医療保険に入ろうと考えたとき、多くの人が悩むのが「もしものときにいくら受け取れる設定にしておけばいいの?」ということではないでしょうか。
この記事では「入院したら1日あたりいくらが妥当?」「一時金は5万円にすべき?10万円にすべき?」など金額設定に迷っている人に向けて、何をどう考えて決めればいいのか解説します。
入院にかかる費用の平均値や、他の人がどんな金額に設定しているのかもあわせて紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
医療保険では受け取る金額は自分で決める
医療保険では、最初に契約するときに、自分でもしものときに受け取れる金額を設定できるのが一般的です。
保険会社にもよりますが、たとえば入院したときに受け取れる金額として「1日あたり3,000円~2万円の範囲内で1,000円単位で設定可能」などとされているので、その中から自分の希望する金額を設定します。その後に入院したときには、実際にかかった費用にかかわらず、あらかじめ設定した金額を受け取れるしくみです。
自動車保険や火災保険では家や車の価値に応じた金額しか設定できず、事故でかかった費用分しか受け取れないので、それとは違うものだと認識しておきましょう。
できるだけ多くのお金を受け取れたほうが助かりますが、多く受け取れる設定にすればするほど保険料が高くなっていきます。「もしものときに受け取れるお金」と「そのために支払うお金」の適切なバランスを考えるのが難しく、悩んでしまう人が多いのです。
ここではまず、医療保険で「もしものときに受け取れるお金」にはどんな種類があるのか、設定した金額によってどれくらいの差が出てくるのか詳しく見ていきましょう。
医療保険で受け取れるお金
医療保険で受け取れるお金には、たとえば以下のようなものがあります。
医療保険商品の一例
【基本の給付金】
・入院給付金……入院1日につきいくら受け取れるか(入院日額)を設定
・手術給付金……「入院給付金日額の10倍」のように上記と連動している場合も
【特約(希望に応じて追加できるオプション)】※保険会社による差が大きい
・女性特約……女性特有の疾病のときは入院日額が2倍になる、というものが多い。
・先進医療特約……「最大2,000万円まででかかった費用を補償」がほとんど。
・ガン診断金特約……ガンと診断されたら一時金(まとまったお金)を受け取れる。50万円~200万円ほどの範囲内で選択できることが多い。
などです。
医療保険に日額をいくらにするのか、一時金や特約は必要なのか不要なのか、必要ならいくらに設定すればいいのかなど、その保険会社が用意している基本プランやオプションのそれぞれについて設定をどうすべきか考えることになります。
また、保険で受け取れるお金というと「保険金」と思いがちですが、これは死亡時など1回限りしか受け取れないお金を指します。医療保険の入院や手術などは一生涯で何度か経験する可能性があり、そのたびに受け取れるものですので、「保険金」ではなく「給付金」と呼ばれています。
こんなときいくらもらえる?給付金額シミュレーション
たとえば、入院日額を5,000円にしていた場合と1万円にしていた場合とでは、以下のような違いが出ます。
【例】ケガで2週間入院して手術を受けた場合
日額5,000円 | 日額1万円 | |
入院
(14日間) |
7万円 | 14万円 |
手術
(日額の10倍とした場合) |
5万円 | 10万円 |
合計
受け取り額 |
12万円 | 24万円 |
参考)毎月の保険料の例 | 2000円 | 3500円 |
受け取れる金額とそのために支払う保険料は、保険会社によっても違います。そのため、複数社で見積もりを取って比較検討してみるのがおすすめです。最近はインターネットでかんたんに試算できる保険会社も増えていますよ。
医療保険はいくらにすべき?判断のポイント
入院日額、一時金の金額、特約の有無など、医療保険に入るときに検討しなければならないことはいろいろあります。迷ったら、次のように考えてみましょう。
保険で用意すべき金額 = もしものときにかかる金額 - もらえる金額 - 用意できる金額
上記の式は、医療保険だけでなくあらゆる保険を検討するときに使える共通の考え方をあらわしたものです。
もしものときにかかる費用全額を、保険でまかなう必要はありません。かかる費用から、健康保険(公的医療保険)など社会保障でまかなえる分や自分の貯蓄でまかなえる分を引いて、どうしても埋め合わせできない分だけ保険に加入して補うようにしましょう。
そうすることで「保険料は安いけど、いざというときにお金が足りない」という事態も「保険でたくさん受け取れて安心だけど、保険料が高すぎて家計を圧迫している」という事態も防ぎやすくなります。
保険は基本的に、もしものときの経済的な大ダメージを防ぐために存在するものです。自力で乗り切れそうなら不要もしくは最小限だけにとどめるという判断もできます。
すでに加入済み!公的保障を考慮しよう
かかる費用の目安がイメージできたら、次は「もらえるお金」も意識してみましょう。日本ではすべての人が健康保険(公的な医療保険)に加入しています。民間の医療保険に自分で加入する前から、一定程度の備えがある状態になっているのです。
健康保険を使えば、医療費は原則3割負担になります。さらに一定額以上の自己負担が発生した場合には、国が上限を超えた分を支給してくれる「高額療養費」という制度も利用できます。69歳未満で一般的な年収の人なら、いくら医療費がかかったとしても最大で月9万円程度までに抑えられるでしょう。
会社員などの場合、ケガや病気で会社を休んでも有給休暇が使えたり、「傷病手当金」が受け取れたりすることもあります。傷病手当金は、最長1年6ヶ月にわたって給料の3分の2程度が受け取れるものです。
このように、医療を受ける必要が出てきたときに受け取れるお金や利用できる社会保障制度はいくつもあります。
入院したら実際いくら必要?
入院日額の設定について考えるなら、入院したらいくらくらい費用がかかるのか知っておくとよいでしょう。
生命保険文化センターが行った調査(令和元年度「生活保障に関する調査」)によれば、直近5年間に入院したことがある人は13.7%でした。
その人たちに「入院にかかった費用(入院時の自己負担費用)」と「入院したことで減った収入(逸失収入)」の合計額を聞いたところ、平均は約30万円となりました。これは、先述の「高額療養費」制度を利用したあとの数字です。「100万円以上」と答えた人も5.5%いましたが、半数近くは20万円未満におさまっています。
ちなみに、平均の入院日数は約29日です。30日で30万円かかると考えると、入院日額がよく「1日1万円」に設定されているのにも納得がいくかもしれませんね。もちろん「30万円でも、たとえ100万円でも貯金の範囲内で対応できそうだ」と感じたなら、医療保険は必要ないという判断もできるでしょう。
同じ金額でも、人によって捉え方は違います。その金額がいきなり必要になったら家計にどんな影響を及ぼすのか、保険でいくら入ってきたら危機的状況になるのを避けられるかじっくり考えてみましょう。
みんなはいくらに設定してる?医療保険の日額の平均値
保険で用意すべき金額が人によって違うのは先述のとおりですが、「普通はいくらくらい?」「他の人はどうしてるんだろう?」と気になる人もいるかもしれません。ここでは、入院日額の設定金額の平均値を見てみましょう。
・世帯主の入院日額の平均:9,800円
……最多回答:5,000円~7,000円(29.9%) 次点回答:1万円~1万5,000円未満(26.7%)
・配偶者の入院日額の平均:8,100円 ……最多回答:5,000円~7,000円(36.7%) 次点回答:1万円~1万5,000円未満(20.6%)
出典:生命保険文化センター(令和3年度「生命保険に関する全国実態調査」) |
年齢や年収などにもよりますが、基本的には「日額5,000円」か「日額1万円」を選択する人が多い傾向があります。
以下の記事では、より詳しく解説しています。
また医療保険の加入率に関して知りたい人は以下の記事を参照ください。
医療保険の金額が「少なくてもいい人」と「多いほうがいい人」
医療保険の金額設定は、家計の状況や自分の価値観と照らして判断するようにしましょう。ここでは、保険にあまり入らなくてもよい人としっかり入っておいたほうがいい人、それぞれの特徴をご紹介します。自分はどちらにあてはまりそうかチェックして、金額を検討するときの参考にしてみてくださいね。
医療保険が不要もしくは最小限でも問題ない人の特徴
民間の医療保険の必要性が低いのは、いざというときにかかる費用が少ない人、もらえる金額や利用できる制度が多い人、自力で用意できる金額が多い人です。具体的には、たとえば以下のような場合が挙げられます。
例)
- 独身もしくは共働き夫婦など、養っている家族がいない
- 普段の生活コストが低く抑えられている
- 先進医療や個室での入院など費用のかかる治療を望まない
- 大企業勤務などで、健康保険や会社独自の支援策が充実している
- 必要なときに自由に動かせる貯蓄が多い
これらの条件にあてはまっていたら、医療保険に入らない、もしくは最小限だけに絞っても後悔せずに済むかもしれません。保険料を抑えやすいので、その分を趣味・貯金・投資など使いたいところに回すこともできるでしょう。
医療保険を手厚く設定しておいたほうがいい人の特徴
医療保険にしっかり入っておいたほうがいいのは、上述の特徴と真逆の人です。つまり、いざというときにかかる費用が多い人、もらえる金額や利用できる制度が少ない人、自力で用意できる金額が少ない人です。
例)
- 一家の家計を支えている、養っている家族が多い
- 小さい子どもや介護を要する親などがいて、自分が入院したとき家政婦やヘルパーを雇う必要がある
- 普段の生活コストが高い
- できるだけ高度な医療を受けたり快適な入院生活を送ったりしたい
- 自営業やフリーランスなどで、社会保障が手薄で会社に頼れない
- 貯蓄が少なく、急に数十万円~数百万円単位のお金を動かすのが難しい
上記のような条件に該当していたら、多少保険料が上がったとしても、手厚めに保険を用意しておくのが無難かもしれません。最初はしっかり入っておいて、子どもが独立したり転職したり貯蓄が増えたり何か環境が変化したら、見直して内容を削って保険料を抑えるというのも1つの方法です。
まとめ:保険料とのバランスも考えつつ、自分に合った保険金額を設定しよう
医療保険の入院日額は、5,000円もしくは1万円に設定する人が多いです。ただ、適切な金額設定はその人の価値観や家計状況などによっても違います。
多く受け取りやすい設定にすると、そのぶん保険料が高くなります。その出来事が起きた場合にいくらくらいかかりそうなのか、社会保障制度をどの程度利用できそうなのか、自力で乗り切れそうなのか考えて検討してみましょう。
難しいお金の話を、ファイナンシャルプランナー技能士や保険・金融商品の専門家が忖度なし「ホンネ」でわかりやすく伝えます。