親の相続が差し迫っている、または定年退職を控えている人にとって、相続税対策は重要な課題です。特に、高齢者やその子世代の人は、財産を守りながら家族への負担を減らしたいと考えているは多いでしょう。
そこで本記事では、生命保険を活用した相続税対策の方法を詳しく解説します。生命保険の非課税枠を活かした具体的なシミュレーションも紹介するため、資産管理に関する不安を解消したい人は参考にしてください。
目次
生命保険で相続税が発生するのはどんなケース?
生命保険の保険金において、契約者(保険料を支払う人)・被保険者(保障の対象になる人)・保険金受取人が誰になるかによって、課税される税金の種類が異なります。
契約者 | 被保険者 | 保険金受取人 | 税金の種類 |
A | A | B | 相続税 |
A | B | A | 所得税 |
A | B | C | 贈与税 |
相続税がかかるのは契約者・被保険者が夫、保険金受取人を妻とするようなケースです。
生命保険の保険金は、現金や有価証券、不動産のように死亡した時点で被相続人が保有している財産ではありません。
しかし、被相続人の死亡をきっかけとして発生し、民法上の相続財産とほとんど変わりないものとみなせるため「みなし相続財産」として相続税の課税対象になります。
生命保険が相続税対策に役立つ理由とは?
生命保険は、相続税対策として有効な手段の1つです。以下では、相続税対策となる生命保険ならではの特徴をみていきましょう。
「500万円×法定相続人の数」の非課税枠がある
生命保険には「500万円×法定相続人の数」という非課税枠が設けられています。法定相続人とは、民法で定められている被相続人の財産を引き継ぐ権利を持つ人のことです。たとえば、法定相続人が配偶者・長男・次男の3人である場合、受け取る保険金が500万円×3人=1,500万円以内であれば、税金はかかりません。
現金や預貯金などで1,500万円を相続した場合は、それらが全額相続税の課税対象になる可能性があります。生命保険の非課税枠を活用することで、相続税の負担を減らしつつ、家族により多くのお金を残すことが可能です。
納税資金として活用できる
相続税は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内の申告が必要です。基本的には現金で一括納付する必要があるため、相続財産が不動産ばかりで現金や預貯金が少ないケースなどは、相続人自身が保有する現金で支払いをしなければなりません。その結果、相続人の負担が大きくなる可能性があります。
そもそも、被相続人が死亡すると、相続手続きが終わるまで金融機関の口座は凍結されてしまうケースがほとんどです。そのため、現金があったとしても納税資金に充てられないでしょう。
しかし、生命保険であれば、請求書類が保険会社に到着してから5営業日程度で保険金が支払われるケースが一般的です。すぐにまとまった現金を用意できるため、納税資金として活用しやすいでしょう。
【シミュレーション】生命保険を活用すると相続税はいくらになる?
生命保険を活用すると相続税はどれくらいになるのか、具体的な計算例を通じてシミュレーションしてみましょう。ここでは、相続税がかからない場合と、かかる場合の2つを例に挙げて紹介します。
相続税がかからないケース
以下で紹介する、相続税がかからないケースにおける前提条件は、以下の通りです。
- 契約者・被保険者:夫
- 受取人:妻
- 子ども:2人
- 死亡保険金額:3,500万円
- その他の相続財産:2,500万円
- 葬儀代:200万円
- 債務:なし
【シミュレーション】
ステップ1:生命保険の非課税枠を適用する
非課税枠(500万円×法定相続人の数)を死亡保険金額から差し引きます。死亡保険金額のうち:3,500万円-(500万円×3)=2,000万円が相続税の対象です。
ステップ2:相続税の課税価格を計算する
課税価格はステップ1で求めた金額にその他の相続財産を加えてから、債務や葬儀代を控除した価格です。具体的には、2,000万円+2,500万円-200万円=4,300万円が課税価格になります。
ステップ3:相続税の基礎控除額を計算する
相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除があります。基礎控除額は3,000万円+600万円×3=4,800万円です。
ステップ4:相続税を計算する
課税価格から基礎控除を差し引き、相続税率をかけることで相続税を計算します。しかし、今回の例では、基礎控除額(4,800万円)が課税価格(4,300万円)よりも多いため、相続税はかかりません。
相続税がかかるケース
以下で紹介する、相続税がかかるケースにおける前提条件は、以下の通りです。
- 契約者・被保険者:夫
- 受取人:妻
- 子ども:2人
- 死亡保険金額:3,500万円
- その他の相続財産:7,500万円
- 葬儀代:200万円
- 債務:なし
ステップ1:生命保険の非課税枠を適用する
非課税枠(500万円×法定相続人の数)を死亡保険金額から差し引きます。死亡保険金額のうち:3,500万円-(500万円×3)=2,000万円が相続税の対象です。
ステップ2:相続税の課税価格を計算する
課税価格はステップ1で求めた金額にその他の相続財産を加えてから、債務や葬儀代を控除して計算します。具体的には、2,000万円+7,500万円-200万円=9,300万円が課税価格です。
ステップ3:相続税の基礎控除額を計算する
基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算するため、3,000万円+600万円×3=4,800万円です。
ステップ4:相続税の総額を計算する
まずは、課税価格の合計額から基礎控除を差し引いた「課税遺産総額」を計算します。課税遺産総額は9,300万円-4,800万円=4,500万円です。
次に、課税遺産総額を各法定相続人が法定相続分に応じて取得したものとして、それぞれの取得金額を計算します。妻の取得金額は4,500万円×1/2=2,250万円、子どもの取得金額はそれぞれ4,500万円×1/4=1,125万円です。
これに対して、相続税率を乗じて相続税の総額を算出します。妻の算出額は2,250万円×15%-50万円=287万5,000円です。子どもの算出額は1,125万円×15%-50万=118万7,500円なので、287万5,000円+118万7,500円×2=525万円が相続税の総額になります。
ステップ5:各人の納税額を算出する
相続税の総額を実際の相続割合に応じて按分をすれば、各人の納税額を計算できます。たとえば、実際の相続割合が妻40%、子ども2人が30%ずつだったとすると、下記のように相続税がかかります。
妻:525万円×40%=210万円
子ども:525万円×30%=157.5万円
ただし、配偶者には「配偶者の税額の軽減」が適用されるため、配偶者が実際に取得した遺産額が「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のどちらか多い金額までであれば、相続税は発生しません。
つまり、今回のケースでは、死亡保険金とその他の相続財産の合計金額が1億6,000万円に満たないため、配偶者には相続税の負担が発生しないことになります。
生命保険を相続税対策に活用するメリット
生命保険を相続税対策に活用すると、相続手続き自体がスムーズに進む可能性があります。以下では、具体的なメリットについてみていきましょう。
指定した人が保険金を受け取れる
生命保険の大きなメリットは、受取人をあらかじめ指定できる点です。相続が発生した場合、被相続人の財産を漏れなく調査したうえで、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産の分け方を決める必要があります。
しかし、生命保険の死亡保険金は「受取人固有の財産」として、通常の相続財産とは区別されるため、遺産分割協議の対象外です。
また、法定相続人には「遺留分」と呼ばれる最低限の遺産の取り分が、民法によって決められています。しかし、基本的に死亡保険金は遺留分の対象外になるため、指定された受取人が全額受け取ることが可能です。
つまり、被相続人が渡したい人にほぼ確実にお金を残せるという点が、生命保険を活用するメリットといえるでしょう。
相続財産を分割しやすくなる
生命保険は、代償分割をする際にも活用できます。代償分割とは、特定の相続人が現物の資産を相続する代わりに、他の相続人に対して代償金を支払い、遺産を分割する方法です。
代償分割は、不動産や有価証券など、換金しにくい資産を複数人で公平に分割する際に用いられる方法ではありますが、代償金の支払い余力がない場合は利用できません。その点、生命保険を活用すれば、代償金をスムーズに支払うことができます。
生命保険を相続税対策に活用する際の注意点
生命保険を相続税対策に活用する際は、以下の点について注意が必要です。
死亡保険金の非課税枠が使えるのは法定相続人のみ
死亡保険金を法定相続人以外が受け取る場合、非課税枠は使えません。たとえば、配偶者・子が法定相続人になるケースであり、被相続人の父親が死亡保険金を受け取った場合は、非課税枠が適用されず、通常通り相続税の課税対象になります。
さらに、兄弟姉妹や内縁の配偶者など、被相続人の一親等の血族や配偶者以外の人が保険金を受け取った場合は、相続税が2割加算される制度もあるため、注意しましょう。
また、死亡保険金は相続放棄をしても受け取れます。しかし、相続放棄をした場合は、あらかじめ相続人でなかったものとみなされるため「500万円×法定相続人数」の非課税枠が適用されません。
受取人死亡時は意図しない相続になる場合もある
死亡保険金の受取人が被相続人よりも先に死亡してしまった場合、受取人の法定相続人が新たな受取人となるケースが一般的です。
このようなケースでは、疎遠な親族に保険金がわたり、意図しない相続となる可能性もあります。保険金の支払いが発生する前であれば、受取人の変更は基本的にいつでも可能であるため、本来の受取人が死亡した場合は早めに変更手続きをしておきましょう。
生前給付金は課税対象になる場合もある
一般的な生命保険では、医師から余命6ヶ月以内と診断された場合に、保険金の一部または全部を生前給付金として受け取れる「リビング・ニーズ特約」を無料で付加できます。
生前給付金は、被保険者本人が受け取ることが可能です。税金もかかりませんが、給付金を使いきれずに残してしまった場合は、相続税の課税対象になります。生存給付金の残額は税法上、死亡保険金としては扱われないため、非課税枠も適用されない点に注意が必要です。
相続税対策が目的であれば一時払い終身保険がおすすめ
一時払い終身保険とは、契約時に保険料を一括で払い込む死亡保険を指します。現金から非課税枠の適用される保険金へ素早く財産を移転し、相続税の負担を軽減可能です。
告知不要で加入できる商品も多く、健康状態に不安がある場合でも加入しやすくなっています。また、80歳以上でも加入できる商品もあるため、相続税対策を検討している高齢者が加入しやすい商品の1つです。
まとめ
生命保険には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があるため、現金をそのまま残す場合と比べると、相続税を軽減できる可能性があります。また、納税資金や代償金としても活用できるため、うまく活用すれば相続手続きを円滑に進められるでしょう。
ただし、法定相続人以外を受取人に指定した場合は、非課税枠が適用されないばかりか、相続税の負担が重くなることもあるので注意しましょう。
東証一部上場企業で10年間サラリーマンを務める中、業務中の交通事故をきっかけに企業の福利厚生に興味を持ち、社会保障の勉強を始める。以降ファイナンシャルプランナーとして活動し、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間毎年約100件のセミナー講師なども務める。趣味はフィットネス。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信しています。 <保有資格>CFP