万が一の交通事故に遭った際に、頼りになるのが生命保険や自動車保険です。しかし、保険内容には似通った部分があるため、保障(補償)の重複が気になる人もいるでしょう。もし保険金がどちらか一方からしか支払われないのであれば、加入していても無駄だと感じる人もいるかもしれません。
本記事では、交通事故が起こった際に生命保険と自動車保険のどちらから保険金を請求できるのについて解説するとともに、重複を避けるための加入方法を解説します。
目次
交通事故時は生命保険・自動車保険どっちから保険金が下りる?
交通事故によって死亡した場合や治療が必要になった場合は、自分が被害者・加害者のどちらになったとしても、生命保険と自動車保険の両方から保険金を受け取れる可能性があります。
自身が被害者である交通事故のケース
交通事故によって自身が被害者となり、ケガをした場合や死亡したケースを想定してみましょう。停車中に追突された、対向車がセンターラインを越えてきて正面衝突した、など自分に全く非がない、過失割合が10対0のケースでは、加害者の自賠責保険と自動車保険の対人賠償保険によって補償を受けられます。加えて、生命保険からは入院給付金や手術給付金、死亡保険金などを受け取れる可能性があるでしょう。
自分にも過失がある場合(過失割合7:3のようなケース)は、過失分が差し引かれるため、補償額は少なくなります。ただし、自動車保険の人身傷害保険や生命保険の保険金・給付金は過失割合に関係なく、治療にかかった実費や契約時に決めた金額が支払われます。
つまり、過失の有無を問わず、生命保険と自動車保険の両方に加入しておけば、それぞれから保険金・給付金を受け取れる可能性があるということです。
自身が加害者である交通事故のケース
自身が加害者(過失割合が10対0)となった交通事故によって、自身もケガを負ったり死亡したりした場合は、自動車保険の人身傷害保険や生命保険の死亡保険金、入院給付金などの保障(補償)を受けられる可能性が高いでしょう。
これらは過失の有無を問わず受けられる保障(補償)であるため、相手方への賠償が必要になったからといって減額されるものではありません。
生命保険と自動車保険(損害保険)の違い
生命保険と自動車保険は、保障(補償)範囲や保険金の支払われ方に違いがあります。
生命保険とは
生命保険は、人の生死に関して保険金が支払われる保険で、基本的に生命保険会社が取り扱う商品です。
生命保険は、実際の損害額に関係なく、契約時に決めた金額が支払われる「定額払い」が大きな特徴となっています。たとえば10日間入院して、5万円の治療費の支払いが発生したとしましょう。もし入院1日あたり10,000円の給付金が支払われる生命保険に加入していれば、実際にかかった治療費を超える10万円が支払われる仕組みになっているのです。
また、生命保険では交通事故によるケガだけではなく、病気で死亡・入院した際も保障される点は大きな特徴といえるでしょう。
自動車保険(損害保険)とは
損害保険は、偶然の事故によって生じた損害に対して保険金が支払われる保険で、損害保険会社で取り扱っています。自動車保険は、火災保険や傷害保険と同様に、損害保険の一種です。
「相互扶助」によって成り立っている点は生命保険と共通していますが、保険金の支払い方法には大きな違いがあり、損害保険の場合は「実損払い」が基本です。実損払いとは、実際の損害額に応じて保険金が支払われることを指します。たとえば交通事故の治療費に100万円がかかった場合は、100万円が支払われるということです。
自動車保険は、傷害や死亡など自分自身に対する補償(人身傷害保険)だけではなく、他人をケガさせたり死亡させたりした場合に備える補償(賠償責任保険)や、車の修理費に対する補償(車両保険)などが含まれており、幅広いリスクをカバーできる特徴もあります。
自動車保険と生命保険の重複しやすい補償(保障)
生命保険と自動車保険の両方を契約していると、同一のリスクや事故に対して同種の保障(補償)が重複する可能性があります。重複しやすいポイントを把握したうえで、自分にとって必要な保障(補償)内容や保険金額を検討してみましょう。
人身傷害保険と死亡保険金・入院給付金
自動車保険の人身傷害保険と、生命保険の死亡保険金や入院給付金は重複する可能性があります。人身傷害保険は、契約中の自動車に搭乗中の人が、自動車事故によってケガ・死亡した場合に補償対象となる保険です。主に以下のような費用が補償対象になります。
- 治療費
- 休業損害
- 精神的損害
- 逸失利益
- 介護費用
- 葬儀費用
逸失利益とは、事故がなければ得られたはずの将来の利益のことです。生命保険でも事故が原因で死亡した場合や、入院・手術をした場合には、保険金・給付金が受け取れるため、補償が重複する可能性は高いでしょう。
なお、契約内容によっては、他の車に乗っている最中の自動車事故や歩行中の事故、自転車・電車等の交通乗用具での事故なども補償対象になる場合もあります。
人身傷害保険と災害割増特約・特定損傷特約
自動車保険の人身傷害保険と、生命保険の災害割増特約・傷害特約は補償が重複する可能性があります。
災害割増特約を付加すると、不慮の事故が原因で事故日から180日以内に死亡・所定の高度傷害状態に該当したときには、主契約の死亡・高度障害保険金に上乗せして災害死亡・災害高度傷害保険金が受け取れます。特定損傷特約は不慮の事故により、骨折や関節脱臼などの治療をした際に給付金が支払われる特約です。
これらの特約は、事故を原因とするケガ・死亡時に治療費や葬儀費用などが支払われる、自動車保険の人身傷害保険と重複する可能性が高いでしょう。
交通事故は生命保険・自動車保険どっちで備えるべき?
交通事故のリスクに備えるためには、生命保険と自動車保険の両方に加入しておいた方がよいでしょう。前述したように、生命保険と自動車保険には重複しやすい補償があります。なるべく合理的に保険に加入するなら、重複を避け保険料の負担を抑えたいと思うのは当然でしょう。これから自動車保険に加入する人は、契約中の生命保険の内容を考慮して、補償を少なくしても良いと思うかもしれません。
生命保険には、病気・ケガの両方が保障対象になるという大きな利点があります。しかし、生命保険は定額払いであるため、契約時に決めた金額や支払い日数を超えて給付金が支払われることはありません。
そのため、大きな交通事故に遭い、長期の治療が必要になった場合は、治療費や休業中の生活費などが大きく不足することもあります。また、契約内容によっては、死亡時またはケガによって治療が必要になった時のどちらか一方しか保障されないケースもあるでしょう。
その点、自動車保険の人身傷害保険では、治療費の実費や逸失利益、葬儀費用などが幅広く補償対象になります。さらに契約内容によっては、自分だけではなく家族や友人などの同乗者も対象になるため、十分な補償を受けられる可能性が高く、より大きな安心を得られるでしょう。
生命保険と自動車保険は保障(補償)内容に大きな違いがあるため、両方をバランスよく備えておくことが大切です。
交通事故を生命保険・自動車保険で備える際に把握しておくべきポイント
生命保険と自動車保険は、どちらも保障(補償)対象外になるケースがあります。以下を原因として支払い事由が発生した場合や、損害が発生した場合は基本的に保障対象外です。
- 故意
- 重大な過失
- 自殺行為
- 犯罪行為
- 闘争行為
- 無免許運転
- 飲酒運転
- 地震・噴火・津波
- 戦争
保険金の支払い対象外となった場合は、保険金や給付金を受け取れず、治療費を自己負担しなければなりません。あらかじめ約款やパンフレットなどで確認しておきましょう。
まとめ
交通事故に遭った際は、生命保険と自動車保険の両方から保険金が受け取れる可能性があります。
両方加入している場合は、一部補償が重複するケースもあるでしょう。しかし、生命保険は定額払いであるのに対し、自動車保険の人身傷害保険は基本的に実損払いです。また、保障(補償)内容にも大きな違いがあるため、交通事故のリスクに備えるためには両方の保険に加入しておくのが望ましいといえるでしょう。
東証一部上場企業で10年間サラリーマンを務める中、業務中の交通事故をきっかけに企業の福利厚生に興味を持ち、社会保障の勉強を始める。以降ファイナンシャルプランナーとして活動し、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間毎年約100件のセミナー講師なども務める。趣味はフィットネス。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信しています。 <保有資格>CFP