人生100年時代、少子高齢化が進む社会環境では老後の資産の確保、また死亡・疾病・事故などのもしもの時の備えを、資産形成・資産運用をして備えるという考え方は重要です。資産形成・資産運用の手段として「投資」は重要な役割を果たします。一方で、大事だという事はわかりますが、投資には「難しさ」や「リスク」「時間や手間がかかる」といったイメージもあり、中々一歩を踏み出しづらいところがあるのではないでしょうか。
この記事では投資初心者向けに、「資産形成」における「投資」の役割や概要、おさえるべきポイントを紹介します。
投資による資産形成が求められる理由
資産形成、資産運用、資産保全とは
似ている言葉ですが資産形成、資産運用、資産保全はそれぞれ違う意味です。まずはこの違いから紹介します。
- 資産形成とは「いちから資産を築いていくこと」
- 資産運用とは「すでにある資産を育てていくこと」
- 資産保全とは「積み上げた資産を守ること。守りながら取り崩すこと」
と定義できます。
一般的には、20・30代資産形成、40・50代以降は資産運用、定年以降は資産保全の段階といえるでしょう。
またすべての段階で「投資」は重要な役割を果たします。人生のリスクに備え、物心ともに豊かに暮らしていくためには備えが必要です。昨今の超低金利時代では預金をしいてもお金はほとんど増えません。それどころか長引くコロナ禍でインフレ(物価が上昇)した場合は、実質的に預金が目減りするという可能性もあります。
投資のリスクをコントロールしながら資産形成をすることは、人生におけるリスクや老後に備えることにもつながります。
資産形成・資産運用における投資の役割。複利効果の最大活用
いちから資産をつくっていく、資産形成段階では「貯蓄と投資」の両方が重要になります。また貯蓄をするためには労働収入を増やしまた無理のない節約をすることも重要になります。
では貯金だけでなく投資をする事が重要なのはなぜでしょうか
その理由のひとつが、投資のもつ「複利効果」にあります。複利効果とは、運用で得た収益を当初の元本にプラスして再び投資することで、利益がさらなる利益を生んでいきます。複利の効果として年間3%で運用できた際には100万円の原本が、10年後には約133万円、約23年後には倍の200万円に達します。
複利運用で資産が2倍になるための必要な年数と金利の関係は以下になります。
- 金利2%:35年
- 金利3%:23年
- 金利5%:14年
- 金利7%:10年
- 金利10%:7年
投資においては、特に初心者や投資を専門としない20・30代の方は「リスクをおさえながら長期的に投資運用し、複利効果を活用して資産形成をすること」が重要です。
投資が重要となる理由を俯瞰的に考える
投資が求められる理由を少し社会の視点で俯瞰的に考えてみます。トマ・ピケティというフランスの経済学者が各国の経済データを検証して「資本主義においては、資産運用による投資収益率が経済成長率を超える状態が続く。つまり経済成長の果実は労働者よりも株主に還元される構造。株式などの資産運用ができる層がより一層豊かになり、貧富の差は拡大する」という主旨の発表をし、世界的な話題になりました。日本も含めて資本主義社会に組み入れられている国々では、株主による株主還元の圧力のもと労働者への分配率は決して高くありません。また欧米と比べても資産を現金・預金で保有する人が多い日本はこの投資収益の恩恵を受けている割合が少ないという指摘もあります。
また日本は進展する少子高齢化から、国による老後保障・年金だけでは限界があるため、個々人の積み立てによる老後保障を推奨しています。iDecoやNISAなどの税制優遇策をもって貯蓄から投資へと促しているのもそのためです。
投資するかどうかはもちろん個人の自由です。やみくもに投資をはじめればいいわけではありませんが、資本主義社会や日本社会の構造を理解した上で、正しく資産形成をしていく事は個々人にとっても日本社会にとっても重要でしょう。
主な投資商品の想定リスクとリターンとその特徴比較
それでは世の中にある投資商品とその特徴を見てみましょう。
主な投資商品には
- 株式
- 債券
- 不動産
- 金(現物資産)
- 投資信託
- 外貨預金
- FX
- 暗号資産
などがあります。
それぞれに想定されるリスクとリターンがあります。以下は一般的なリスクとリターンのプロット図になります。
リターンが高いものはリスクも高いです。また海外の資産を扱うほどリスク・リターンともに高くなる傾向があります。同じ種類の商品でも内容や商品設計によってリスク・リターンは異なりますのであくまで一般的な傾向として理解ください。また投資信託は株式や債券、不動産、現物資産などによって構成されている商品で、商品によってそのリスク・リターンが大きく異なります。
リスクやリターンは言い換えると「安全性」「収益性」となりますが、それ以外にも重要な指標があります。そのひとつが「換金性」です。
例えば不動産などは初期に多くの投資が必要であり、購入すると一定の金額が動かせなく(ロックされてしまい)換金性が低いといった特徴があります。「ローンで不動産投資をしていたために結婚後にマイホームを購入する際にローン審査がおりない」といったケースや、「不動産投資用のローンの頭金によって病気やライフイベントなどでの支払ができなくなってしまうこと」は実際に起こりえるケースです。生命保険商品の一括払いなどもそうですが「換金性」も重要なポイントです。
また上記以外にも「事業者への委託性・依存度」「少額からの投資可否(大きな原資の必要性)」「収益獲得までの期間の短さ」「インフレ(物価上昇)への対応力」なども商品の比較項目となります。こちらも商品によって大きく異なりますが、ひとつの目安としてご参照ください。
また投資のリターンとリスクとは何なのでしょうか。このリスクとリターンについてもう少し分解して考えてみましょう。
投資の2種類のリターン(利益)
投資商品からのリターンには「インカムゲイン」と「キャピタルゲイン」の2つがあります。インカムゲインは株式を保有している企業の利益から株主配当金が支払われるような、資産保有に伴い発生する利益です。キャピタルゲインとは、変動する資産価格の中で、資産を売却した時に、購入時との価格の差で得られる利益です。
株式での投資運用はこのインカムゲインとキャピタルゲインの両方から利益が得られます。
一方でFXや暗号資産はインカムゲインがなく、売買時の差額のキャピタルゲインのみとなります。そのため投資というよりはギャンブル・投機的な商品と言われます。
検討する投資商品における利益の源泉がインカムゲインなのかキャピタルゲインなのかについては理解するようにしましょう。
投資に伴うリスク
投資の主なリスクとしては価格変動リスク、金利変動リスク、信用リスク、為替変動リスク、カントリーリスク、インフレリスクなどがあります。商品を購入する際にはそのリスクを把握する事が重要です。それぞれについて以下解説します。
- 価格変動リスクとは、投資商品の値動きによるリスクです。株式であれば業績や関連する環境の変化も影響しますし、期待値や機関投資家の動きなどでも変動します。該当する投資商品としては株式、債券、REIT、金など幅広いです。
- 金利変動リスクとは、物価とも連携しています。金利はインフレの時にはあがり、デフレになると下がりますが、金利の変動がその商品の価格に影響を及ぼす事もあります。代表的なものとして債券は、金利上昇すると価格が下がり、逆に金利が下落すると価格があがります。
- 信用リスクは、株式や債券の発行主体が倒産して資金が戻ってこないリスクです。国家の国債であっても途上国の国債であればこの信用リスクが大きくいです。
- 為替変動リスクは、海外への投資の場合に円と外貨の為替レートの変動により為替差損が生じます。外貨等の購入時から円安が進めば利益が増え、円高の場合は損失が拡大することになります。外国株式・外国債券・FXなどはこの影響を大きく受けます。
- カントリーリスクは、海外を投資先にしている場合にその国や地域の抱える政治や経済、社会情勢、天災などの影響で損失を受ける可能性がある事です。
- インフレリスクは、額面上の価格は変っていなくても、インフレによって相対的に価値が目減りして損失が発生することです。
投資で失敗しないための考え方
投資初心者が投資で失敗しないために重要とされる3つの考え方を紹介します。
投資は余裕資金で行うこと
1つ目は投資は余裕資金で行うことです。日常生活に必要な生活費、今後のライフイベントなどで必要な資金、万一に備える生活防衛資金などを差し引いた余裕資金で行うようにしましょう。
万一に備える生活防衛資金は、40歳未満の会社員であれば生活費の6ヶ月分、40歳以上の会社員や自営業・経営者であれば生活費の1年分は最低限確保することを目安にしてみてください。
分散投資によって大きな損失を回避
「卵を1つのカゴに盛るな」という投資の格言があります。卵を複数のカゴに入れておくことで1つのカゴを落としても全部の卵が割れる事はないという格言となります。特定の銘柄の商品だけに投資をするのではなく、複数の商品に分散する事で大きな損失を回避します。
同じ株式でも1社にせず複数の投資先にわけたほうが、また株式だけでなく債券や他商品も購入するなどで分散投資する事は特に初心者の方にとっては安心です。
分散の方法には「商品の分散」「地域の分散」「時間の分散」などがあります。
商品の分散としては、投資信託、その中でもインデックスファンドなどはこの分散効果につながります。地域の分散としては、日本と海外の資産を組み入れて運用する方法が、時間の分散としては「一度に大きな金額で買わず何度かに分けて購入する」といった方法があります。
長期運用によるリスク分散と複利効果
相場は短期的には乱高下を避けられません。その波の影響をさけるためには長期的な視点で運用していくことが重要となります。
まず長期運用には時間を分散して、投資の損失を回避するという側面もあります。長期運用の時間分散効果によってトータルで安定した運用成績をおさめることに近づくと言われています。
次に複利効果を最大化していくことは資産を育てていく上で需要になります。また複利の考え方から学ぶもう一つ重要な点は「元本を大きく減らさないこと」です。
仮に、ハイリスクの商品に投資をしてある年に資産の半分を失ったとすると、その資産に戻すのには翌年であれば+100%の結果を出さなければいけないですし、仮にコンスタントに+7%の年間運用成績を出し続けたとしても取り戻すのに10年かかります。世界的な低金利の中では利回りを1%あげることも簡単なことではありません。一般の個人の投資家にとっては長期視点での複利効果を意識して、リスクをとりすぎないことは重要でしょう。
長期運用の中には具体的にはドルコスト平均法といって、毎月決まった金額分を購入する方法があります。こちらは平均買い付け価格を抑えるとともに時間分散によるリスクヘッジができるという観点で初心者にはおすすめの方法と言われています。
もちろん万能な投資方法はないのでドルコスト平均法のデメリット・注意点も詳しく知りたい人は以下の記事をご確認ください。
自分にあった投資の進め方
自分にあった投資をするには何が必要なのでしょうか。まずは自分のリスク許容度と、自分が時間や労力をどこまでかけたいかといった点を考えてみましょう。
リスク許容度を把握する
投資をするにあたっては想定するリスクとリターンの中で、自分のリスクの許容度を知ることが重要です。
先述の「資産形成、資産運用、資産保全のどの段階にあるのか」という点とも関連しますが、より具体的には
- 年齢:20・30代か、40代か、老後も見据える50代以上か
- 世帯:独身か家族持ちか(自分が生計を支えているか)
- 資産:多いか少ないか(特に生活費の1年以上の余裕資金があるかどうか)
- 収入:多いか少ないか
- 性格や目的:積極的にリスクをとって利益を得たいか堅実に損失回避をして蓄財をしたいか
などがあります。
各項目で前者のほうがリスク許容度が高く、後者の場合はリスク許容度は低く安全性重視の運用がおすすめされます。ご自身の状況を今一度みてみましょう。リスク許容度を把握したら、自分にあった投資商品や資産配分を検討してみます。一般的には株式と債券は逆の値動きをするといわれているので、株式の購入時はリスク許容度にあわせて債券も購入するなどといった形で資産配分を検討することになります。
投資に労力・時間をかけてまで取り組みたいか
人生の時間は有限です。本業が忙しい方、家族や友人・趣味などの時間を最優先にしたい方もいるでしょう。
複雑な金融商品の世界、投資の勉強をした上で、日々値動きを確認したり関連する情報の収集といった労力や時間をかけてまで投資をしたいのかというのは、投資のスタンスを決めたり投資商品を選ぶ上でのポイントになります。
労力や時間をかけられる方は個別の株式などを企業研究もし購入していくのもいいでしょう。ビジネスマンであればビジネスの知見を広げることにもつながります。労力や時間をかけるのが難しかったり、気が進まない人は、投資信託のようなすでに複数の銘柄が組み入られていて分散効果が働き安全性が高い商品を購入するのもいいかもしれません。
初心者に向いている資産形成・投資の方法
投資の専門的な知見がなく、時間もあまりかけられない投資初心者が資産形成をするためには何が必要なのでしょうか。
オカネノホンネ編集部としては、特に投資初心者の方には、長期投資による複利効果の活用などを最大限生かすために「投資信託の定期的な購入」「NISAの活用」「確定拠出年金制度の活用」の3つは検討することをおすすめします。
投資信託の購入
投資信託は、投資家から集めたお金で、投資のプロが国内外の株式・債券・不動産や金などの現物の商品やその組み合わせによってプロが運用してその利益を分配する仕組みです。
特徴としては
- 運用に手間がかからない
- 少額でも投資可能
- 複数の商品や銘柄によって構成されるため分散投資効果が得られる
といった点があります。
投資信託にはインデックス型とアクティブ型の2つのタイプがあります。
インデックス型は、日経平均やTOPIX、ダウ平均株価などの株式市場の特定の平均値等をあらわす指数(インデックス)と連動して購入するタイプであり、手数料が安いのが特徴です。
アクティブ型は、プロの投資家が市場の平均を超えた運用成果を目指した商品となります。プロによる積極的な運用のためのリサーチなどの人件費も入りますので、手数料はインデックス型よりも高くなります。
初心者の方はインデックス型からはじめるのがいいでしょう。アメリカの時価総額の大きな500社の株価をもとに算定されるS&P500に連動したインデックス型ファンドはここ数年、特に人気が高いです。各国経済に連動したインデックス投資において2010年以降アメリカ株式への投資が結果一番パフォーマンスが高かったことは事実ですが、今後はアメリカ経済よりも世界経済の成長のほうが確実であるとする専門家も多く、世界株式に投資するという商品もあります。
投資信託についてもっと知りたい人は以下の記事を参照ください。
また投資信託の購入にあたって、日々上下する相場の見極めはプロでも難しいので、ドルコスト平均法といって定期的に同じ商品を同じ金額購入するという方法も支持される事が多いです。価格が安いときに多くの口数を購入することができ(長期的にみると割安)、また高値の時に商品を買うことの損失を最少化できるとされています。
非課税枠の活用 NISA制度の活用
投資の利益には原則税金がかかります。
国として、投資による資産形成を推進するために税制優遇の制度を設けています。その1つが2014年にスタートした小額投資非課税制度(NISA)となります。
一般NISAでは投資額が2023年まで年間120万円、2024年以降は年間122万円に対して、最大5年間の非課税となります。120万円×5年の約600万円の投資に対する非課税枠となります。通常、投資による利益には約20%の税金がかかりますのでこの非課税枠の効果は小さくはありません。
また「つみたてNISA」では年間40万円までの投資額に対する非課税期間が設定されています。
NISA口座は1人1口座までしか持つことができません。口座を開設する金融機関を選んで口座開設を申込むようにしましょう。
老後資金の確保のための確定拠出年金制度の活用
確定拠出年金には、掛け金を事業主が拠出する企業型年金(企業型DC)と加入者自身が拠出する個人型年金iDeCo(個人型DC)があります。掛け金は会社と社員が出し合うマッチング拠出といった制度もあります。
毎月掛け金を積み立てて投資商品を運用する事で、自ら老後資金をつくるための年金制度の仕組みです。会社員であれば国民年金と厚生年金がありますが(自営業の場合は国民年金のみ)、これに加えて自ら老後に向けた資産を準備する受け皿です。
運用益は非課税かつ毎月の掛金全額所得控除といった税制優遇があり、これは資産形成における大きなメリットとなります。
なお老後資金準備のための制度なので受け取りは原則60歳以降となります。
受け取り方は「年金方式」「一時金としての一括受給」「年金と一時金の併用受給」などがあります。
先述のように資産形成段階においては、投資だけでなく収入を浪費せずに貯めることが重要になります。元手が少ない中では複利効果も限定的です。いちからの資産形成にあたっては、投資信託の定期的な購入やNISAや確定拠出年金で一定金額を捻出する仕組みの活用で資産を貯めつつ増やすという方法は効果的でしょう。
その他の投資関連サービスについて
ロボアドバイザーを活用した投資
人工知能を活用した投資のサービスとしてロボアドバイザーがあります。ロボアドバイザーは「投資一任型」と「アドバイス型」の2種類があります。
特に「投資一任型」は個人のリスク許容度にあわせて自動で投資をしたり資産のリバランスをしてくれるサービスが多く、投資にあたって時間や勉強・情報収集の手間をかけたくない人にとっては一考の価値があります。詳細は以下の記事を確認ください。
専門家に相談したい人はIFAに相談も
専門家に相談して資産運用をしたい方は、IFAという独立系のファイナンシャルアドバイザーを活用するのもひとつの方法です。証券会社や銀行では販売手数料が高い商品や販売ノルマ達成に資する商品が重点的に販売され、問題になるケースも過去散見されました(もちろん一概にすべての証券会社や銀行がそうであるというわけではありません)。
IFAも色々な事業者がいますが、より中立的で顧客本位な立場でのアドバイスを求めることができると言われています。
IFAについてもっと知りたい方は以下の記事を参照ください。
小口からできる不動産投資 J-REIT(Jリート)
REITとは、オフィスビルや商業施設、マンションなど、さまざまな不動産を投資対象とし、賃貸収入や売買益を投資家に分配する金融商品のことです。不動産を証券化することによって少額から投資ができることになります。株式や投資信託などと同様に値動きは大きいものもありますが、定期的に分配金が出たりインフレに強いなどの特徴があります。大きな元本をかけたり不動産ローンを組んだりすることなく不動産投資を進めたい人にとっては検討に値する選択肢でしょう。
詳細は以下の記事を確認ください。
まとめ
資産形成、資産運用、資産保全、自分のおかれた段階により、その目指すべき投資・運用の在り方は変わってきます。特に投資初心者の方は自分にあったリスク許容度と投資商品の特徴を把握した上で、余裕資金で分散投資・長期運用を意識するのがおすすめです。具体的には、インデックス型の投資信託の定期的な購入、NISA口座の開設、確定拠出年金の活用などを検討してみるのもいいでしょう。
難しいお金の話を、ファイナンシャルプランナー技能士や保険・金融商品の専門家が忖度なし「ホンネ」でわかりやすく伝えます。