貯蓄型保険は、万が一に備えつつ貯蓄もできる保険として知られています。病気やケガ、死亡などの状態にならなくても、何らかの形でお金を受け取れる点が魅力です。
生命保険文化センターの「2022(令和4)年度 生活保障に関する調査」においても、掛け捨て型の生命保険に加入したいと回答した人は27.8%であるのに対して、貯蓄型の生命保険に加入したいと回答した人は62.8%にのぼりました。
本記事では、貯蓄型の生命保険のメリット・デメリットを掛け捨て型の生命保険と比較しながら詳しく解説します。
目次
貯蓄型生命保険とは?
貯蓄型の生命保険は、被保険者の万が一に備えつつ貯蓄もできる保険です。
貯蓄性のない生命保険は「掛け捨て型」と呼ばれ、被保険者が死亡した場合に死亡保険金が支払われる点は貯蓄型保険と共通しています。しかし、貯蓄型保険では保険料の一部が積み立てられ、満期を迎えると「満期保険金」が、解約すると「解約返戻金」が受け取れる点に違いがあります。
生命保険における貯蓄型と掛け捨て型の違い
貯蓄型の生命保険と掛け捨て型生命保険には、以下のような違いがあります。
貯蓄型の生命保険 | 掛け捨て型の生命保険 | |
保険料 | 掛け捨て型よりも割高である傾向がある | 貯蓄型よりも割安になる傾向がある |
満期保険金 | 一部あり | なし |
解約返戻金 | あり | なし(解約返戻金アリの場合でも少ないケースが多い) |
主な保険の種類 | 終身保険 養老保険 学資保険 個人年金保険 |
定期保険 就業不能保険 医療保険 がん保険 |
主な加入目的 | 万が一の場合やライフイベントに備える | 万が一の経済的なリスクに備える |
貯蓄型生命保険と掛け捨て生命保険は、加入目的に合わせて使い分けることが大切です。
貯蓄型生命保険はライフイベントへの備えが目的の保険
貯蓄型生命保険は、子ども進学費用や老後の生活費用など、さまざまなライフイベントに備えることを目的として加入する人が多くなっています。
たとえば、学資保険や個人年金保険は、必要な資金が必要な時期に合わせて保険期間を設定できるのが特徴です。そのため、保険に加入し続け、一定の保険料を支払い続けると、保険期間の終了時には必要な資金が貯まっていることになります。
また、万が一の事態に備えつつ、状況が変わって資金が必要になった場合に備えて加入する場合もあります。たとえば終身保険に加入した場合、葬儀費用や死後の整理費用に備えるとともに、解約返戻金を介護費用や老後資金に充てることが可能です。
掛け捨て型生命保険は経済的なリスクを補うことが目的の保険
掛け捨て型生命保険は、貯蓄で賄うのが難しい経済的なリスクに備えることが主な目的です。
たとえば、幼い子どもがいる世帯で一家の大黒柱がなくなった場合、遺族年金や配偶者の収入だけでは生活が成り立たず、経済的に困窮する可能性があります。このような事態に備えて死亡保険に加入する場合、大きな保障が必要になるケースも少なくありませんが、貯蓄性のある終身保険で備えようとすると、保険料の負担も大きくなりがちです。
一方、定期保険のような掛け捨て型の死亡保険であれば、保険料の負担を抑えつつ、必要な保障を確保しやすくなります。
貯蓄型生命保険の種類
以下は、貯蓄型に分類される生命保険の特徴をまとめた表です。
終身保険 | 養老保険 | 学資保険 | 個人年金保険 | |
加入目的 | 葬儀費用や死後の整理費用に備える | 貯蓄と保障の両立 | 子どもの進学費用の貯蓄 | 老後の生活費用の貯蓄 |
死亡保険金 | あり | あり | あり | あり |
満期保険金 | なし | あり | あり | なし |
解約返戻金 | あり | あり | あり | あり |
特徴 | 一生涯にわたって死亡保障を得られる | 死亡保険金と同額の満期保険金を受け取れる | 親に万が一のことがあると保険料の払い込みが免除される | 一定年齢から年金が受け取れる |
それぞれの特徴を理解した上で、加入する保険を選びましょう。
貯蓄型生命保険の4つのメリット
貯蓄型生命保険には、以下のようなメリットがあります。
- 貯蓄が苦手な人でも計画的にお金を貯められる
- 支払った保険料を上回る解約返戻金を受け取れる場合がある
- 生命保険料控除を受けられる
- 契約者貸付が利用できる場合がある
1.貯蓄が苦手な人でも計画的にお金を貯められる
貯蓄型生命保険は、貯蓄が苦手な人でもまとまったお金を貯めやすいというメリットがあります。生命保険では、月1回や年1回など決まったタイミングで保険料を払い込むことになります。口座振替やクレジットカード払いにしておけば、自動的に保険料が引き落とされるため、保険を解約しなければ、お金は徐々に貯まっていくでしょう。
一方、銀行預金などで貯金をする場合は、基本的に自ら毎月預け入れをしなければなりません。目先の生活を優先して貯金額を減らしてしまったり、貯金をするのを忘れてしまったりする可能性もあります。結果として、計画通りにお金が貯まらないこともあるでしょう。
また保険の場合は、途中で自由に引き出して、貯金を使うことはできません。途中解約すると元本割れするリスクがあるため、貯蓄に強制力が働きやすい点もメリットといえます。
2.支払った保険料を上回る満期保険金や解約返戻金を受け取れる場合がある
貯蓄型生命保険の保険料は、保険会社所定の予定利率で運用されます。支払った保険料を上回る満期保険金や解約返戻金を受け取れる場合もあり、銀行に預金するよりも効率よくお金を貯められることもあるでしょう。
ただし、加入する商品や解約するタイミングなどによっては、満期保険金や解約返戻金が払込保険料を下回るケースも少なくないため、注意が必要です。
3.生命保険料控除を受けられる
多くの場合、貯蓄型生命保険は生命保険料控除の対象となります。生命保険料控除とは、1年間に支払った保険料に応じて、所得から一定額を控除できる制度です。
控除区分は、一般生命保険料控除・介護医療保険料控除・個人年金保険料控除の3つに分けることができ、保険の種類によっていずれかもしくは複数の控除が適用されます。所得税についてはそれぞれ最大4万円、合計で最大12万円の控除を受けることが可能です。住民税についてはそれぞれ最大2.8万円、合計で最大7万円の控除を受けられます。
課税対象となる所得が減ることによって、所得税や住民税の負担軽減につながるでしょう。
4.契約者貸付が利用できる場合がある
契約者貸付とは、解約返戻金の一定範囲内で保険会社からお金を借りられる制度です。審査不要で利用でき、返済の期限もありません。契約者貸付を受けている間も保障は継続するため、「急にお金が必要になったが、保険は解約したくない」という場合には重宝するでしょう。
ただし、借りたお金には利息がかかる うえ、元金と利息の合計が解約返戻金を超え、なおかつ所定の期日までに返済をしなかった場合には、契約が失効する場合もあるので注意が必要です。
また、貯蓄型生命保険でも保険会社や商品によっては、契約者貸付を利用できない場合もあります。
貯蓄型生命保険の3つのデメリット
ここでは、貯蓄型生命保険における以下3つのデメリットを解説します。
- 利率固定の商品はインフレに弱い
- 途中解約した場合、今まで払い込んだ保険料を下回る可能性がある
- 掛け捨て型生命保険よりも保険料が割高の傾向がある
1.利率固定の商品はインフレに弱い
予定利率が固定されている商品の場合、契約した時点で将来受け取る満期保険金や解約返戻金が決定します。加入した時よりもインフレが進み、物価が上昇したとしても、受け取る金額は変わらないので、実質的に受け取る金額が目減りしてしまう点には注意が必要です。
積立利率変動型終身保険などの商品であれば、市場の金利動向に応じて予定利率も変動するため、インフレによる満期保険金や解約返戻金の目減りを避けられる可能性があります。
2.途中解約した場合、今まで払い込んだ保険料を下回る可能性がある
一般的に、貯蓄型生命保険の解約返戻金は、保険期間の経過とともに増加します。保険料の払い込みを終えるまでは、払い込んだ保険料を下回る解約返戻金しか受け取れない場合がほとんどです。特に契約してから早期に解約すると、ごくわずかな解約返戻金しか受け取れない場合もあるので注意しましょう。
3.掛け捨て型生命保険よりも保険料が割高の傾向がある
生命保険の保険料は、将来保険金を支払うための原資となる「純保険料」と、保険会社の経費に充てられる「付加保険料」で成り立っています。さらに、純保険料は加入者が死亡したときに支払われる「死亡保険料」と、満期を迎えた時や解約した時など、生存しているときに支払われる「生存保険料」によって構成されます。
掛け捨て型生命保険の保険料に含まれるのは、基本的に死亡保険料と付加保険料のみです。一方、貯蓄型生命保険の保険料には、死亡保険料と付加保険料に加えて、生存保険料が含まれています。つまり、生存保険料が上乗せされている分、掛け捨て型よりも貯蓄型の方が保険料は割高になる傾向があるのです。
貯蓄型生命保険の選び方
貯蓄型生命保険を選ぶ際は、以下のポイントを抑えておきましょう。
- 加入目的を明確にしておく
- 無理のない範囲の保険料の支払額を検討する
- 返戻率を確認する
加入目的を明確にしておく
貯蓄型生命保険を検討する際は、加入目的を明確にしておきましょう。加入目的によって適切な保障内容や保険期間は変わるからです。
たとえば、老後の生活費を準備したい場合、個人年金保険が有力な選択肢となりますが、保険料払込期間中に万が一のことがあった場合、死亡保険金として受け取れるのは、それまでに払い込んだ保険料に相当する金額です。加入直後に万が一のことがあった場合、ほとんど死亡保険金を受け取れない可能性もあります。
老後に向けた貯蓄をしつつ、一定の死亡保障も備えておきたい場合は、終身保険を選択した方がよいでしょう。どんなリスクに備えたいのか、何のためにいくら貯蓄をしたいのかなどをあらかじめ決めておくことで、最適な保険を選びやすくなるでしょう。
無理のない範囲の保険料の支払額を検討する
貯蓄型生命保険は、掛け捨て型よりも保険料が割高になる傾向にあります。途中解約すると元本割れのリスクがあるため、家計の状況やライフプランを考慮し、無理なく支払える保険料の範囲で加入することが重要です。
返戻率を確認する
返戻率とは、支払った保険料に対する、受け取れる満期保険金や解約返戻金の割合のことを指します。たとえば、100万円の保険料を支払って、110万円の満期保険金を受け取る場合、返戻率は110%です。効率よくお金を貯めたい場合は、返戻率も確認しながら加入する保険を検討しましょう。
まとめ
貯蓄型生命保険は、万が一の事態に備えると同時に、解約返戻金や満期保険金を受け取れる保険です。万が一の経済的なリスクに備えるだけではなく、ライフイベントに向けた資金を準備する目的で活用されることが多くなっています。
掛け捨て型生命保険とは異なり、保険料は割高になりやすいものの、計画的に貯蓄できる点や、効率よく貯蓄できる可能性がある点などは貯蓄型生命保険の魅力です。
東証一部上場企業で10年間サラリーマンを務める中、業務中の交通事故をきっかけに企業の福利厚生に興味を持ち、社会保障の勉強を始める。以降ファイナンシャルプランナーとして活動し、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間毎年約100件のセミナー講師なども務める。趣味はフィットネス。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信しています。 <保有資格>CFP