人生100年時代、長い人生においてリスクはつきものです。
よりよく生きる上で健康、人間関係、生きがいなどが重要でありますが、誰しもお金についても現代社会では向き合っていかなければいけません。
この記事では人生のお金にまつわるリスクについて解説していいきます。これから保険や資産計画をたてる人も、現状を見直したい人も今一度各リスクと対応方法について確認してみてください。
目次
人生における大きなリスクとその対処方法に対する考え方
お金が関わる人生のリスクとしては以下などがあります。
- 死亡のリスク
- 病気・ケガのリスク
- 働けないリスク
- 障害が残るリスク
- 老後・長生きのリスク
- 介護・介護費のリスク
お金に関わるリスクに対しての考え方として
- 起きる可能性が高いか低いか
- 公的保障も踏まえて、起きた時の影響が大きいか小さいか
という2つの観点で考えてみた上で、その対応方法を考えることが効果的です。
まず「多くの人にとって起こりうる可能性があるもの」は民間の保険は機能しづらいので、貯蓄などによる自己防衛が基本になります。
一方で「起きる可能性が低いが、起きてしまったときの影響が大きく公的制度による保障では不十分なリスク」に関しては民間の保険を検討することも自分や家族の生活を守る方法となります。
死亡に伴うリスクに備える
死亡した際に、特に働いて家計を支えている方が亡くなった際の家族の生活費や子どもの教育資金などのリスクは大きなものになります。
リスクの種類としては「起きる確率は低いが、起きた際の影響が大きなものになる」ので、家族がいる場合には民間の保険加入も含めて検討するのがいいでしょう。
厚生労働省「簡易生命表(令和2年)」では年齢ごとにその年齢で死亡した確率は以下のように発表されています。
男性 | 女性 | |
30歳 | 0.05% | 0.03% |
40歳 | 0.09% | 0.06% |
50歳 | 0.25% | 0.15% |
60歳 | 0.62% | 0.28% |
働きざかりの25歳~49歳の間の各年齢で亡くなる男性の確率を足し上げると2.41%、50歳から64歳で亡くなる男性の確率を足し上げると7.71%となります。
決して高い確率ではないですが、もし起こってしまった際の影響は大きなものになるでしょう。
死亡した際の公的保障にはどのようなものがあるのでしょうか。「遺族年金」と労働や通勤であれば「労災保険の遺族(保障)給付」などがあります。
遺族年金は自営業が加入する国民年金(遺族基礎年金)か会社員が加入する厚生年金(遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方を受給)によって保証額は変わります。遺族基礎年金は家族構成によって、遺族厚生年金部分は報酬・加入期間によって保険料は支給額が変わります。以下は一定の条件下での支給額の目安となります。
家族構成 | 自営業の年間支給額
(遺族基礎年金のみ) |
会社員・公務員の年間支給額
(遺族基礎年金+遺族厚生年金。平均報酬月額約35万円、加入300か月換算で概算) |
配偶者のみ | なし | 571,000円 ※加入期間によって変動 |
配偶者+子供1人 | 1,001,600円
※777,800円+第1子223,800円 |
1,572,600円
※遺族基礎年金+571,000円 |
配偶者+子供2人 | 1,225,400円
※第2子は223,800円分を支給 |
1,796,400円
※遺族基礎年金+571,000円 |
配偶者+子供3人 | 1,300,000円
※第3子は74,600円分をの支給 |
1,871,000円
※遺族基礎年金+571,000円 |
子ども1人 | 777,800円 | 1,343,600円
※遺族基礎年金+571,000円 |
子ども2人 | 1,001,600円 | 1,572,600円
※遺族基礎年金+571,000円 |
遺族年金は家族構成や職業によっても異なります。
どの程度の金額が足りないかは以下の式で算出できます。
足りない保障金額=(必要な生活費 - 遺族年金 - 労働収入)×必要な年数
家族に必要な生活費が年間420万円(月々35万円)、遺族年金が約150万円、労働収入が年200万円(手取)、これが40歳から65歳までの25年間続く時には年間の不足分が420-150-200=70万円、それが25年続くとすると70万円×25年=1750万円という計算になります。
まずは自分の家計の場合にはいくら必要かを考えるのが重要です。
いくら必要かを試算できたら次に死亡リスクに備える方法を考えます。
死亡リスクに備える方法としては民間保険である「生命保険(死亡保険)」や「収入保障保険」、「貯蓄・資産形成で備える」といった方法があります。特に若くして家族をもつ場合には多くの人にとって民間の保険も含めて検討するのが無難でしょう。
これらの方法について具体的に知りたい人は以下の記事の該当項目を参照ください。
病気・ケガのリスクに備える
日本の医療制度は世界の中でも手厚いものです。まず日本では全国民が公的医療保険に加入しているため、医療費の自己負担額は1~3割ですみます。
また会社員・公務員であれば
- 月々の健康保険料の半分は勤め先が負担(保険料は半分のみ自己負担。さらに医療費は税金も投入して補填)
- 月々の医療費の上限を超えた場合は支払不要(高額療養費制度)
- 働けない期間も給与の約3分の2が通算1年半支給される(傷病手当金)
など公的な医療制度が充実しています(自絵業の方は対象外)。そのため病気やケガで何かあった際の負担は一定レベルに抑えられます。
実際に病気にかかった際にお金はどの程度かかるのか、もっと詳しく知りたい方は以下の記事を参照ください。
民間の医療保険は入院の際に1日あたり5000円~1万円程度が支給、手術の際にも一時金が支給というものが多いです。最近では入院が短期化する傾向にあり、診断がなされた時点で一時金が支給されるものも増えています。
つまり、医療保険の保険金を受け取る場合は数万円から数十万円である事が多いでしょう。
医療費はリスクの中でも「多くの人に高い確率で起こりえるが、影響が比較的小さいリスク」に分類されます。
「数十万円の医療費の支払」というリスクはまずは貯蓄によってカバーすることが重要でしょう。
その上で、以下の人は医療保険の必要性が比較的高いといえるかもしれません。
- 公的保障が薄い自営業・フリーランスの方
- がんなどの治療が長期化した場合に備えたい方
- 若く貯金がなく入院した際に医療費が払えない可能性がある方
また病気・ケガに伴う「医療費の支払」ではなく「治療のために働けない期間の生活費」のリスクに備えたい場合は、医療保険よりも就業不能保険を検討するほうがいいでしょう。詳細は以下の記事を確認ください。
病気やケガによるリスクは、リスクの種類としては「多くの人に起きる確率が高いため大数の法則である民間の保険による保障が機能しづらく、また起きた際の影響が深刻に大きなものではない」ので、貯蓄等で自己防衛をする事がまずは重要です。それでも自営業であったり、がんなどの長引く治療に備えたい方は検討してみるのもいいでしょう。
働けないリスクに備える
病気やケガが理由で働けない時には、会社員や公務員が加入する健康保険では「傷病手当金」として年収の約3分の2が通算1年半支給されます。
厚生労働省によると傷病手当支給の件数は平成20年度が154万件に対して平成29年度には年間187万件と増加傾向にあります。内訳としては「精神および行動の障害」が約31%、がんが約18%となります。特に若い人では20代は50%以上が精神疾患となります。(出典:全国健康保険協会、現金給付受給者状況調査(平成30年度)
働けない理由が「失業」によるものである場合は「雇用保険からの求職者給付(基本手当)」が支給されます。より詳しく知りたい人は以下の記事を参照ください。
病気やケガが理由で在職中だが一定期間働けていない場合は「健康保険からの傷病手当金」の支給があります。
病気やケガで、その状態が続く、つまり障害にあたるとされた場合は「年金保険から障害年金」が支給されます。障害年金について詳しく知りたい方は以下の記事を参照ください。
上記の公的保障は基本的に会社員のほうがあついものになります。特に自営業の方やその家族に対して公的保障だけでは十分とはいえないでしょう。
公的保障も一定程度ありますが、それだけでは心もとない場合は、民間の保険として就業不能保険を検討するのもひとつの方法です。詳細は以下の記事をご覧ください。
働けないリスクは、リスクの種類としては「多くの人に起きる確率は比較的低く、また起きた際の影響がすぐに深刻に大きな影響を与えるものではない」ので、公的保障を活用するとともにまずは貯蓄等で自己防衛をする事が重要です。それでも不安な場合や追加での備えをしておきたい場合は、民間の就業不能保険に加入するのも一つの方法です。
障がいが残った際のリスクに備える
厚生年金保険・国民年金事業年報によると、障害年金を受給している人は令和2年3月時点で約216万人、人口の約1.7%になります。
内閣府が発表した令和2年に障害の数とその内訳の推計数値が以下になります。いずれの障がい者も増加傾向にあります。
- 身体障害者(身体障害児を含む)約436万人
- 知的障害者(知的障害児を含む)約109万人
- 精神障害者 約419万人
なお上記の「身体障害者」・「知的障害者」・「精神障害者」の数は、厚生労働省による「生活のしづらさなどに関する調査」、「社会福祉施設等調査」、「患者調査」等に基づき推計された数値を内閣府が発表しています。
障害が残ってしまった際の公的保障としては大きくは以下の2つが大きなものになります。
①障害年金としての「障害給付」「障害手当金」「障害年金 生活者支援給付金」
②業務中・通勤中の事故・理由等によるものであれば労災保険としての「障害補償給付・障害給付」「障害特別支給金」「障害特別年金・障害特別一時金」
障害年金の支給額は以下の2つによって変化します。
①自営業者・フリーランス・無職の人が加入する「国民年金」か会社員や公務員が加入する「厚生年金」か
②障害の程度・等級
以下はこれらをまとめた表になります。
障害等級 | 自営業(障害基礎年金) | 会社員(障害基礎年金と障害厚生年金の合算金額) ※1 |
1級 | 年額約97万円 + 子どもの加算 | 年額約192万円 |
2級 | 年額約78万円 + 子どもの加算 | 年額約154万円 |
3級 | なし | 年額約76万円 |
※1:収入によって障害厚生年金部分は変動。以下は標準報酬月額35万円加入25年の場合。障害厚生年金はさらに配偶者がいる場合は年額で約22万円が加算。
なお障害の対象となる病気やケガには
- 外部障害(眼、聴覚、手足の障害など)
- 精神障害(統合失調症、うつ病、認知障害など)
- 内部障害(呼吸器疾患、心疾患、腎疾患、肝疾患、血液・造血器疾患、糖尿病、がんなど)
などがあります。
各等級の障害認定基準としては以下が目安になります。
1級:他人の介助を受けなければ日常生活を贈る事ができない
2級:必ずしも他人の介助を必要としないが、日常生活を送ることが困難で労働での収入を得られない
3級、労働が著しい制限を受ける
家族から見た際に、公的保障として、死亡の際は遺族年金があります。障害をおってしまったときは本人の生活費に加えて介護なども発生するケースもあり、起きてしまった際にお金・生活費としてあたえるインパクトは死亡時よりも重度の障害をもってしまったときのほうが大きいと言えるかもしれません。多くの割合の世帯で家計収支がマイナスになってしまう可能性があります。
それでは障害が残ってしまったときのリスクにはどのように備えるのがいいでしょうか。
貯蓄・資産形成によってリスクに備えることもできなくはありませんが、障害をもって生き続ける期間を考えると大きな金額が必要となるので、大多数の人にとっては十分な金額を貯蓄するのは容易なことではないでしょう。
障害をもった際のリスクに備える民間の保険として「生命保険の高度障害保険金」「就業不能保険」などがあります。
障害が残った際の公的保障制度とリスクに備える方法の詳細は以下の記事を参照ください。
障害が残るリスクは、リスクの種類としては「起きる確率は低いが、起きた際の影響が大きなものになる」ので、家族がいる場合には民間の保険加入も含めて検討するのがいいでしょう。
老後・長生きのリスクに備える
令和元年簡易生命表によると男性の平均寿命は81.41歳、女性の平均寿命は87.45歳です。90歳まで生きると見込まれているのは男性の約4人に1人、女性は2人に1人と言われています。
総務省「家計調査(2018年)」によると、高齢夫婦無職世帯の家計において、支出は平均約26.5万円となります。それに対して収入は22.3万円となり、月々約4万円が不足しています。高齢単身無職世帯では支出が約15.2万円となり、収入12.3万円に対して約2.9万円が不足しています。
加えて生命保険文化センターの調査によると「ゆとりある老後生活費」の平均金額は夫婦で36.1万円となります。22.3万円の収入に対しての差額は13.8万円となります。
平均値をベースとした単純な計算ですが必要な金額を試算すると以下になります。
◆平均的な不足金額4万円で計算した場合
65歳から80歳までに必要な金額が720万円、90歳まで続けば1200万円
◆ゆとりある生活に向けた不足金額13.8万円で計算した場合
65歳から80歳までに必要な金額が2484万円、90歳まで続けば4140万円
なおこれらの費用とは別に人によってはローン残高・子供の結婚費用や住宅購入資金の援助、住宅のリフォーム、介護費などが必要になります。
これらの費用に対して老後の収入の柱となるのが年金です。日本の老齢年金制度は3階建てと例えられることが多いです。「老齢基礎年金(国民年金)」として全国民が加入する1階部分の国民年金と、それに上乗せする形で会社員や公務員が加入する2階部分の「老齢厚生年金」があります。厚生年金は報酬によって年金の納付額もまた支給額も変動します。さらに3階部分として「私的年金」として積み増しできる企業年金や個人型確定拠出年金等(iDeCo)があります。
まずは「老後に必要な不足金額の総額」と「その金額を貯めるための期間と月々の貯蓄額」について具体的に考えてみましょう。
仮に1200万円を40歳から60歳の20年間で貯めるとすると、1年あたり60万円、月々の貯蓄額は5000円が目安となります。また同金額の1年60万円を運用し続けた場合、年利2%で20年間運用した場合は約1450万円になります。貯蓄とともに資産運用をするのも長期では有効といえるでしょう。
公的年金以外で老後の長生きリスクに備えるにはどのような方法があるのでしょうか。
具体的には
- 個人型確定拠出年金(iDeCo)
- 投資(NISAの活用)
- 財形年金貯蓄
- 個人年金保険
などがあります。
その中でも個人型確定拠出年金(iDeCo)は、60歳以降に受け取れる金額を掛け金として積み立て、税制優遇を受けられる制度です。掛け金に上限はあるものの、積立金が所得控除の対象となり、運用益も非課税、受け取り時の税負担も軽減されるなど、かなり資産形成において有利な座組みなので、必ず使ったほうがいいでしょう。
個人型確定拠出年金(iDeCo)の掛け金を捻出した上で、まだ余裕資金がある人はNISAやつみたてNISAの制度を活用した資産運用や貯蓄、個人年金保険を検討するという選択肢もあります。
年金制度や老後に備える方法について詳しく知りたい方は以下の記事を参照ください。
老後や長生きのリスクは、リスクの種類としては「多くの人に起きる確率が高いため大数の法則である民間の保険による保障が機能しづらく、また起きた際の影響が深刻に大きなものではない」ものなので、公的保障を活用するとともに貯蓄等で自己防衛をする事が重要です。
介護費のリスクに備える
男女ともに平均寿命が81歳を超えてきていますが、厚生労働省および総務省によると、80~84歳までの人は25.9%、85歳以上の人は59.8%が要支援もしくは要介護状態とされています(参考:厚生労働省「介護給付費等実態統計月報(令和4年3月審査分)」/総務省「人口推計月報 令和4年8月報」)。
介護保険適用外の費用も含めた介護費はどの程度かかるのでしょうか。
・介護期間:平均は61.1ヵ月(約5年1か月)、4年を超えて介護する人は約5割、10年以上の人は17%。年々増加傾向。
・月々の費用:平均8万3,000円。10万円以上かかると答えた人は31.6%
・一時的な費用:平均74万円(介護用に自宅のリフォームやベッドなどの購入)
となっており、平均値から算出する介護費の合計は約581万円(=61.1ヵ月×83,000円+740,000円)となります。
介護期間が平均の倍である10年以上の人は17%、その場合は介護費が1000万円以上かかっているケースも多いでしょう。
日本の介護保険制度のもとでは、原則65歳以上の要介護認定を受けた人が、利用料の1部を支払うことで介護サービスを受けられます。介護保険制度によって自分や家族の介護に関わるお金のリスク・負担は一定レベルにおさえられています(十分とはいえないですが)。
それでも平均約580万円、人によってはそれ以上かかる介護費をどのように備えておけばよいのでしょうか。
介護費の備えは、貯蓄によって備えるのが基本です。そもそも介護費用のすべてを民間の介護保険でまかなうとしたらな月々かなりの保険料になってしまいます。保険料の支払で貯蓄が進まないのは本末転倒でしょう。
節約や投資による貯蓄・資産形成に興味がある人は以下の記事を参照ください。
民間の介護保険・介護特約を検討するのであれば「貯蓄の上乗せ分として、民間の介護保険・特約を必要に応じて検討する」という程度が現時点ではいいでしょう。
介護保険制度について詳しく知りたい方は以下の記事を参照ください。
民間の保険による介護保険や商品について詳しく知りたい方は以下の記事を参照ください。
介護費のリスクは、リスクの種類としては「多くの人に起きる確率が高いため大数の法則である民間の保険による保障が機能しづらく、また起きた際の影響が深刻に大きなものではない」ものなので、公的保障を活用するとともに貯蓄等で自己防衛をする事が重要です。
難しいお金の話を、ファイナンシャルプランナー技能士や保険・金融商品の専門家が忖度なし「ホンネ」でわかりやすく伝えます。