年金制度による給付は老齢給付、障害給付、遺族給付という3種類によって構成されています。
一般的に、年金制度というと、多くの人が受給することになる老齢年金のことを指すことが多いです。老後、多くの人にとって年金が収入の大部分を占めることになるでしょう。年金は長生きのリスクに備える保険の役目を果たします。この記事では老齢年金制度の概要について説明します。
目次
老齢年金制度の概要
6000万人以上が加入し年間55兆円以上の給付が行われる年金制度は、年金の大部分は現役世代の保険料でまかなわれ、2割程度が国庫負担(つまり税金)、不足分をG積立金から補填するとしています。また年金保険料は、会社員や官公庁職員が加入する厚生年金保険は掛け金の半額は雇用企業が負担しています。自営業者が加入する国民年金も給付の際の半額は国庫負担になります。つまり、自分の掛け金は給付金額の原資の一部であり、早くして亡くなるなどがない限り基本的には支払った金額よりも多くの金額をもらえる計算になりますので、活用するほうが無難と言えるでしょう。
老齢年金制度は3階建てと例えられることが多いです。公的年金とは老後に決まった金額が支給される制度ですが、「老齢基礎年金(国民年金)」として全国民が加入する1階部分の国民年金と、それに上乗せする形で会社員や公務員が加入する2階部分の「老齢厚生年金」があります。厚生年金は報酬によって年金の納付額もまた支給額も変動します。さらに3階部分として「私的年金」として積み増しできる企業年金や個人型確定拠出年金等(iDeCo)があります。
厚生労働省の「令和元年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、1階部分の国民全員が受け取れる「老齢基礎年金」の平均受給額は月額56,049円です。
老齢厚生年金(基礎年金と厚生年金を合計した合計)の受給額の平均は146,162円となっています。
厚生年金は報酬比例のため、人によって金額には差がありますが、65歳以上の受給権者の合計受給額の平均月額は男性が171,305円、女性が108,813円と差が見られます。
年金額の計算は、条件分岐や計算方法がとても複雑です。
老齢基礎年金の計算式
78万900円(2021年度)×(納付月数)/480カ月
※2021年度(令和3年度)の国民年金の満額は年78万900円。仮に20年の240か月しか払っていなければ金額はその半分の39万450円となります。
老齢厚生年金の計算式
以下の合算になります。
2003年3月まで:平均標準報酬月額(≒平均月収)×7.125/1000×2003年3月までの加入月数
2003年4月以降:平均標準報酬額(≒平均月収+賞与)×5.481/1000×2003年4月以降の加入月数
この記事ではこれ以上の詳細には言及しませんが、ご自身の年金額を確認するには以下の2つの方法があります。現在までに支払った年金保険料から予想される年金受取額が記載されているので、チェックしてみてください。
①日本年金機構のWebサイト「ねんきんネット」
②年に1回送付される「ねんきん定期便」
公的年金の支給額のモデルケースの紹介
世帯別の公的年金の支給金額のモデルケースをみていきましょう。なお以下は厚生労働省の「令和元年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」の平均値をもとに算出しています。
◆夫婦ともに会社員の場合 世帯合計 月額 約26万7000円
※内訳
夫:老齢厚生年金(基礎年金含む) 月額 約16万4000円
妻:老齢厚生年金(基礎年金含む) 月額 約10万3000円
◆夫が会社員、妻が専業主婦 世帯合計 月額 約21万7000円
※内訳
夫:老齢厚生年金(基礎年金含む) 月額 約16万4000円
妻:老齢基礎年金 月額 約5万3000円
◆夫婦ともに自営業の場合 世帯合計 月額 約11万1000円
※内訳
夫:老齢基礎年金 月額 約5万8000円
妻:老齢基礎年金 月額 約5万3000円
◆単身の会社員 男性の場合 約16万4000円
◆単身の会社員 女性の場合 約10万3000円
こちらは現在受給している世代の受給金額であり、特に女性の社会進出や出産・育児などの状況が今とは異なりますので平均して女性が低い数字でています。あくまでひとつの参考値として知っておくのがいいでしょう。
年金受給額の今後の見通し
それでは「今後も現在と同じ規模の年金を受給し続けられるのでしょうか」、現役世代の方が特に気になるポイントかと思います。
年金制度は数年に一度、財政検証が実施され、その給付水準が見直されます。給付金額が現役世代の平均手取り収入に対してどの程度の割合かというのを示す「所得代替率」という指標があります。財政検証によると、現役世代を100%とした際に2019年度は61.7%ですが、これは2047年度には50.8%になる見込みと発表されています(これは一定の仮定のもとの数字であり、経済成長や就労状況などの数字次第で変動の可能性があります)。
つまり、高齢化に伴い、年金は今の給付水準よりも減ることが国の制度設計ですでに織り込まれているのです(現役世代への負担が際限なく増えないような制度設計になっているともいえます)。さらに、この試算自体が非常に楽観的な前提に立ったものであり、実態としてはさらに給付水準が減ることを指摘する専門家もいます。一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏は、試算の前提条件となっている2028年以降2.5%の賃金上昇率が非現実的として、一人当たりの負担は2040年には現在のものから42~43%増加すると警鐘をならしています。
これらの年金財政の課題があり、政府はNISA、iDeCoなどの税制優遇により個人の投資を後押ししています。今後、若いうちからの自助努力での資産形成が求められている事は確実でしょう。
なお厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業の概況」を見ると、ここ10年の老齢基礎年金と老齢厚生年金月額の推移は以下の通りです。なお支給金額は同じ保険料をおさめていたとしても「物価・賃金」「給付乗率」「マクロ経済スライド」によって変動します。
年度 | 老齢基礎年金平均受給額(月額) | 老齢厚生年金平均受給額(月額) ※基礎年金部分を含む |
2010年 | 54,596円 | 153,344円 |
2011年 | 54,682円 | 152,396円 |
2012年 | 54,856円 | 151,374円 |
2013年 | 54,622円 | 148,409円 |
2014年 | 54,497円 | 147,513円 |
2015年 | 55,244円 | 147,872円 |
2016年 | 55,464円 | 147,927円 |
2017年 | 55,615円 | 147,051円 |
2018年 | 55,809円 | 145,865円 |
2019年 | 56,049円 | 146,162円 |
「繰り下げ受給」によって月々の年金を増やすことが可能
公的年金の受給開始年は現在65歳となっています。年金はその受給開始を60歳から75歳までの間で変えることができ、受給開始年齢によって受給金額が変わります。
65歳の受給開始を早めて繰り上げる場合、減額率は0.4%×繰り上げた月数となります。
受給開始を65歳よりも遅くした繰り下げ受給の場合、増額率は0.7%×繰り下げた月数となります。
これにより月々もらえる年金額は65歳の時にもらえる年金額を100とすると、60歳受給開始の場合は70に、70歳受給開始の場合は142に、75歳受給開始の場合は184になります。
・働いていて毎月の生活費や支払がまかなえる
・一定の貯蓄がある
といった人は繰り下げ受給を検討してもいいでしょう。
年金は「長生きのリスクに対する保険」であり「損をした得をした」といった類のものではありません。
それでも、総支給額はどうするのが経済的にお得なのか気になる人もいるでしょう。
累積の総支給額は額面上
・76歳を境に、60歳受給開始の場合よりも、65歳受給開始の場合のほうが多くなる
・81歳を境に、65歳受給開始の場合よりも、70歳受給開始の場合のほうが多くなる
・86歳を境に、65歳受給開始の場合よりも、75歳受給開始の場合のほうが多くなる
という計算になります。
ただし厳密には収入が多くなると、社会保険料や税金などの支出も増えてくるので、実際に手元に残るお金は少なくなります。そのため、実際に累積支給額が上回るのはさらに数年後ろ倒しになると言われています。
また会社員や公務員は厚生年金にも加入しているので、繰り下げ受給を「国民年金」と「厚生年金」のいずれかのみを選ぶことができます。なお、繰り上げ受給は別々に繰り上げられないので注意をしましょう。
自営業の人が年金を増やすには「付加年金」や「国民年金基金」を活用
自営業の方(第一号被保険者)は老齢基礎年金だけでは老後に十分な備えができないケースもあります。老後の収入を補うために「付加年金」や「国民年金基金」という制度があります。
年金の保険料に上乗せして支払うのが「付加年金」です。月額400円を納付すると「200円×納付月数」が毎年の受け取り年金に加算されます。例えば15年間の付加年金をした場合は200円×15年×12か月=3万6000円が毎年加算して支払われることになります。
「国民年金基金」は老齢基礎年金(国民年金)に上乗せして任意で加入できる年金の制度です。65歳以降、一生涯年金が受け取れるほか、税制優遇も受けられます。掛金は全額社会保険料控除、受け取る年金も公的年金等控除の対象となります。加入は「全国国民年金基金」もしくは「職能型国民年金」に申し込みます。口数単位で申し込め、給付のタイプは複数の中から選べます。掛金月額は、選択した給付の型、加入口数、加入時の年齢、性別によって決まりますが、掛金月額6万8,000円以内となります。
老後のお金はどれくらい必要か
令和元年簡易生命表によると男性の平均寿命は81.41歳、女性の平均寿命は87.45歳です。90歳まで生きると見込まれているのは男性の約4人に1人、女性は2人に1人と言われています。
総務省「家計調査(2018年)」によると、高齢夫婦無職世帯の家計において、支出は平均約26.5万円となります。それに対して収入は22.3万円となり、月々約4万円が不足しています。高齢単身無職世帯では支出が約15.2万円となり、収入12.3万円に対して約2.9万円が不足しています。
加えて生命保険文化センターの調査によると「ゆとりある老後生活費」の平均金額は夫婦で36.1万円となります。22.3万円の収入に対しての差額は13.8万円となります。
平均値をベースとした単純な計算ですが必要な金額を試算すると以下になります。
◆平均的な不足金額4万円で計算した場合
65歳から80歳までに必要な金額が720万円、90歳まで続けば1200万円
◆ゆとりある生活に向けた不足金額13.8万円で計算した場合
65歳から80歳までに必要な金額が2484万円、90歳まで続けば4140万円
老後にかかるその他の費用についても見ていきます。
住宅ローンが残っている人もいるでしょう。60歳代の住宅ローン残高は平均約920万円となっています。他にも、子どもの結婚費用の援助、子どもの住宅購入資金援助、住宅のリフォーム、車の買い替え、葬儀費用などを用意するケースもあるでしょう。
老後もたくさんのお金がかかりますが、どのように備えていくのがいいでしょうか。
まずは「老後に必要な総額」と「その金額を貯めるための期間と月々の貯蓄額」について具体的に考えてみましょう。1200万円を40歳から60歳の20年間で貯めるとすると、1年あたり60万円、月々の貯蓄額は5000円が目安となります。また同金額の1年60万円を運用し続けた場合、年利2%で20年間運用した場合は約1450万円になります。貯蓄とともに資産運用をするのも長期では有効といえるでしょう。
以下では公的年金以外で老後の長生きに伴う生活費のリスクに備える方法を説明します。
公的年金以外で老後に備える方法
それでは公的年金以外で老後の長生きリスクに備えるにはどのような方法があるのでしょうか。
具体的には
- 個人型確定拠出年金(iDeCo)
- 投資(NISAの活用)
- 財形年金貯蓄
- 個人年金保険
などがあります。
それぞれについて見ていきましょう。
個人型確定拠出年金(iDeCo)による資産形成
個人型確定拠出年金(iDeCo)は、60歳以降に受け取れる金額を掛け金として積み立て、税制優遇を受けられる制度です。掛け金に上限はあるものの、積立金が所得控除の対象となり、運用益も非課税、受け取り時の税負担も軽減されるなど、かなり資産形成において有利な座組みなので、必ず使ったほうがいいでしょう。
個人型確定拠出年金(iDeCo)の掛け金を捻出した上で、まだ余裕資金がある人はNISAやつみたてNISAの制度を活用した資産運用や貯蓄、個人年金保険を検討するという選択肢もあります。
投資による資産形成・資産運用・資産保全
老後に向けた20~50代で「資産形成」や「資産運用」を行う場合はiDeCoに加えて、つみたてNISAやNISAを活用するのがいいでしょう。資産形成・資産運用に関してもっと知りたい方はこちらの記事をごらんください。
一般的には、60代の特に定年後は「資産保全期」といい、投資のポートフォリオをリスクが低い商品を中心にし、一部を取り崩して生活していくことが推奨されます。投資は価額が変動するリスクを伴い、株式で運用すれば価額が暴落して手持ちの資産が半分になるといったこともおこりえるためです。
一方で専門家によっては以下のような別の意見もあります。
「平均寿命が伸びている今、定年後にさらに20年以上生きることもあるのだから65歳ですぐに安全資産を多くする必要はない」
「お金に余裕がある人は相続を見据えて、次の世代に資産をできるだけ多く引き継ぐという観点で資産形成期と同様のポートフォリオでも問題ない」
また、年齢に関わらず、投資によるリスクや手間・コストを避けたい人には、「財形年金貯蓄」や「民間の個人年金保険」という方法もあります。以下簡単にみておきましょう。
財形年金貯蓄や民間の個人年金保険
財形年金貯蓄は、給与から天引きする貯金で、原則60歳以降の5年以上20年以内に受け取るものになります。強制的に貯蓄できるという点では有効です。ただし金利は高くなく、インフレリスクもあります。
民間の個人年金保険
個人年金保険は保険料払込期間終了後、年金または一時金として支払われるもので大きくは以下の4つの種類があります。強制貯蓄効果があり、所得控除の対象でもあります。
- 確定年金:生死に関係なく10年・15年などの一定期間受け取れる
- 有期年金:生存している限りにおいて、一定期間受け取れる
- 終身年金:生存している限り一生涯受け取れる
- 保証期間付有期年金・終身年金:保障期間中(年金受給開始後の5年程度)は生死に関係なく受け取れ、そのあとは生存している場合のみ受け取れる
ただし、掛け金は安くはありません。ある保険会社で35歳男性が保証期間付有期年金・終身年金で年間60万円の受給を受けようとした場合の月々の保険料は約3.6万円でした。この保険料を65歳まで支払総額は1296万円になります。一方、受給額は65歳から80歳まで生きた場合の1080万円、90歳まで生きた場合は1800万円となります。
一方で約3.6万円を年利3%で複利効果を活用して同じく30年運用した場合は2098万円になります。
経済的に考えると安定的な投資信託などを自ら運用したほうがお得でしょう。また受給金額が契約時に固定されてしまう事から、インフレが起こった際には実質的な価値としては契約当初よりも目減りすることになります。
そもそも保険というのは「起きる可能性が少ない万一のことに対して、大勢の人が共同で備える」という側面があります。しかし「定年後の長生きに伴う生活費のリスク」というのは大多数の人に起こりえる事なので、民間の保険として一定の経済合理性をもって成立しづらい領域といえるかもしれません。
まとめ
長生きに伴う生活のリスクにそなえるのが老齢年金です。平均寿命が男性では81歳、女性では87歳となる中で退職後も20年近い人生があります。会社員であれば1~2階の公的年金部分と3階の私的年金、自営業であれば基礎年金に加えて付加年金や国民年金基金を検討するのも重要です。また今後、公的年金の給付額は減っていく可能性は高そうです。ご自身の職業・収入・必要な生活費・環境を考えて、早いうちから具体的に必要な金額を試算するようにしましょう。
難しいお金の話を、ファイナンシャルプランナー技能士や保険・金融商品の専門家が忖度なし「ホンネ」でわかりやすく伝えます。