2024年1月にスタートした新NISAは、続々と利用者が増えています。日本証券業協会の「NISA口座の開設・利用状況(証券会社10社・2024年2月末時点)」によれば、2024年2月のNISA口座新規開設件数は53万件であり、これは2023年1~3月におけるNISA口座開設件数(1ヶ月平均)と比較して約2.9倍に増加しています。
これほどまでに増加した背景には、制度が大きく変更され、利便性が高まったことが挙げられるでしょう。なお、従来の制度とどのような点が変更されたのか、気になる人も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、新NISAの変更点やメリットや注意点をわかりやすく解説します。運用を始めるときのコツも紹介しますので、NISAでの資産運用に失敗したくない人はぜひ参考にしてください。
目次
新NISAは何が変更された?
下表では、従来のNISAと新NISAの主な違いについてまとめました。
旧NISA | 新NISA | ||||
一般NISA | つみたてNISA | 成長投資枠 | つみたて投資枠 | ||
年間投資上限額 | 120万円 | 40万円 | 240万円 | 120万円 | |
非課税保有限度額 | 600万円 | 800万円 | 1,800万円(うち成長投資枠1,200万円) | ||
非課税保有期間 | 最大5年 | 最大20年 | 無期限 | ||
口座開設期間 | 2023年末まで | 無期限 | |||
非課税枠の併用 | 不可 | 可能 |
なお、旧制度から以下のように名称が変更されています。
- 一般NISA→成長投資枠
- つみたてNISA→つみたて投資枠
以下では、新NISAの変更点について詳しくみていきましょう。
年間投資上限額が最大360万円に引き上げ
旧制度では、一般NISAで120万円もしくは、つみたてNISAで40万円が1年間に非課税で投資できる上限額となっていました。
しかし、新NISAでは成長投資枠は2倍の240万円、つみたて投資枠は3倍の120万円まで上限額が引き上げられています。また、新NISAでは成長投資枠とつみたて投資枠が併用できるようになったため、最大で「360万円」まで非課税で投資可能です。
たとえば、積立投資をする場合、成長投資枠とつみたて投資枠の両方で購入できる商品であれば、毎月最大30万円まで積立できます。
非課税限度額が1,800万円に引き上げ
旧NISAにおいては、一般NISAで120万円×5年=600万円、つみたてNISAで40万円×20年=800万円が、非課税で運用できる金額の上限でした。
しかし、新NISAスタートに伴い、一生涯を通じての「非課税保有限度額」が新設され、「1,800万円」が非課税で運用できる上限額となりました。ただし、成長投資枠で利用できるのはそのうち「1,200万円」であるため、1,800万円の枠を全て使い切るには、つみたて投資枠を使用する必要があります。
なお、非課税保有限度枠は、商品を売却すると取得金額の分だけ再利用可能です。たとえば、成長投資枠を使って100万円の投資信託を購入・売却した場合、売却した年の翌年以降は100万円の非課税枠が復活します。
非課税保有期間が無期限に変更
旧NISAの非課税保有期間は、一般NISAで最大5年、つみたてNISAで最大20年でしたが、新NISAでは「無期限」に変更されました。
これまでは、非課税保有期間の終了に合わせて資産を売却するか、課税口座で運用を続けるか、を判断する必要がありました。しかし、新NISAでは、値動きや運用目標の達成状況を考慮したうえで、柔軟に投資の終了時期を決められます。
口座開設期間が恒久化
旧NISAでは、口座開設可能な期間が2023年末までと決まっていたため、投資を始めるのが遅くなると、その分非課税で運用できる総額が少なくなっていました。
新NISAでは、「口座開設期間が恒久化」したため、投資を始めるタイミングに関係なく、より長期的な視点で資産運用に取り組みやすくなっています。
つみたて投資枠と成長投資枠の併用が可能
つみたて投資枠(つみたてNISA)の主な投資対象は、金融庁の基準を満たした一定の投資信託です。一方で、成長投資枠(一般NISA)では、投資信託や株式など幅広い商品に投資できます。
旧NISAでは、2つの非課税枠は併用できませんでした。そのため、つみたてNISAで投資信託を購入すると、株式を非課税で運用できないことがネックだったといえるでしょう。
しかし、新NISAでは「非課税枠を併用できる」ため、つみたて投資枠で投資信託の積立をしつつ、成長投資枠で株式に投資してプラスアルファのリターンを狙う、といった運用も可能です。新NISAへの移行に伴い、これまでよりも投資の自由度は高まったといえるでしょう。
新NISAのメリット
ここからは、新NISAを活用して資産運用を行うメリットについてみていきましょう。
効率的な資産形成が期待できる
新NISAは、旧NISAよりも多くの資産を非課税で投資できるため、効率よく資産形成を行えます。
たとえば、「毎月10万円」を積立するケースで考えてみましょう。
旧制度のつみたてNISAでは、毎月約3.3万円が非課税で投資できる上限であるため、残りの6.7万円は課税口座で運用する必要があります。利回り3%で30年間運用した場合、最終的な運用資産額は約5,827万円です。ただし、課税口座で運用した部分に係る収益(1,492万円)には約20%の税金がかかるため、約298万円収益が減ってしまいます。
一方で、新NISAのつみたて投資枠であれば、毎月10万円まで非課税で投資可能なので、収益をそのまま手元に残せます。つまり、運用期間や運用金額が大きくなるほど、非課税で投資できるメリットは大きくなるでしょう。
長期的に運用できる
新NISAでは、非課税で投資できる期間が恒久化されたため、これまで以上の複利効果が期待できます。複利効果とは、運用益を再び投資に回すことで、利益が利益を生み出す効果を指します。
税金を差し引かれることなく利益をそのまま再投資に回せるため、課税口座で運用するよりも大きな複利効果を得られるのが、NISAの特徴です。複利効果は、運用期間が長くなるほど大きくなるため、非課税で運用できる期間の上限が5年または20年の旧制度よりも、無期限で運用できる新NISAのほうが複利効果は大きくなるでしょう。その結果、多くの利益を得られる可能性があります。
また、投資のリスクを抑えるという観点でも長期運用は有効です。資産や地域を分散した積立投資をする場合、保有期間が長くなるほど元本割れしにくくなるという金融庁の調査結果もあります。
新NISAのデメリット
新NISAで運用を始める際には、以下で紹介するような注意すべきポイントが存在します。
旧NISAの資産を引き継げない
新NISAと従来のNISAは、基本的に別制度です。そのため、つみたてNISAで購入した商品をつみたて投資枠に移動することはできません。
もし、従来のNISAで運用していた商品を新NISAでも運用したいと考えた場合は、新NISAの非課税枠を使用して購入し直す必要があります。
18歳未満は口座開設できない
新NISAは「日本国内在住の18歳以上(利用する年の1月1日時点で18歳以上の成人)」の人が利用できる制度です。
旧NISAには、未成年向けの「ジュニアNISA」と呼ばれる制度がありましたが、新NISAはそのような制度はありません。そのため、「親が子供の名義で将来に向けた資産運用をする」といったことはできないと理解しておきましょう。
損益通算や繰越控除ができない
損益通算とは、1年間に投資で得た利益と損失を相殺することです。繰越控除は、その年に控除しきれなかった損失を最長3年間にわたって利益と通算できる制度を指します。
新NISAだけでなく従来のNISAも同様ですが、この損益通算や繰越控除ができません。これは、NISA口座では利益が非課税となるだけではなく、損失も発生しないものとみなされるためです。
課税口座とNISA口座の両方で運用をしており、NISA口座で損失が出ている場合は、税負担が重くなる可能性があるため注意しましょう。
新NISAを賢く運用するコツ
新NISAを賢く運用するには、明確な計画と戦略が必要です。以下では、具体的なコツを紹介します。
投資の目的・ゴールを設定する
投資を始める前に明確な「目的とゴール」を設定するのが重要です。投資の目的は、将来の教育費や住宅購入の資金を確保することや、老後の生活資金を準備することなど、その人によって異なります。
目的が明確であれば、そのためのゴールや運用の戦略も決めやすくなるでしょう。たとえば、老後資金として30年後に2,000万円貯めることを目標とした場合、毎月どのような商品にいくら投資すればよいかを逆算して計画を立てられます。
目的を決めずに運用を始めると、資産を売買する際の基準が定まりません。目の前の値動きに流されて売買をしてしまうことで、思うような利益を得られなくなる可能性もあるでしょう。
新NISAは、従来よりも運用の自由度が高いため、しっかりと目標設定をしていれば、期待する成果を得られるチャンスが広がります。
分散投資を意識する
新NISAで運用をする際は、「分散投資」を心がけることが大切です。分散投資とは、リスクを抑えて安定したリターンを狙う投資手法のことで、複数の異なる資産や銘柄、地域に投資する「資産分散」と、金融商品の購入タイミングを複数回に分ける「時間分散」があります。
新NISAで資産分散をする際は、国内株式中心の投資信託だけでなく、米国株式や新興国株式を組み込んだ投資信託を購入してみるとよいでしょう。株式や債券、REITなど複数の資産に投資する「バランス型」ファンドに投資するのも一つの方法です。
また、つみたて投資枠をうまく活用すれば、時間分散の効果も得やすくなります。一度に大量の資金を投資するのではなく、毎月決まった金額をコツコツと投資すれば、平均購入価格を平準化できるでしょう。
分散投資を意識することで、リスクを抑えた運用が実現します。
まとめ
新NISAでは、非課税保有期間が無期限に変更され、口座開設期間も恒久化されたため、より長期的な資産運用が可能となりました。また、非課税で投資できる金額も増えたため、効率的な資産形成が期待できます。
ただし、運用の選択肢が広がった分、やり方次第ではメリットを生かしきれないケースも考えられます。新NISAのメリットを存分に生かすためにも、明確な運用目標を設定したうえで、分散投資でリスクを抑えながら、着実に資産形成を進めるようにしましょう。
東証一部上場企業で10年間サラリーマンを務める中、業務中の交通事故をきっかけに企業の福利厚生に興味を持ち、社会保障の勉強を始める。以降ファイナンシャルプランナーとして活動し、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間毎年約100件のセミナー講師なども務める。趣味はフィットネス。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信しています。 <保有資格>CFP