりにくいといえるでしょう。

差し押さえのリスクに直面している人は、保険契約を見直し、解約返戻金を返済資金にあてることができないか検討してみましょう。また、契約者貸付制度を利用して、保障を残しつつ返済をする方法もあります。どうしてもお金の工面ができない場合は、債務整理をして借金問題を根本的に解決することも考えてみましょう。

なお、実際に差し押さえられた場合でも、介入権を行使することで保険契約を継続できる場合もあります。

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オカネノホンネ編集部

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