ドル建て生命保険に興味はあるものの、一般的な生命保険よりも仕組みが複雑に感じて、「本当に加入すべきなのか」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
ドル建て生命保険は為替リスクや手数料の高さなど考慮すべきポイントが多く、不安に感じるのも無理はありません。しかし、一般的な生命保険よりも高い利回りが期待できるなど、資産形成に役立つメリットもあります。
そこで本記事では、ドル建て生命保険の特徴や選び方などをわかりやすく解説します。
目次
ドル建て生命保険とは?
ドル建て生命保険は、保険料を米ドルや豪ドルなどの外国通貨で支払い、保険金や解約返戻金も同じ通貨で受け取る仕組みの生命保険です。これに対して、日本円で保険料を支払い、保険金も円で受け取る一般的な生命保険は「円建て生命保険」と呼ばれます。
詳しくは後述しますが、ドル建て保険の大きな特徴は、為替相場の変動による影響を受ける点です。円に比べてドルの金利が高い状況が続いていることもあり、資産運用の手段として人気が高まっています。
ドル建て生命保険の種類
ドル建て生命保険は大きく以下の3種類に分けられます。
- ドル建て終身保険
- ドル建て養老保険
- ドル建て個人年金保険
いずれも、保険料を定期的に(毎月、毎年など)支払う「平準払い」と、一度にまとめて支払う「一時払い」の商品があります。
それぞれについて、以下で詳しくみていきましょう。
保障が一生涯続く「ドル建て終身保険」
ドル建て終身保険は、一生涯にわたって保障が続く保険です。万一、被保険者が亡くなったり高度障害状態になったりしたときには、家族に死亡保険金や高度障害保険金が支払われます。
葬儀費用を準備するために加入するケースが多くなっていますが、解約して解約返戻金を受け取ることも可能です。保険料の払い込みを終えた後は解約返戻率が100%を超える商品もあり、貯蓄の手段としても活用されることが多くなっています。
満期保険金がある「ドル建て養老保険」
ドル建て養老保険は、死亡時には死亡保険金が、満期まで生きていれば同じ金額の満期保険金が支払われる保険です。例えば、10年や20年、または「60歳まで」「70歳まで」といった期間を設定して加入します。
貯蓄と保険の両方の機能があるため、人生の節目で必要となる大きな出費に向けて計画的に準備しつつ、万一のリスクに対しても備えておきたい人に向いている保険です。
老後資金に備える「ドル建て個人年金保険」
ドル建て個人年金保険は、一定期間保険料を支払った後、決められた期間または一生涯にわたって年金を受け取れる保険です。主に老後の生活資金を確保する目的で活用されます。
保険料を支払っている途中で万一のことがあった場合には、払い込み保険料相当額が死亡保険金として支払われます。保険料の払い込み方法や受け取る年金は、ドルまたは円のどちらかを選べるのが一般的です。
ドル建て生命保険3つのメリット
ドル建て生命保険は、米ドルや豪ドルなどの外貨で運用されるため、円建ての保険とは異なるメリットがあります。
保険金や解約返戻金の増加に期待できる
ドル建て生命保険は、ドルで運用されるため、保険金が為替相場の影響を受けて変動します。
例えば、保険金額1万ドルのドル建て養老保険に加入し、100万円分の保険料を払い込んで満期を迎えたとしましょう。1ドル=100円のときに満期保険金を受け取った場合は、払い込み保険料と同額の満期保険金しか受け取れません。しかし、1ドル=150円になったタイミングで満期を迎えた場合、円換算した満期保険金は150万円になり、より多くのお金を受け取れます。
このように、保険金を受け取る際に保険料を支払ったときよりも円安が進んでいれば、受け取る金額が増える可能性があります。ただし、反対に円高が進むと、受け取る額が減るリスクもあるため、注意が必要です。
生命保険料控除を活用できる
ドル建て生命保険も円建て生命保険と同様に、生命保険料控除の対象です。
生命保険料控除とは、1年間に支払った保険料に応じて、所得から控除を受けられる制度です。年末調整や確定申告で生命保険料控除を適用すると、所得が減り、所得税や住民税の負担軽減につながります。
生命保険料控除には、一般生命保険料控除・介護医療保険料控除・個人年金保険料控除の3つの控除枠があり、それぞれ最大で所得税は4万円、住民税は2.8万円の控除を受けられます(※)。
※契約日が2012年1月1日以降の契約を対象とする「新制度」の場合、3つの控除枠合計で最大所得税12万円、住民税7万円の控除が可能
生命保険は長期間の契約になることが多いため、長い目でみれば節税のメリットも大きくなるでしょう。
資産分散につながる
ドル建て生命保険は、資産を外貨で保有できるため、資産の分散に役立ちます。例えば、日本国内でインフレが進み円の価値が下がった場合、円で持っている資産は目減りしてしまいます。しかし、ドルで運用されている資産は、その影響を受けにくくなるでしょう。
ドル建て生命保険3つのデメリット
ドル建て生命保険には多くのメリットがあるものの、注意すべきデメリットも存在します。ここでは、代表的な3つのデメリットについて説明します。
元本割れするリスクがある
ドル建て生命保険は、為替相場の変動によって元本割れするリスクがあります。例えば、満期を迎えると10万ドルの満期保険金が受け取れる保険に加入した場合、満期時の為替レートが1ドル=100円であれば、円換算の保険金額は1,000万円です。仮に保険料を900万円払い込んでいた場合は、100万円分の収益を得たことになります。
しかし、満期時の為替レートが1ドル=80円になっていた場合、円換算の保険金額は800万円です。つまり、受け取る保険金額が払い込んだ保険料を下回る(元本割れ)ことになります。
為替の動き次第では、期待を下回る金額しか受け取れないケースもあるため、注意が必要です。
商品の仕組みがわかりにくいことがある
ドル建て生命保険は、為替リスクや手数料の仕組みが複雑であるため、慣れていない人にはわかりにくく感じるでしょう。
生命保険協会によると、毎年1,000件以上の外貨建て保険・年金に関する苦情が報告されています。苦情発生率は減少傾向にあるものの、苦情は毎年発生しています。
以下は主な苦情内容です。
・外貨建て保険に加入した。契約時、担当者からは元本保証があるといわれたが、実際には為替リスクがあり、元本割れする可能性のある保険であった。
・銀行で外貨建ての金融商品を希望し、外貨建ての生命保険を勧められ加入したが、解約時の市場価格調整について十分な説明がなかった。
・数年前に外貨預金をしている銀行の窓口で外貨建て保険に加入した。外貨預金から外貨を引き出して外貨のまま保険料として支払って加入したものと理解していたが、円に戻して円で保険料を支払っていたことがわかった。契約をなかったものとして貰いたい。
事前に商品の仕組みを十分に理解しないと、予想外の結果になることもあるため、慎重に検討する必要があります。
見直しがしにくい
ドル建て生命保険は貯蓄型の商品が多く、見直しが難しいというデメリットがあります。
例えば、掛け捨てタイプの定期保険であれば、子供の成長や家族構成の変化に応じて保障額を増減させたり、保険の内容を柔軟に変更したりすることが可能です。
しかし、ドル建て生命保険のような貯蓄型の保険では、途中で解約すると元本割れするリスクが高いため、見直しに抵抗を感じることもあるでしょう。
ドル建て生命保険を契約する際には、長期的な視点で加入プランを考えることが重要です。
ドル建て保険は円安時に入ってもいい?
為替レートの状況だけで判断せず、ライフプランや資産形成の目的に応じて、加入タイミングを考えることが大切です。
一般的には、円安時にドル建て保険に加入すると、保険料を円に換算した際の負担が大きくなるため、不利に感じることがあります。しかし、円で保険料を支払える商品を選べば、「ドルコスト平均法」を活用してリスクを軽減することが可能です。
ドルコスト平均法とは、定期的に一定額を投資し、購入時の価格を平均化する方法です。毎回同じ額の保険料を円で支払うことで、円高時には多くのドルを購入し、円安時には少ししか購入しないため、長期的にみると極端な高値で購入するリスクが減ります。
円安だからといって保険への加入を控えるべきとは限りません。重要なのは、加入する目的や必要性です。例えば、老後の資産形成や保障が今すぐ必要である場合は、円安かどうかにかかわらず、早めに加入すれば得られるメリットが大きくなることもあります。
ドル建て生命保険の選び方
ドル建て生命保険を選ぶ際は、以下のポイントを考慮することで、自身に適した商品を選べます。具体的なポイントについて、以下でみていきましょう。
手数料はどのくらいかかるか
手数料は、解約返戻金の支払い金額に影響するため、どのくらいかかるのか必ずチェックしておきましょう。一般的なドル建て生命保険で発生する手数料は、以下の3種類です。
保険関係費用 | 保険契約の維持や死亡保険金の最低保証をするためにかかる費用 |
解約控除 | 契約からの経過年数に応じて、解約時に発生する費用 |
為替手数料 | 保険金の受取時や、保険料の支払い時に、円とドルの両替に伴って発生する費用 |
これらの手数料は保険会社や商品ごとに異なるため、契約前にしっかり確認しましょう。
どんな払い込み方法を選択できるか
どんな払い込み方法を選択できるかも、ドル建て生命保険を選ぶ際の大きなポイントです。一般的に、保険料の払い込み方法には以下の4種類があります。
終身払い | 保険料を一生涯払い込む |
有期払い | 保険料を一定期間だけ払い込む |
全期前納払い | 保険期間中の保険料を保険会社に一旦全額預ける形で払い込む |
一時払い | 保険期間中の保険料を全額払い込む |
基本的に、終身払い、有期払い、全期前納払い、一時払いの順で払い込み保険料の総額は安くなります。一方で、払い込み期間を短くするほど、一度に支払う保険料の負担が重くなるため、家計の状況に合わせて払い込み方法を選択しましょう。
据え置きはできるか
「据え置き」とは、満期や解約で受け取る保険金をすぐに円に換金せず、そのままドルのままで保険会社に預けておける仕組みのことです。据え置き期間中は利息が付くことも多く、為替相場が円高の時期には、円安になるまで待ってから受け取れます。据え置きが可能な商品を選べば、為替リスクを最小限に抑えられるかもしれません。
市場価格調整はあるか
市場価格調整(MVA:Market Value Adjustment)とは、解約時に市場金利の変動を反映して、解約返戻金が増減する仕組みです。契約時よりも解約時に市場金利が上昇していると、解約返戻金が減少する可能性があります。反対に、解約時の市場金利が契約時よりも低い場合には、解約返戻金が増えることもあります。市場価格調整が適用されるかどうかは、契約前に必ず確認しておきましょう。
まとめ
ドル建て生命保険は、保険料や保険金を外貨でやり取りする生命保険です。為替差益やリスク分散の効果に期待できる一方で、解約のタイミングや為替レートによっては元本割れするリスクがあります。
また、為替リスクや手数料など、仕組みが複雑でわかりにくく感じることもあるかもしれません。ドル建て生命保険については、保障内容を十分理解したうえで加入を検討することをおすすめします。
東証一部上場企業で10年間サラリーマンを務める中、業務中の交通事故をきっかけに企業の福利厚生に興味を持ち、社会保障の勉強を始める。以降ファイナンシャルプランナーとして活動し、個人・法人のお金に関する相談、北海道のテレビ番組のコメンテーター、年間毎年約100件のセミナー講師なども務める。趣味はフィットネス。健康とお金、豊かなライフスタイルを実践・発信しています。 <保有資格>CFP